国産パブリッククラウド「ニフクラ」を提供する富士通クラウドテクノロジーズが、新体制となって3年目の半ばを迎えた。グローバルのメガクラウドが一層存在感を増す昨今だが、愛川義政社長はまったく動じていない。堅調に推移する業績、顧客やパートナーからの良い反応があるだけでなく、現場のエンジニアたちが毎日のように優れた機能を生み出す様を目の当たりにしているからだ。そして愛川社長は、グループや競合の枠を超え、国産クラウドに携わる人々が集う場を作ることが、事業の成長につながるという考えを強調する。
自社技術で推進する
運用の自動化と自律化
――社長に就任されてから2年半が経ちました。ニフクラのビジネスはどのように推移されましたか。
当初は、なぜ自分が社長になってしまったんだ、とんでもないものを背負ったなというのが本音でした(笑)。2017年度は売り上げは伸びましたが、営業損益はマイナスでした。もともとの計画に無理があったんです。ただ、前の会社(富士通九州システムズ)で8年間経営の仕事をさせてもらった中で、利益を出さない企業はダメなんだ、という思いは非常に強く抱いていました。利益を出せる企業は、お客様に評価され、市場に受け入れられている。利益を出せない会社は、投資ができないし、社員還元もできない。私の基本的なスタンスは「社員ファースト」ですが、利益がなければそれも実現できません。2年目の18年度は、おかげさまで想定以上の改善ができ、計画に対して倍以上の営業利益を出すことができました。
――この2年で、どのようなことに特に力を入れて取り組まれたのでしょうか。
以前からやっていたこととも重複はしますが、やはり品質の向上と運用の自動化です。クラウド運用のかなりの部分は自動化されており、ハードウェアが何かおかしいとなればすぐにアラートが上がり、基盤から自動的に切り離されるか、可能なものは自動で復旧する機能まで組み込んでいます。
また、富士通研究所のAI部隊も運用を支援してくれています。当社のエンジニアが属人的に運用している部分もまだ一部あるのですが、そのエンジニアの判断と、AIが分析ではじき出した結果がほぼ一致することが立証されました。ですので、今度はそのAIを組み込むことで、自動化から「自律化」へ進化しようとしています。こういう機能改善を、経営層が指示してやるのではなく、現場主導のボトムアップでできているのがニフクラの大きな強みです。自動化をしっかりやろうということになって、新入社員のエンジニアでも、監視・運用の中で気付いた点があれば、どんどん意見を出して業務を改善できる。「自分がこのクラウドを動かしているんだ」という意識が高まったことでモチベーションもアップし、2年目は離職が減りましたね。
――自動化・自律化範囲の拡大による効率化だけで、それだけ大きな業績改善が可能だったのでしょうか。
いえ、投資計画や調達コストは相当見直しましたね。投資というのは将来の収益を増やすためのものであると同時に、将来における負債にもなりかねない。費用についてはルール化をかなり進め、値引きや販売促進費についても、投じたお金がどれだけ効果に結びついたのかをきちんと検証するようにしました。
――エンジニアにのびのびと仕事をしてもらう環境を作るという点では、支出の厳正化はその妨げになりませんか。
新開発をやっちゃダメということではなく、コスト意識を高めるのが目的です。他社がやっているからうちもこの機能をやる、ではなく、目の前の商談を取るためにどうしても必要なのか、競合との差別化のために必要なのか、今は必要なくても未来に向けた準備として必要なのか、開発案件ごとに目的を明確化して、会社としてきちんとマネジメントする。ニフティ時代にはそこが少し甘かったんです。でも、みんなで営業黒字を達成しようとなったことで、結果的には品質も向上したと考えています。
グループ内外の販売
比率は50:50に
――17年4月時点では、富士通グループのクラウド戦略としては「K5」が中心にあり、ニフクラはどちらかというと傍流の位置付けだったように見えました。
というより、クラウド戦略の中には位置付けられていませんでしたね(笑)。ただ、今は日本企業のお客様の課題にフィットするクラウドという認知はグループ内でも広がり、富士通の販売チャネルを通じた販売と、それ以外の比率はほぼ50:50です。
――逆に御社の中では、富士通の法人事業とがっちり組むことへの抵抗感はなかったのでしょうか。
17年度は相当ありましたよ。そのタイミングで会社を離れた社員もいます。私は富士通本体の出身ではないとはいえ、誰か分からないような社長がやってきて、完全に富士通に吸収されるんじゃないかと現場は思いますよね。ただ、社内外、富士通本体に対しても「うちはベンチャーです」と説明しています。給与体系や人事評価も富士通とは全然違います。制度やカルチャーを本体と統合したら、当社からエンジニアはいなくなります。富士通本体にも、この考え方は理解してもらっています。
認知度が高かった「ニフティ」から「富士通クラウドテクノロジーズ」に社名が変わったことで、人を採用できるかも不安でしたが、おかげさまで業界でも技術力が認められ、昨年は20人、今年は30人くらいの社員が新しく入ってきてくれています。インターンシップも、何人もお断りしなければいけないくらいたくさん来てもらってます。ありがたいことに、当社の雰囲気がいいと認めてもらえていて、うちのエンジニアとコミュニケーションしたいという。
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