組み込みソフトや制御に強みを持つYE DIGITALは、工場デジタライゼーションの分野でAIや画像処理、エッジコンピューティングなどの独自商材の開発に力を入れている。安川電機をルーツに持つ同社は、FAや産業ロボットの技術も動員し、製造業ユーザーのデジタル変革を推進する戦略を展開。就労人口が減少していく中で生産性を維持するには、最新のデジタル技術を駆使した自動化が欠かせない。今年3月に安川情報システムからYE DIGITALに社名を変えたのも、デジタルを成長の原動力にすることをより明確にするためだ。独自商材のグローバル展開も視野に入れる遠藤直人社長に話を聞いた。
SIビジネスの転換点にきている
――今年3月、創業から40年来の社名である「安川情報システム」を「YE DIGITAL」に変えました。企業が看板を変えるというのは、変化への強い意志の現れだと思いますが、どのような思いが込められているのでしょうか。
安川電機グループとして成長してきた強みを生かしつつ、新しいデジタル領域へ果敢に進出していくという思いを「YE DIGITAL」に込めました。「YE」は安川電機の英語社名の頭文字をとったものです。
――新しいデジタル領域とは、具体的にどのような領域でしょうか。
デジタルに求められていることの一つが自動化、AI活用だと考えています。クルマの自動運転もそうですし、工場やオフィスでもAI技術の発展によって自動化可能な領域が広がっています。安川電機は1970年代に国内初の電動式産業用ロボットを開発したメーカーであり、ロボットを使った自動化という点で秀でている。当社も組み込みソフトや制御技術が強み。そうした背景からソフトウェアとハードウェアが融合したデジタル領域を重視しています。
就労人口の減少が続くなか、これまで人手でやっていたものを自動化したり、業務そのものを抜本的に見直さなければ、今の生産性を維持するのが難しくなります。昨今では業務のみならず、本業であるビジネスそのものを転換するデジタルトランスフォーメーション(DX)が提唱されています。SIerにとっては大きなビジネスチャンスであるとともに、顧客の新しいニーズに応えられないSIerは淘汰されていくことを意味しています。
――ソフトとハードが融合したデジタル領域の例を挙げるとしたら、どのようなものになりますか。
工場で不良品検査を自動化するシステムでは、エッジ端末を使って遅延なく商品の外観を検査する点が評価され、食品工場からの引き合いが特に強い。食品工場は、一つの生産ラインでさまざまな種類の食品を生産することが多く、生産する食品を切り替えたときに不良品検査のシステムが対応できず、結局は人の目視による検査に頼らざるを得なかった部分があるのです。そこで、当社は生産物の差異をAIに学習させ、生産ラインに流れてくる食品の種類が変わっても対応できるようにしました。
エッジ端末はハードウェアであり、AIはクラウドなどの汎用的な基盤を使ったソフトウェアです。エッジ端末によるハードウェア処理はリアルタイム性で優れていますが、やれることが限られる。当社が独自に開発したAIソフトウェアと融合させることで、同じハードウェアでも応用範囲がぐっと広がります。当社のAIは、エンジニアリングデータ分析技術や画像処理技術に長けており、とりわけFA装置のデータ処理に優れています。
少ない学習量で成果が大きいAI
――食品工場のどのようなシーンをイメージすればよろしいでしょうか。
分かりやすい例を挙げると、クッキーの製造ラインでは、焼き加減や割れ、欠けといった不良品を検査していますが、チョコ味とイチゴ味、バナナ味では色や形が違っていたりします。季節によって生産するクッキーの種類を変えることも多いのですが、検査項目は基本的に同じ。人間が見れば一目瞭然でも、自動化するとなると検査対象の外見の違いがネックになっていました。
当社では、まず標準的なクッキーの形をAIに学習させ、それをベースにチョコ味、イチゴ味など色や形の異なったクッキーの焦げや割れを高い精度で見つけられるようにしました。これによって、学習量を最小限に抑えながら、多品種生産を行っている生産ラインでの柔軟な対応が可能になりました。
今後は安川電機のロボットと連動して、不良判定されたクッキーを生産ラインから抜き取るところまで自動化させたい。自動車や半導体といった業種に強い安川電機のロボットですが、食品メーカー向けはまだこれからという面があります。ロボットの販売会社とも積極的に連携し、当社のエッジ端末・AIを融合させた商材と組み合わせた不良品検査の完全自動化を提案していきます。
――ほかにはどんな思いを「YE DIGITAL」の社名に込めたのでしょうか。
グローバル対応の強化です。社名を英語表記にしたのもグローバルを強く意識したからです。当社が強みとする組み込みソフトや制御技術は、言語や商慣習に影響されにくく、グローバル展開する余地は大きい。先の食品メーカー向けの不良品検査の仕組みもそうですし、画像認識技術の応用の幅を広げていくことで、国境を越えたビジネスをもっと伸ばしていくことも十分に可能です。
食品工場は、虫の混入を防ぐために消毒を行うのですが、虫の種類は場所や季節によって変わりますし、虫の種類によって使う消毒液も異なります。当社では侵入してきた虫を捕虫器で捉えてカメラで自動的に種類を識別。最適な消毒方法を選択するといったシステムを、防虫・防菌を手掛けるイカリ消毒と共同で開発しました。
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