法人向けITビジネス、とりわけ中堅中小企業向け市場で大きな存在感を放つ業界団体である日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の会長が13年ぶりに交代した。2006年から会長を務めてきた大塚商会の大塚裕司社長からバトンを受け継いだのは、ソフトクリエイトホールディングス(HD)の林宗治社長。クラウドの台頭に代表されるサービス化の進展やサブスクリプション型ビジネスの浸透などにより“販売”というプロセスそのものの価値が問われる中、どう協会を舵取りしていくのか。
販売店の価値を
真剣に考え直すべきとき
――お父上であるソフトクリエイトHDの林勝会長はJCSSA立ち上げ時の発起人メンバーの一人で、まさに協会設立の中心的な役割を担ったとうかがっています。林(宗治)会長ご自身も今回のJCSSA会長就任は宿命であるとおっしゃっていましたね。
そうですね。ただ、非常に大きなプレッシャーを感じている部分はありますよ。大塚裕司前会長(現名誉会長)は13年間務められ、会員数の拡大を含めてJCSSAを大きく成長させるという大変な功績を残されましたから。また、大塚前会長がトップを務める大塚商会という会社の格やパワーも際立っていますから、その後を引き継ぐことに不安がないといえばウソになります。
――しかし最終的には引き受ける決断をされたわけですが、その理由はなんだったんでしょうか。
JCSSAは「販売店」の協会という立場を取っていますが、実は会員のビジネスの実態は一度大きく変わっているんですね。当初はコンシューマー向けのパソコンショップ中心の協会だったのが、カメラ店系家電量販店が強くなったころから、みんな一斉にSIやシステム販売に変わっていった。そう考えると、発足当時から「システム販売店」と協会名に入れていたのは先見の明がありましたよね(笑)。これが一度目の大変革です。
そして現在、業界として二度目の大変革期を迎えていると思っているんです。みんながサブスクだ、クラウドだと言っている中で、販売店の価値って何だろうと真剣に考え直さなければならない時期にきている。協会としての新しい存在意義をつくるという観点で、自分がやるべきことを見出せたんです。
――モノの販売からサービス化へという流れは不可逆的にも見えますね。
ある日一斉に、「君たちはもう必要ない」とマーケットから宣告されてしまうなんていうことが起きてもおかしくないという危機感はあります。この変化を飛び越えるというのは、1社でできることじゃないですし、逆に1社だけそれができてもユーザーのためにはならない。JCSSA会員のような販売店の業界全体がこの変化に対応できてこそ、特に日本のSMBのデジタル変革は実現できると思っています。自社も含めた販売店の存続、そしてJCSSAが変わることの社会的意義の両方を考えて、会長職を引き受けたと言えます。
ビジネスモデルを転換する方向は見えてきた
――サブスクリプション型ビジネスで重要視されるのは顧客中心主義の考え方だったりしますが、法人向けIT市場でも、メーカーがユーザーへのダイレクトな価値訴求を強める動きは顕著になってきていると感じます。間接販売を担う販売店の立場からは、どうご覧になっているのでしょうか。
一部のメーカーには直販に舵を切る動きは確かに出ていますし、昔も今も直販中心でやっているメーカーもあります。しかし、ユーザーの立場で考えると、販売店の存在意義がなくなるとは思えません。中小企業には、多くのクラウドサービスを片っ端から試して知見を蓄積しているクラウドの専門家とか、クラウドソムリエみたいな人はなかなかいないわけですよ。ユーザーの課題解決やビジネスの成長に向けて“正しい”ソリューションを届けるのが、販売店がこれから担っていくべき役割だと考えています。セルフサービス型の商材もたくさん出てきていますが、それだけで企業の情報システムは完成しない。どれとどれを組み合わせるか、もしくはどの商品・サービスにどんな付加価値を乗せるかを提案してくれる存在が、ユーザーにとっても必要なんです。
――販売店にとっては大きなビジネスモデルの変革が求められることになりますね。
10月にJCSSAで米国西海岸に視察ツアーに行ってきたんですが、ビジネスモデルの変革に成功した現地の販売店の社長さんに話を聞くことができました。従来、ハードウェアの売上比率が50%を超えていたのが、今では5%未満になっているという販売店だったんですが、それでも売上高や利益はしっかり確保できている。クラウドの導入支援とインテグレーションをきちんとサービス化して、インフラのエンジニアもクラウド導入のプロフェッショナルサービスにスキルシフトすることで変革を成功させた事例を当事者から説明していただいて、すごく刺さりましたね。
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