IT販売を進化させるための
インフラをつくる
――国内の販売店がそうした変革に取り組むのをJCSSAとしてはどのように支援していくことになるのでしょうか。
協会の役割は、IT販売を進化させるためのインフラをつくることだと思っているんです。例えばクラウドサービスについて、サービスベンダー、販売店、ユーザー、それぞれの責任をどこで切り分けるかを標準化したいと考えています。売ったんだから販売店が全部責任を持てという考えも一部である一方で、クラウドは基本的にサービスですので、中身はどんどんアップデートされていく。だから中身に関してはサービスベンダーが担保しないといけない部分も大きい。責任範囲が明確でないと、ユーザーが不幸になってしまうんですね。困ったときにどこに泣きついたらいいのか分からない。今はその線引きもクラウドサービスによってバラバラなので、業界のスタンダードをある程度定めるべきだと思っています。
あとは売り上げ計上のタイミングや方法、値引きに対する考え方なども同様です。複数のサービスを使うユーザーは困っているし、ディストリビューターも販売店も管理が煩雑になり困っている。ある程度スタンダードを決めて標準化を進めることが、マーケットの活性化につながると考えています。
また、工事完了書とか、クラウド時代にあるまじき書類のやり取りなど、業界の慣習もシンプルなかたちでアップデートしていく必要があります。
――そうなると、JCSSAだけでなく、他の業界団体と連携した議論も必要になりそうです。
そうですね。業界団体同士はもちろん、経済産業省も含めて議論していきたいです。国もクラウドファーストを掲げていますから、そのための土台、インフラは当然一緒に作っていくべきだと思っています。
――協会運営をリードしていく上で、どんな目標を掲げておられますか。
会員企業をどれくらい増やすことができるかは重要なKPIだと考えていて、理事会などでもことあるごとに私から発信しています。現在会員数は約250社ですが、これを来年6月の総会までに300社までもっていきたいです。新しいクラウドサービスベンダーや、まだ入会していないハードウェアベンダーにも(賛助会員として)たくさん参加してもらいたいですね。彼らが販路を独力でイチからつくるのは大変ですが、JCSSAのコミュニティに加わることで、それも容易になるはずです。(正会員の)販売店もまだまだ増える余地があります。
――正会員として重点的に勧誘していくのはどんな企業になるんでしょうか。
JCSSAには、メガSIerにも当然入会してもらうべきだと考えているんですよ。SIerの業界団体としては情報サービス産業協会(JISA)という巨大な団体もありますが、JISAはあくまでもシステム開発にフォーカスしています。メガSIer側には、自分たちのビジネスは販売店とは違うという方もいらっしゃるんですが、販売の要素は間違いなくありますし、その部分では一緒に戦えるはず。一緒に土台をつくってほしいと思っていて、個別に勧誘活動を進めています。彼らが加わると、クラウド販売のインフラ作りをさらに加速させることができるはずです。
Favorite Goods
ワインエキスパートの資格を持つ林会長。15年前に友人から贈られたという老舗シャトー・ラギオールのソムリエナイフは日頃から手入れを欠かさない。「もっと便利なツールも出てきているが、伝統に対するリスペクトを喚起してくれる」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
宿命を背負い、業界の変革をリードする
今年6月に、実父であるソフトクリエイトホールディングスの林勝会長が立ち上げを主導した日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の5代目会長に就任した。これを宿命であると受け止めているという。
JCSSAの正会員であるIT販売店を取り巻くビジネス環境は大きく変化している。それを乗り越えるために果たすべき役割があるという使命感が、会長就任の決断を後押しした。
「従来の販売店業界の課題はJCSSAによってかなりの部分解決された」と、大塚裕司前会長在任時までの協会の歴史に対するリスペクトは大きい。しかし、クラウドやサブスクリプション型ビジネスの浸透は、販売店のビジネスモデル変革を強く促しており、会員に新たな課題を投げかけている。
「JCSSAが役割を果たしたことで、最近は会員のみなさんも落ち着いてしまっているという印象があった。現実は新しい課題への対応が待ったなしの状況。積極的な議論を先頭に立って喚起していくのも私の役割だと思っている」
プロフィール
林 宗治
(はやし むねはる)
1974年、東京都生まれ。97年、学習院大学経済学部経営学科卒業。同年ソフトバンク入社。2000年、ソフトクリエイト取締役に就任。03年、常務取締役。05年、専務取締役。06年10月、代表取締役社長。ホールディングス制移行に伴い、現在はソフトクリエイトホールディングス代表取締役社長と事業会社としてのソフトクリエイトの代表取締役社長を兼務。19年6月から日本コンピュータシステム販売店協会の会長を務める
会社紹介
1991年12月にコンシューマー向けPC販売店を中心に7人の発起人メンバーが中心となり、会員15社で任意団体として発足。96年10月に社団法人として認可を得て活動を本格化。2011年4月には営利型一般社団法人に移行。正会員、賛助会員を合わせ会員数は約250社。今年6月、大塚裕司氏(大塚商会社長)から林宗治氏に会長は交代した。