「IoTの民主化」を掲げ2015年にサービスを開始して以来、毎年数多くのアップデートを繰り返してきたソラコム。2017年にはKDDIに買収されたことで同社の連結子会社に。5Gの正式サービス開始という通信業界でのビックイベントを控える今、キャリア傘下という立ち位置で次は何を目指すのか。玉川社長に聞いた。
挑戦者が挑戦できる
環境を作るため
――モバイル通信を中心に、IoTソリューションを実現するための数多くのサービスを展開しています。現在に至るまで、ソラコムの事業はどのように推移してきましたか。
振り返ってみると、当社が創業した2015年当時はIoTヘの期待値が高まり始めてきた時期でした。その意味では、私たちはIoTプラットフォームという新たなサービスのカテゴリーを、早い時期に確立することができたと自負しています。かつてIoTはエンドユーザーの手に届きにくいものでしたが、近年では具体的な製品やサービスに当社のプラットフォームを採用いただける事例が増えており、状況はずいぶん変わってきたと感じています。デジタルトランスフォーメーションという言葉がありますが、新たな事業やビジネスの変革にチャレンジしたいという企業を中心に、当社のプラットフォームを使いたいという方が多くなっています。
――IoT市場自体が盛り上がってきた一方で、ソラコムとしてはユーザー数拡大のため、これまでどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
IoTの“民主化”という切り口で、先端技術のハードルを下げることに注力してきました。IoTは一つのテクノロジーだけでは完成しません。通信だけでなく、データを集めるセンサー、貯めるクラウド、可視化するアプリケーションなど、複数の要素をそろえる必要があります。
正直、私たちもこの点に対する認識が甘い時期がありました。ソラコムは通信事業をベースとしていますが、IoT向けの通信サービスさえ提供すれば、クラウドとの接続やアプリケーションの準備は、ユーザーが自分でやってくれるだろうと考えていたのです。
――アマゾン ウェブ サービス(AWS)出身の玉川さんにとっては、クラウドはもはや空気のように当たり前の存在だったけれど、多くのユーザー企業にとってはそうではなかったと。
特に日本でハードウェアを事業の中心としてきた企業は、クラウドやアプリケーションのことは専門外です。そこで、自前のインフラを用意しなくてもデータを可視化できるダッシュボード作成サービス「SORACOM Lagoon」を月額980円という低価格で提供しています。類似のサービスはたくさんあるかと思いますが、初期費用で数十万円かかってしまうことが多い。それではクイックに試せないし、手軽に手を出せません。
デバイスも同様です。「データを簡単に送れます。可視化も手間がかかりません」という仕組みだけあっても、センサーがなければデータは当然集められません。大企業であれば、最小ロットが1000台であっても投資が可能かもしれませんが、そうでないユーザーはセンサーの調達で困ってしまう。私たちはマイコンと各種センサー、SIMカードなどをセットにしたスターターキットを1万5000円強で提供しています。センサーとマイコンをつなげれば、すぐにLagoonでデータを見られるのです。
――ソラコムの事業のコアは通信やクラウドですが、それらを使ってもらうためにも、デバイスまで含めトータルで提供している。
結果的に、通信サービスやソフトウェアだけでなくハードウェアも提供していますが、ひとえに、先ほどお話しした「ハードルを下げたい」という思いが中心にあるからです。今は、いろんなチームや個人がアイデアを当たり前のように持っている時代です。それをいかにスピード感を持って実現するかが、成功できるかどうかを分けます。パッションを持つ人たちが挑戦できる環境を整えたいと思っています。
地味な取り組みから創出する 使いやすさと価格体系
――現在では大手クラウド事業者や通信キャリアなど、さまざまな企業が「IoTプラットフォーム」と銘打つサービスを提供しています。ユーザーがソラコムのサービスを選ぶ理由はどこにあるのでしょうか。
他社のプラットフォームと私たちのプラットフォームは、似て非なるものだと考えています。これまで私たちは各国のキャリア一社一社と対話してグローバルに接続可能エリアを増やし、API経由での他社サービスとの連携も地道に取り組みつつ、それらをハードルの低い価格設定で提供してきました。一見地味ではありますが、こういった基礎的なところに他社との差を感じていただけているのではないでしょうか。これらはプラットフォームのベースとなる基本的な要素ですが、このビジネスモデルは、ちゃんとしたビジョンとポリシーがなければそう簡単に実行できるものではないとお分かりいただけると思います。
そして、これらに堅実に取り組んでいる競合というのは、残念ながらまだ存在しないのです。他人の轍をなぞるだけではなく、市場のニーズに合ったサービスを地道に提供できるかが重要になるのです。
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