KDDIグループの
イノベーティブ領域を担う
――2017年にKDDIに買収された際は大きく報じられ、話題になりました。先ほどのお話でいうと、大手通信キャリア・KDDIの力をもってしても、IoTプラットフォームの実現は難しかった。だからソラコムを傘下に入れたということでしょうか。
難しいというより、時間と手間がかかるからでしょうね。それだけ私達のビジネスを高く評価していただいたということではないでしょうか。
――KDDIグループ入りの後、何か変化はありましたか?
基本的にKDDIは「自分のビジネスを伸ばすために頑張ってくれ。必要なリソースは提供する」というスタンスで、現在でもソラコムのサービスは全て独自に開発しています。一方で、KDDIのセルラー通信が使えるようになっただけでなく、KDDIの中におけるイノベーティブな領域での関係は密になっています。
今年からは第5世代移動通信システム(5G)が始まりますが、ソラコムのクラウドネイティブなインフラで5Gをサポートしたり、MEC(Multi-access Edge Computing)で当社の技術を活用したりといったことを考えています。こういった先端分野でのKDDIとの連携こそミッションだと言え、共同研究を通じて積極的に進めていきます。
――ソラコム自身のIoTプラットフォームは今後どのようにアップデートさせていきますか。
通信とクラウドをつなぐ部分の進化は継続していきます。今年の5Gもそうですが、通信の進化はとどまるところがありません。クラウド側も一緒で、クラウドベンダーは非常に速いスピードでサービスを出し続けています。通信とクラウドの間を埋める取り組みはずっとやっていく必要があります。
もう一つは、やはりグローバル展開です。世界中で本当にシームレスにつながる通信はこれまでありませんでした。グローバル進出を狙う企業が増えている中で、高品質の通信サービスをより広く、安定して提供しつつ、それらをウェブ上で一元的に管理できる仕組みを作っていきたいと思っています。
その他、最近では「SORACOM Plus Camera Basic」というエッジ処理カメラを提供していますが、マシンラーニングによる分析や、ブロックチェーンの分散処理技術のニーズも増えていくと考えています。ユーザーの声を全て反映することは難しいですが、できるだけ多くのユーザーに使っていただけるようなサービスを共通基盤として実装していき、今後もIoTの民主化に向けて取り組んでいきます。
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Goods
19年10月に発売されたアップルの最新ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」を早速購入。通勤などのタイミングで活用している。iPhoneとの連携のしやすさをそのままにアクティブノイズキャンセリングなど強力な機能を搭載しており、ガジェット好きでもある玉川社長は「初代iPhone以上にパワフルな端末が耳に入るようになった」と興奮気味だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
個が輝く時代の作り手になる
かつてハードウェアを自社で保有し、組織内で運用することが当たり前だった頃、大企業を除く多くの企業は、大規模なコンピューティングリソースを利用する術を持てなかった。クラウドの登場は、それを中小企業やスタートアップだけでなく個人レベルでも手の届くものにした。以来、多くのクラウドネイティブな企業がディスラプターとして登場し、ビジネススピードは一気に加速。まさにコンピューティングリソースの民主化とも呼べる衝撃だ。
IBMからAWSへとキャリアを移ってきた玉川社長はその流れをまさに肌で感じてきたのかもしれない。「AWSがやったことと同等のことをIoTの世界でも引き起こしたい」。2015年のサービス開始以来、徹底した低価格戦略と高いサービス品質で多くのユーザーを喜ばせてきた。
インタビュー中、玉川社長の口からは企業ではなく個人を意識したフレーズが飛び出すことが多かった。「個人や企業、大企業やスタートアップに限らず、パッションを持つ人がイノベーションを起こします。私たちはそれを支えたい」(玉川社長)。“IoTの民主化”というビジョンは、ただサービスの利便性を高めることを誇張したものではない。本気で個人に対してIoTを活用できる環境を届けようとする覚悟が込められている。
プロフィール
玉川 憲
(たまがわ けん)
1976年生まれ。大阪府出身。日本IBM基礎研究所を経て2010年にアマゾン データ サービス ジャパンに入社。エバンジェリストとして日本市場でのクラウド事業立ち上げを指揮。2014年にソラコムを設立し、現職。
会社紹介
2014年11月設立。IoTプラットフォーム「SORACOM Air」を中心にLPWAやセルラー通信サービスを提供する通信事業者。セルラー通信の契約回線数は100万回線を超えユーザー数は1万5000を突破、パートナープログラム「SORACOM Partner Space」の登録パートナーは600社に到達した。17年8月にKDDIの連結子会社に。近年はアプリケーションやハードウェアまでビジネス領域を拡大している。