チームスピリットはERP(基幹業務システム)の「フロントウェア」を提供するベンダーとして、新規ユーザー数を伸ばし続けている。勤怠や就業、工数管理といった日常的に使うアプリケーションを揃え、ここから得たデータをリアルタイムに分析。従業員のリソースが最適化されているか、無理や無駄はないかを可視化し、問題があったらすぐに修正を加えることで従業員のモチベーションを高める。「働く人を活性化させることが、企業の業績や新規事業を立ち上げる意欲につながる」と荻島浩司代表取締役社長は話す。
働く人と企業のギャップを可視化
――今年度(2020年8月期)までの直近5年間のCAGR(年平均成長率)は50%を見込むなど、勢いよく伸びています。成長の原動力になっているのは何ですか。
当社主力製品の「TeamSpirit」は、ERP(基幹業務システム)の「フロントウェア」としてユーザー企業から評価されたことが大きいですね。フロントウェアとはERPに入力する前段階のある種のユーザーインターフェースです。勤怠や就業、工数の管理、経費精算、電子稟議などをひとまとめにし、操作性とワークフローを統一。ここから得られたデータをリアルタイムに分析するものです。
従来は勤怠なら勤怠、工数なら工数の管理ソフトで、バラバラに管理されているケースが多かった。情報は最終的にERPへと集約されるのですが、日々の作業に関するデータを気軽に分析するといった用途には、ERPは不向きなんです。ERPに入力する前段階にTeamSpiritをかませることで、従業員がどのように働いているかをリアルタイムで可視化でき、企業の生産性や従業員の満足度の向上に役立つ。この点がユーザー企業から評価をいただき、今の成長につながっています。
――ERPからデータを抽出して分析するより、ERPに入力する前のデータを使ったほうが従業員の姿が見えやすいということですね。
TeamSpiritのそもそもの着眼点は、「働く人を活性化させる」ことなんです。企業にとって重要なのは、売り上げや利益の追求であることは言うまでもありません。でも、従業員が重視するのは売り上げや利益ばかりではありません。稼ぐことは大切ですが、それと同時に早く帰宅して家族とともに過ごすとか、家事や子育てをするとか、趣味を楽しむとか、もっと幅広いんです。
では、どうすれば企業の追求する利潤と、個人が追求する幸福みたいなもののベクトルを合わせられるかを考えたとき、勤怠や就業、工数といった働く人のデータを分析すれば答えが見えてくるのではないかと思いました。可視化されたデータからは、いろいろなものが見えてきますので、課題を一つ一つ解決していくことで、従業員のモチベーションが高まり活性化し、結果的に企業の業績にもプラスになる。それがTeamSpiritの狙いです。
労働時間は短くなる傾向に
――勤怠や就業、工数などから得られるデータの分析とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
例えば、ある組織で新規顧客を開拓する、これまでになかったビジネスを立ち上げ、売り上げや利益を伸ばそうと考えたとします。もし、既存の業務をこなすだけでカツカツだったとすれば、新しいことを考える余裕なんてありませんよね。
昭和の時代でしたら、たくさん残業をして、朝から晩まで休みなく働く方向に向かったかも知れませんが、少子高齢化が進み、共働きが当たり前になった今では、働く時間を増やすことは極めて難しい。限られた時間のなかで、どの辺りを見直したら「考える」時間がつくれるのかは、就業状況や工数などを分析すれば自ずと明らかになります。ある人に業務が偏っているのなら作業の振り分けを見直したり、また、ある人は提案書を書くのにやたらと時間がかかっているのであればテンプレートを用意して作業効率を上げる、といった手が打てます。
なかには、「うちは考えるよりも足で稼ぐ営業スタイル」だという企業もあるでしょう。それはそれでよくて、例えば、「営業マン全員が1日5件、確実に客先を訪問するには、どのような時間の使い方をしたらいいのか」をTeamSpiritで可視化することも可能です。間接業務に意外と時間をとられて、直接業務の時間を食っていたりするものです。
――御社はもともと受託ソフト開発の会社だとうかがっています。
当社は1996年に創業し、2011年にTeamSpiritの事業を始めるまでの約15年は、いわゆるよくある中小規模の受託ソフト開発会社でした。優良顧客に恵まれたこともあり、ビジネスは順調だったのですが、08年のリーマン・ショックを経験。これから先も社員が安心して働けるのかどうかを真剣に考えるようになりました。人手だけに依存するのではなく、SaaSのような月額課金のサービス型ビジネスを手掛ければ、安定度や継続性が格段に増すのではないか。そして、出会ったのがセールスフォース・ドットコムです。
セールスフォースのSaaS基盤を使えば、少なくとも基盤部分についての設備投資は必要なく、アプリケーションの開発に専念できます。投資余力の限られた中小ソフト開発会社でも挑戦できる。万が一、上手くいかなくてもSaaSで得たノウハウは次の受託に応用できますので、従業員のスキルアップになると思ったわけです。
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