メーカーでありSIer
多面性こそが強み
――B-EN-Gは具体的にどのように「顧客の役に立つ」のでしょうか。
経産省のDXレポートで指摘された「2025年の崖」でも実はあまり詳細が言及されていないんですが、一番課題が大きいのはサプライチェーンの部分なんです。会計や人事給与はさすがにパッケージシステムが結構入っていますが、生産管理パッケージは製造業で売り上げが100億円以上の企業でも4割ほどしか導入していません。残り6割の企業の基幹システムを、デジタルトランスフォーメーション(DX)の足かせにならない形にアップデートしていくのが当社の役割だと思っています。SAPもmcframeも、そのためのツールという位置づけです。
――mcframeはサプライチェーン部分の顧客のこだわりを反映できるようにしたというお話でしたが、B-EN-Gのカスタマイズに関する考え方は変わってきているのでしょうか。
さすがに20年以上やってきて、機能もそれなりに充実しています。mcframeの導入でもカスタム部分は極力減らすべきだと考えています。もはや生産管理であっても、ごく一部の大手自動車メーカーなどでなければスクラッチ開発はあり得ません。事業環境が変化するスピードは加速しています。メンテナンス性が良くてバージョンアップがしやすいシステムでなければ対応できなくなっているんです。
――まさに2025年の崖の指摘そのものですね。
ただ、欧米や韓国などはそのフェーズを既に終えています。日本の製造業が彼らに勝てるような競争力を得るには、いわゆる攻めのIT投資、新たな価値を生むIT投資が必要なんです。ただしこれも、基幹システムのアップデートが前提です。例えば基幹部分は古いオフコンのままで、そことつながらないIoTをやっても、部分最適で終わってしまって、事業の飛躍的な成長につながるような成果を得るのは難しいわけです。
――近年はIoTソリューションや株主でもある図研のOEMでPLM(製品ライフサイクル管理)もラインアップしています。
レガシー化しない基幹システムをしっかりつくったら、その後は日本の製造業がDXの先端に到達するための支援をしていきたいと考えています。IoT、PLMで生産技術や設計・開発など競争領域をデジタル化し、かつこれを基幹システムとも連携させることで、正確かつ即時性のある情報を基にビジネスの意思決定ができるようになるんです。ここまで深掘りできている企業はグローバルでもすごく少ないですし、製造業の経営にとっては大きな価値があることです。
――製造業のDX支援は多くのSIerが重点施策に掲げている印象もあります。B-EN-Gがこの領域で発揮できる絶対的な強みは何でしょうか。
お客様にとってIT化、デジタル化は手段でしかなく、DXの本質はビジネスの変革です。B-EN-Gはそれを一緒に考えて支援できることが強みです。
ERPパッケージは汎用の解をお客様に提供するわけですが、その先のDXまでの道のりは全ての企業に固有のものがあるはずです。B-EN-Gにはお客様とつながるパイプが何本もあります。プロダクトメーカーとしてのつながり、SIerとしてのつながり、株主でもあるさまざまなIT商材のライセンサーやmcframeのSIパートナーなどパートナーエコシステムを通したつながり、ユーザーコミュニティーとのつながりなど、多様なパイプがあるからこそ、さまざまなお客様の課題の本質を捉えてソリューションを一緒につくるノウハウが蓄積できつつあると感じています。
――社長としての目標は。
数字としては、トップラインにはあまりこだわっていませんが、営業利益率を上げる、海外売上比率を上げることは重視します。ただ、新型コロナ禍の影響を正確に見積もることは現時点では難しいので、具体的な数字はこれからですね。
定性的なことを言えば、お客様とできるだけ長くつながっていけるビジネスの比率を増やすとともに、B-EN-Gならでは、ワン・アンド・オンリーの価値を追求していくことは大事にしたいですね。社員が誇りを持って働くためにも、パートナーにB-EN-Gが絡む仕事は面白いと思ってもらうためにも必要ですし、利益などにも跳ね返ってくると思っています。
Favorite
Goods
海洋冒険家の白石康次郎氏をアドバイザーに迎えてセイコーが開発したGPSソーラーウォッチを愛用している。海外出張先でも、趣味のヨットレースでも頼れるタフな相棒だという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
30年以上前に夢見たIoT
ヨットレースに明け暮れた大学時代。3年生の終わりに「たまたま入った」のは、日本のインターネットの父ともいわれる村井純氏を輩出した研究室。扱うテーマはコンピューターネットワークだった。折しも、村井氏を中心に設立された日本の学術組織や研究機関を結ぶネットワーク「JUNET」が拡大し始めた。UNIXの黎明期でもあった。それまで全くITには興味がなかったが、コンピューターとネットワークの可能性に魅せられた。
コンピューターと生産設備などをつないで生産工程の自動化・効率化を図るファクトリー・オートメーション(FA)事業を立ち上げようとしていた東洋エンジニアリングに入社したのは、半ば必然だった。「今で言うIoTのようなことをやりたかった」と振り返る。しかし、プロトコルが乱立し、コンピューターも高価だった当時にできることは限られ、仕事のフィールドはERP/SCMに移っていった。
時は流れて、30年以上前に思い描いていたことがようやく実現できる環境になった。東洋エンジから分社・独立したビジネスエンジニアリングもIoT領域に事業を拡大している。長年培ってきた基幹システムのノウハウとIoTの融合は、顧客のビジネス変革を支える大きな価値を秘めている。「単にブームに乗っかっているのとはわけが違う」のだ。
プロフィール
羽田雅一
(はねだ まさかず)
1965年1月生まれの55歳。横浜市出身。慶応大学理工学部数理科学科卒。87年に東洋エンジニアリングに入社。96年に「mcframe」(当時はMCFrame)の企画・開発、営業に携わる。99年に東洋エンジニアリングから東洋ビジネスエンジニアリング(現ビジネスエンジニアリング)が独立後、2004年にMCFrame事業本部長。以降、プロダクト事業本部長、取締役関西支店・中部営業所担当、常務取締役新商品企画本部長、専務取締役新商品開発本部長などを歴任。20年4月より現職。
会社紹介
大規模プラントの設計などを手掛ける東洋エンジニアリングの産業システム事業本部が前身。1991年、日本初のSAPパートナーとしてERPビジネスを開始した。96年には、自社パッケージ「MCFrame」(現mcframe)をリリース。99年、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)として開業。2007年、海外拠点会計パッケージ「A.S.I.A.(現mcframe GA)」事業を統合。13年4月、東京証券取引所市場第2部に株式上場。14年4月、東証第1部に株式上場。18年3月、東洋エンジが同社株を全株売却したことにより、資本関係が消滅。19年10月、ビジネスエンジニアリングに社名変更した。