富士通クラウドテクノロジーズの社長が交代し、執行役員として事業戦略を担当していた新見昌弘氏が4月1日付で新社長に就任した。同社が提供する国産パブリッククラウド「ニフクラ」は、富士通が6月に発表したクラウド戦略で「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-V」の基盤として位置づけられ、大企業の基幹業務向けの提案が増えそうだが、従来のニフクラビジネスも継続する。技術者として30年以上のキャリアがあり、「クラウドに関しては一通りやってきた」と自負する新見社長は、ニフクラビジネスの戦略について「単に“箱”としてニフクラを売るだけではなく、箱を活用するための“仕組み”の販売も伸ばしていきたい」と語る。
顧客の立場で考える
――4月の社長就任から3カ月が経ちました。今の率直な気持ちを聞かせてください。
1年前から今の会社に在籍して現場を見てきましたが、あらためて申し上げると、非常に自由な会社だと思います。私自身もエンジニアとして現場で仕事をしてきた人間ですから、自然に現場に入っています。社員とは技術者同士の会話ができていますし、フレンドリーに話しかけてくれます。自分が持っている知見や経験があるので、そういった部分を社員に伝えたいと思っています。
――エンジニア出身の社長として、どのような姿勢で社員と接していますか。
製品化に向けて「こういうことができないか」と聞くと、「できません」と返ってくることがあります。しかし、状況をよく確認してみると、できない条件に当てはまらなければ、問題なくできるということがあります。サービス提供側としては100点満点ではないけれども、お客様の立場から見ると100点というケースもあります。技術者の中には、100点か0点かで考える人もいますので、私からはさまざまな視点があることを示しながら技術者にとってヒントになるような話をしています。とはいえ、自分の考えが全て正しいわけではないので、社員から違う反応が出たら、しっかり聞いて判断するようにしています。
――経営者としての信条を教えてください。
当社には「No Boundary」というビジョンがあります。人や技術の壁など、いろいろな制約をテクノロジーやノウハウで乗り越えていくという意味が込められています。システム間の壁でいうと、例えばオンプレミスとクラウドの間に仕様の違いがあり、連携がうまくいかない場合があります。それをわれわれのテクノロジーを使い、できるだけ障壁を低くすることを目指してきました。
その次の段階として、私たちのサービスでお客様のシステムがつながり、またお客様同士がつながるということがどんどんできればいいと思っているので、No Boundaryに加えて「Connecting」をビジョンに追加しました。私自身、フィールドで30年以上仕事をしてきて、お客様が何を求めているかをずっと考えてきたので、そこの軸は変わりません。
――新型コロナウイルスの感染拡大は、ビジネスにどのような影響を与えていますか。
お客様も先を読みづらい状況になり、新たなシステムの検討をいったん保留するといった影響は出ています。ただ、緊急事態の時こそスピード感が重要なので、必要なシステムを素早く構築できるクラウドの役割は大きいと再認識しました。いろいろな業界で、これまでなかなか進んでいなかったデジタル化が進み、その中でクラウドが注目されているということはひしひしと感じています。
メガクラウドは競合ではない
――ニフクラの強みについてはどのように考えていますか。
日本のエンタープライズのお客様の多くは、仮想基盤にVMwareを採用しています。パブリッククラウドと連携してハイブリッドクラウド化しよう時に、ハイパーバイザー層が同じという部分はニフクラの強みです。クラウドに移行する場合、メガクラウドは設計の仕方を変える必要がありますが、ニフクラはそこまで変える必要はないので、今あるシステムを移行するという意味では、ハードルが低くなります。
最近、メガクラウド各社がVMware環境を提供するサービスを盛んにアピールするようになりましたが、ログを見て何かおかしいなとなった時の多くの対応は、お客様責任となります。ニフクラでは、われわれもログを分析してトラブルの予兆を検知し、対応に必要なリソースバランスを調整しています。これを全てお客様自身でやるのは簡単ではありません。仮に対応できたとしても、その技術レベルの人材をずっと維持できるかという問題もあります。このあたりもニフクラが求められる要因になっていると思っています。
――メガクラウドについてはどのようにみていますか。
ここ7年くらいはクラウドサービスを推進する業務を担当してきました。AWSやAzureの適用支援などを経験し、クラウドに関しては一通りやってきたと思っています。グローバルのメガクラウドが競合になるかというと、私は全くそう思っていません。われわれのサービスで全てまかなえるかというと、そうではありませんし、お客様のニーズにはいろいろありますので、例えばメガクラウドの機能を使った方がいい場合があるかもしれません。わざわざ敵対する必要はまったくないと考えており、場合によってはパートナーシップを結んで協力することもありだと思っています。
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