新型コロナウイルスの感染拡大下でテレワークが急速に拡大し、コミュニケーション/コラボレーションツールと並んで需要が急速に膨らんだのが、チーム内外のファイル共有に活用するクラウドストレージだ。市場の有力製品である「Dropbox」を擁する米ドロップボックスも、その追い風を受けている。同社は近年、「世界初のスマートワークスペース」というコンセプトを打ち出し、Dropboxをファイル共有ツールの進化版と位置付けているが、ウィズコロナ、アフターコロナの新しい働き方を支援すべく、その価値を改めて市場にアピールしている。日本市場の目下の動向とポストコロナの展望について、Dropbox Japanの五十嵐光喜社長に聞いた。
「突然のテレワーク」で
ユーザビリティが再評価された
――3月以降、日本国内でもテレワークが急拡大した印象です。Dropboxのユーザーも急拡大したのでは。
おっしゃるとおり、問い合わせは非常に増えました。具体的な数字を申し上げることはできないのですが、法人向けプラン「Dropbox Business」については、無料トライアルのお問い合わせがコロナ前に比べて40%も増加しています。既存のお客様からも、導入していてよかったというお声をいただいていて、うれしいことです。
――ファイル共有のためのクラウドストレージ製品は、市場にたくさんあります。Dropboxはどのような点が評価されているのでしょうか。
コロナ禍は多くの企業に、「突然テレワークになる」という状況をもたらしました。従業員からすれば、今まで社内で一緒に働いていて、ITに関するトラブルや問題点があれば対応してくれたIT担当者がいなくなってしまったわけです。そうした環境で利用するITツールに求められることは、ストレスなく使えたり、パフォーマンスが落ちないことです。当社の出発点はコンシューマー向けビジネスですから、ユーザビリティーを第一に考えてきました。コンシューマー市場で磨かれた操作性や、ファイルの更新などをリアルタイムで反映できる同期のスピードなどを改めて評価していただいているのではないでしょうか。
また当社ではチームのコラボレーションを促進させる「Paper」と「Spaces」を提供しており、まさにスマートワークスペースのコンセプトを体現する機能として、ご満足いただいているという声は多いです。
――PaperとSpacesとはどのような機能なのでしょうか。
PaperはDropboxに標準で搭載されている機能で、さまざまなドキュメントを作成しつつそれらをチーム全体で管理・編集することができます。いわば会議でコミュニケーションに使うホワイトボードのようなものでしょうか。会議ではいろいろなコミュニケーションが生まれますが、それらを一つのツールの中に集約し、円滑なディスカッションを可能にします。
Spacesは社内やクラウドに散在するコンテンツを整理し、コミュニケーションに必要な材料がどこにあるのかハイライトしてくれます。会議での目的はコミュニケーションをとることではなく結論を出すことにありますが、結論を出すためには中期経営計画書や業績報告書といったアウトプットが必要になります。Spacesはその時々で必要になるアウトプットをコミュニケーションから分けて整理することでスムーズなコラボレーションを支援してくれるのです。
このコミュニケーションとアウトプットを分けるという考え方は非常に大切で、アウトプットがコミュニケーションに紐づく、コミュニケーションの過程でさまざまなバージョンのコンテンツが生成され、各自の環境に散在してしまうことになります。Eメールなどはその代表ですし、チャットにもそのリスクがあります。コミュニケーションツールでコンテンツをやり取りするのではなく、コンテンツの実態はDropboxにおき、Spacesを確認すれば必ず最新のファイルにアクセスできる状況を作ることが重要です。
今年中に自前の
電子署名ソリューションも投入
――PaperとSpacesの機能を聞くと、確かにチームで共同作業を進める仮想的な仕事場という感じですね。機能強化という観点では今後、どのような構想をお持ちでしょうか。
テレワークの課題として“ハンコ出社”が取り沙汰されましたが、この部分の課題解決のために、Dropbox自前の電子署名ソリューションである「HelloSign」を今年中に日本市場に投入します。 もはや書類を手書きで作成している人はいないわけで、大抵はデジタル上で書類を作成し、それをプリントアウトしてハンコを押しているんですね。Dropboxに書類の電子データを保管して、そこに電子署名を組み合わせれば、社内稟議などのプロセスをワンソースで完結させられる。ペーパーレスな承認プロセスの構築に大きく貢献できます。
――あらゆる業種でニーズは高まっていると思いますが、拡販戦略についてはどう考えておられますか。
昨年からメディア・教育・建設といった業種への提案を強化してきました。これらのインダストリーについては今後も注力していく予定ですが、最近特に目立っている製造業からの引き合いにも対応していくつもりです。
製造業で特に増えているのがオンプレミスのファイルサーバーの移行案件で、やはり新型コロナウイルスの影響が大きいと見ています。もともとVPNで社内のファイルサーバーへ接続する構成だった企業が、いざ全社的にリモートワークを実施しようとしたときに、みんなが一斉にアクセスするので、そこがボトルネックになってしまったというのはよくあるケースです。製造業の多くの企業が、社内にファイルサーバーを抱えることを大きな負荷だと感じていて、もはや事業拡大の障害になっていると認識しているようです。
[次のページ]コンシューマライゼーションのメリットを体現