日本IBMデジタルサービスは、日本IBMのSE子会社3社が合併して7月1日付で発足した。旧3社は、製造業や金融業といった業種ノウハウが豊富で、ハードウェアやネットワーク基盤系技術、運用サービスなどソフトウェア開発以外の領域も幅広く手掛けてきた。これらのスキルを統合することで、ユーザー企業のデジタル変革ニーズに一気通貫で応えられるようにするのが合併の狙いだ。新会社のトップに就いた井上裕美社長は、「ユーザー企業のデジタル変革推進のパートナーとして、真っ先に選ばれる存在になる」と決意する。
価値で選ばれる存在になる
――まずは日本IBMのSE子会社3社を合併した狙いを改めて教えてください。
この7月1日付で合併したのは、旧日本IBMサービスと旧日本IBMソリューション・サービス、旧日本IBMビズインテックの3社ですが、それぞれ背景が違いますから、製造業に強かったり、金融業に強かったり、あるいは北海道などにニアショア開発拠点を持っていたりと、強みも異なっていました。
ところが、近年ではユーザー企業が会社組織や業種の垣根を越えてデータを共有し、新しいデジタルビジネスを立ち上げる動きが活発になっています。今回の3社合併による日本IBMデジタルサービスの立ち上げは、そうしたユーザー企業のニーズに対応していくために強みを集約することを目指したものです。
――旧3社の概要をもう少し詳しくお教えいただけますか。
詳しくは開示していないのですが、人員規模は旧日本IBMサービスが最も多くて数千人、その次に旧日本IBMソリューション・サービスが一千人規模、旧日本IBMビズインテックが数百人です。社歴は旧日本IBMビズインテックが最も長くて1959年に設立され、さまざまな再編や合併を経て今に至っています。
ソフト開発はもちろんですが、システム全体の設計からハードウェアやネットワークなど基盤部分に至るまで各階層ごとに専門的なスキルを持った人材を多数揃えていることから、開発だけを担うイメージが強い「SE子会社」とは少しニュアンスが違います。実際、日本IBMのコンサルティング部門のグローバル・ビジネス・サービス(GBS)や営業部門とは旧3社時代から密に連携してきました。ハードやソフト、運用といったITの専門的な分野になると、旧3社の専門家が入って助言してきた経緯があります。
日本IBMデジタルサービスの体制になってからも、この姿勢は変わりません。営業部門こそ持っていませんが、それ以外のシステム設計、UI/UX設計からデータを活用するデータサイエンス、ERP製品などのコンサルタント、システム運用、そして開発部門が一体となって、ユーザー企業のデジタル変革を全方位で支援していきます。
――合併による規模のメリットや収益力が高まる効果も期待できますね。
規模のメリットという点では、北海道や仙台、東名阪、福岡、沖縄に拠点を展開し、全国のユーザー企業を十分にカバーできる体制が整いましたし、必要に応じて国内の地方拠点を活用したニアショア開発もできる総合力が一段と高まりました。例えば、ユーザー企業がデジタル変革のプロジェクトを始動する際のITパートナーとして3社の候補を上げたときに、日本IBMデジタルサービスはその最初の1社であり続けることを目標としています。ユーザー企業にとってより多くの価値を創り出せれば、おのずと収益力も高まります。
もう一段上のフェーズにシフト
――日本IBMデジタルサービスの経営に当たって井上社長がこだわりを持っている点を教えていただけますか。
当社は設計から開発、運用サービスまでの全てを担っていることから、安定した堅牢なシステムをつくり、維持していくことを最も重視しています。ユーザー企業が推進するデジタル変革や業務改革は、堅牢なシステムがあってこそ成り立つものだと考えているからです。金融業のFinTechに象徴されるように他のシステムとつないだり、流通・小売業のキャッシュレス決済、POSデータのデータ分析を通じて新しい価値を生み出すといった取り組みにも、しっかりとした土台が必要なのです。
一方、これはSE(システムエンジニア)としての自身の経験からも言えることなのですが、SEの仕事は往々にして視野が狭くなりがちです。もちろん全てではありませんが、一所懸命に目の前の仕事に取り組むSEであればあるほど、システムの前後のつながりが知らず知らずのうちに見えなくなり、問題が発生しても原因がなかなか突き止められないなどの弊害が出やすい。いわゆる“蛸壺”状態から抜け出さないと、ユーザーが求める価値を提供できません。私は日本IBMデジタルサービスの経営に当たって、社員一人一人が日々の業務をしっかりこなしつつ、常に視野を広げていく努力をしてもらいたいし、そうした努力が評価される会社であり続けたいと考えています。
――SE一人一人の意識改革や働き方が、デジタル変革のビジネスを行う上で大切だということですか。
デジタル変革を推進するには、データの流れを捉えることがとても大切で、アプリケーション単体、あるいは企業、そして業種の中だけにとどまらない視野が必要です。ユーザー企業はシステムをつくりたいのではなく、これまでになかった新しい価値を生み出したいのです。システム設計、開発を担う当社も、広い視野で業種を跨いだ提案をどんどんしていくことが求められています。
今回の3社合併は異なる経歴、スキルをもった人が同じ会社組織になるわけで、お互いに意見や技術を交流させることで、社員一人一人が視野を広げていく絶好のチャンスだと捉えています。知見やスキルを融合し合うことで、デジタル変革を実現する当社の提案力ももう一段上のフェーズにシフトできると手応えを感じています。
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