国産ERPベンダーの雄として独自の存在感を発揮してきたワークスアプリケーションズが昨年8月に主力のHR関連事業を売却したことは、市場に大きな衝撃を与えた。米ベインキャピタルの投資を受けてHR関連事業を引き継いだWorks Human Intelligence(ワークスHI)は、当初、ワークスアプリケーションズの共同創業者だった石川芳郎氏が社長CEOを務めていたが、今年7月、安斎富太郎氏が同職を引き継ぎ、石川氏は会長に就いた。ERPの世界的トップベンダーの日本市場における成長をリードした経験もある安斎新社長は、ワークスHIを成長軌道に導けるか。
キャリアの集大成
逆風には慣れている
――安斎さんがワークスHIの社長に就任したと聞いたときは、かなり驚きました。
競合だったSAPジャパンにいましたからね。
――SAPには「真のERPはSAPだけ」という矜持のようなものがあるという印象でした。それもあって、国産ベンダーのトップに安斎さんが就かれたというのは意外に感じました。
確かに、悩んだ末の決断ではあります。実は、SAP時代もHRの領域では「COMPANY」に結構負けているんです。分析すると、SAPはIT部門に売りに行っていたんですが、ワークスアプリケーションズは人事部門に売りに行っている。負けた案件にはそういう傾向がありました。システムを実際に使う人事部門に接点があり、非常に高い支持を得ていたということなんですね。
ERPはシステムで業務プロセスを改善するというのが基本的な設計思想で、SAPを含め、一般的にはまず業務をITに乗せてから改善を考えていくわけです。面白いことにCOMPANYは、まず業務がどう流れるとスムーズかを考えてから、それをどうITに乗せていくかを検討するという2段階のプロセスで導入していた。これが人事の業務の現場で使いやすいと評価される秘訣だったんです。
――今年1月からワークスHIには副社長として参画されていますね。
もともと18年12月から、HRを売却する前の旧ワークスアプリケーションズの顧問をやっていたんです。同社の業績が若干踊り場に差し掛かり、再興のお手伝いをしたいとは思っていました。
――すると、ワークスアプリケーションズがHR事業を売却して、19年8月にワークスHIが誕生したプロセスにも立ち会われたわけですね。
ワークスアプリケーションズを今後どういう会社にするか、議論は相当やりました。同社が持っていたHR、会計、SCMを含むERP製品のうち、HRは特に競争力が高く、国内の大企業1100グループで採用されている成熟した製品でした。一方で、会計やSCMはこれから本格的に成長していく段階にありました。
ERPはデジタルの力で生産性を上げるためのツールなわけですが、HRもある時点までは生産性が大事です。ただ、成熟した後に発展していく方向性としては、自社にとってのコア人材をいかに育てていくかという日本型のタレントマネジメントや健康経営をカバーしていく必要があり、ある意味でアナログ的というか、従業員の琴線をどうマネジメントしていくかも重要になる。そうすると、会計やSCMとは投資の内容やタイミングも大きく異なってくる。それが2社に分かれた大きな要因です。
――ワークスアプリケーションズのHR売却には、AIを活用した次世代ERP「HUE」のR&Dや人材への投資が膨れ上がり、その回収が十分なスピードで進まずに業績が悪化したことが背景にあります。それでも投資会社はHR事業とCOMPANYブランドの価値は高く評価したわけで、ワークスHIには急成長が求められているということですよね。
これだけの顧客基盤がある日本発のソフト会社が踊り場にとどまっているのはもったいない。私自身のキャリアも集大成の時期を迎えているので、なんとか役に立ちたいと思っています。デルでもそれほど事業の状況がよくない時期にトップに就任しましたし、こういうシチュエーションには慣れています。
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