圧倒的な強みと
認知度のギャップを埋める
――10年かけてクラウドERPをつくり直して「Oracle Fusion Cloud ERP」を出し、ERP以外のアプリケーションも買収製品を含めて同様につくり直し、SaaSの全ての機能を一つのデータモデルに統一して業務横断的なデータ活用ができるようにしたというのがオラクルのメッセージですよね。全てのアプリケーションをオラクルのSaaSでカバーしないと真価が発揮できないとすれば、導入のハードルが高くなってしまいませんか。
究極的にはそれが最もメリットを享受していただけるとは思っていますが、まずは財務会計から始めましょうかというパターンもあります。必要に応じてHCMやCRMもオラクルにするという選択肢はあるけれども、ワークデイやSFDCを使うというケースもあるかもしれません。シングルデータモデルのメリットを生かして、AIを使った自動化により大きな期待を寄せるお客様はオラクル製品でカバーする業務が増えるでしょう。
――オラクルのフルスイートなSaaSのメリットをどう市場にアピールしていきますか。
オラクルは自分たちで自社製品を使って、製品の改善や機能向上に生かしています。日本オラクルも1年前は契約書の電子化率が8%だったのが今は92%になり、コロナ禍で誰も出社していない中で決算処理を16日で済ませて前年より3日短縮しました。これはSaaSによる自動化の力が大きい。一足飛びにDXを進めるのはハードルが高いですが、コツコツと電子化、自動化できるエリアを増やしていくのにSaaSがすごく効くことを自分たちの具体例を基に提示できるのは強みです。これが多くの経営者に響いてきているという手応えはあります。
――12月の記者会見では、復帰されてIaaSの進化にも驚いたという話がありました。
正確に言うと、オラクルは現在、IaaSとPaaSを分けて考えていません。お客様にとって最も重要なのはアプリケーションで、ここをどう最適に動かすかを考えたら、一体で考えるべきという発想です。「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」はIaaSと言われることもありますが、IaaSとPaaSが混在しているサービスです。
その上で、オラクルはOCIを第2世代にアップデートしています。第1世代はAWSのアーキテクチャーに似たものでしたが、ACID特性を要求されるようなデータ処理はできなかったんです。考えてみれば当たり前ですよね。ネットワークも細いし、汎用のクラウドでそんな処理はできない。で、第2世代をつくった。とてつもない高速のネットワークと、オフボックス・ネットワーク・バーチャリゼーションを実現した。これは、ネットワークレイヤーで仮想化してテナントを切ることで、体育館の雑魚寝ではなくマンションになり、隣の人のイビキは聞こえなくなりました(笑)。日本は1年半前からやっと第2世代のOCIを提供できるようになったので、AWSやAzureとは違う特徴で商売ができるようになっています。
――その価値は日本市場で認知されていますか。
これからですが、それが僕の仕事だとも思っています。僕が入る前に決めてもらったすごく大きい事例が野村総合研究所(NRI)です(企業のDCにOCIの専用リージョンを設ける新サービス「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」を世界で初めてNRIが採用した)。ご存じのようにNRIは世界最大の金融サービス向けシステムプロバイダーで、彼らの仕組みが止まると、日本の証券、銀行、保険会社の何割かはビジネスができなくなってしまう。現在、オラクルのデータベースマシンである「Exadata」を全面的に採用していただいているんですが、これをモダナイズしないといけない。インフラのコストを落として、自動化を進めて、アプリケーションもクラウドネイティブなテクノロジーで書けるようにして、よりよいサービスを提供していくことをNRIは当然考えている。まさにこれはご説明したOCI第2世代の特徴が生きるところです。
――金融領域へのアプローチは大手クラウドベンダーが揃って強めている印象ですが……。
便利な機能も必要ですが、お客様が求めているのは、とにかく止まらない、性能がきちんと出る、ノイジーネイバーの影響を受けないということです。だからNRIはOCIを選択してくれた。確かに地方銀行などの勘定系やインターネットバンキングをパブリッククラウドで動かすという案件は徐々に出てきていますが、NRIのようにその数千倍規模の超巨大なミッションクリティカルシステムをパブリッククラウドアーキテクチャーで動かすというのは世界でも例がないです。こういう市場はまだ立ち上がっていませんし、OCIしか選択肢がないのが現状です。ここにわれわれのIaaS/PaaSビジネスの圧倒的な強みがあると思っています。
Favorite
Goods
無類のスニーカー好きで、収集歴は学生時代から。ロサンゼルスのセレクトショップである「UNION」とナイキがコラボした「エアジョーダン1」と「エアジョーダン4」が最近のお気に入りだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
テクノロジーの専門家として顧客のDXをけん引する
積極的な投資を続けてきたことで、クラウド市場におけるプレゼンスを年々高めているオラクル。しかし、日本市場でクラウドベンダーとしての認知度が十分に高まっているかというと、疑問符が付く。日本オラクルの三澤智光社長も「日本オラクルのビジネスはオンプレミス系がまだまだ大半。米国本社からも、クラウドなどサブスクリプションビジネスの比率を急ピッチで上げてほしいと要求されている」と話す。
そのためには、顧客やパートナーにOracle Cloudの価値を深く理解してもらう必要がある。日本オラクルでの長年のキャリアを生かし、エコシステムを構成するさまざまなプレイヤーと円滑にコミュニケーションを取り、次世代のビジネスをともに構築していく責任があることを自覚しているという。
最終的には顧客のDXが全関係者の共通のゴールになるが、日本オラクルはそのけん引役になる必要があると考えている。「僕らはITのベンダー。当然、ITに関してはお客様よりもプロフェッショナルでないといけない。“寄り添う”というよりも、テクノロジー活用を“リード”することで信頼されるアドバイザーになれる」。
プロフィール
三澤智光
(みさわ としみつ)
1964年4月生まれ。岡山県総社市出身。横浜国立大学卒。87年、富士通に入社。95年、日本オラクルに。常務執行役員システム製品統括本部長兼マーケティング本部長、専務執行役員テクノロジー製品事業統括本部長、副社長執行役員データベース事業統括、執行役副社長クラウド・テクノロジー事業統括などを歴任したが、16年に退社し、日本IBMに移籍。取締役専務執行役員IBM クラウド事業本部長などを務める。20年10月に米オラクルのシニア・バイス・プレジデントに就き(現任)、オラクルに復帰。同12月に日本オラクル執行役社長に就任。
会社紹介
米オラクルの日本法人として1985年に設立。データベースソフトの販売と付随サービスを中核事業としてきたが、米オラクルの業容拡大に伴い、日本のIT市場でも総合ITベンダーとしての存在感を高めている。近年はIaaSからSaaSまでフルスタックの大手クラウドサービスベンダーとしての価値を強く訴求している。2000年に東証1部上場。21年5月期の売上高は2113億5700万円。従業員数は20年5月末時点で2280人。