今年1月に日本マイクロソフトのCOOから代表取締役社長に就任した岡玄樹氏。プロプライエタリからオープンソースへと正反対の陣営への移籍となるが、背景にはオープンソースはイノベーションの源泉という強い思いがあった。今後10年は、オープンハイブリッドクラウドが主流となり、その先もレッドハットが生み出すだろうと語る同氏は、最重要と位置付ける「OpenShift」をどのように日本市場へ浸透させていくのだろうか。
内向け、外向けの双方の
DXソリューションを持つ
――投資銀行、そしてコンサルティング会社でキャリアを積まれ、その後事業会社へ移られてからはずっとIT業界で経営の仕事をされていますね。
IT業界へ来たのは、コンサルティングで最後に担当したお客様であるソフトバンクグループの、当時の幹部であったニケシュ・アローラ氏に誘われたことが直接のきっかけです。この業界の魅力は大きく二つあります。まず、スピード感が他業界とは比較にならないこと。もう一つは、テクノロジーを工夫することで事業を創り出すことができることです。海外生活が長いと、日本への想いが強くなりますが、日本企業は周りからは改革に時間がかかると思われている。その時間軸を短縮するにはテクノロジー無くしてあり得ないということも、この業界に居続けている理由です。
――直前には、日本マイクロソフトのCOOとして日本事業を統括されていました。Azureの成長を見届けるという選択肢もあったと思いますが、なぜレッドハットに。
サティア・ナデラCEOの就任後、マイクロソフトはカルチャー・トランスフォーメーション(企業文化の変革)の真最中にあります。私自身のテーマは、中に入って変革を自分で経験することでしたので、マイクロソフトに飛び込んで多くの変革を見てきましたが、次第に自分の主導でカルチャー・トランスフォーメーションを起こしたいという想いが強くなりました。また今後、クラウドのマルチ利用が進む中で、ベンダーロックインから遠いところにいるレッドハットに伸びしろの大きさを感じましたし、他の外資系企業に比べ日本法人の存在感が大きいことにも親近感を覚えました。
――一昔前なら、マイクロソフトからレッドハットへの転職は、正反対の陣営への移籍に映ったと思いますが、オープンソースの文化やトレンドをどう見られていますか。
オープンソースには尋常ではない数のコミュニティが存在し、レッドハットもコミュニティの活動に積極的に参加しています。私がマイクロソフト出身といっても、今は許容してくれる時代のようです(笑)。私は、オープンソースはイノベーションの源泉だと強く思っていますが、日本ではあまり知られていません。今後10年は、オープンハイブリッドクラウドが主流となり、その先のものもレッドハットが生み出すだろうという期待を持っています。
――開発者の間ではオープンソースが主流になっていますが、まだまだ、一般のビジネス、社会には浸透していませんね。
おっしゃる通りで、お客様とのやり取りでもコンテナアプリ開発、自動化も、それぞれ「点」のままになっているケースが多いと感じています。経営層を含むビジネス側の人々が理解できるような言葉に、テクノロジーがうまく翻訳されていないことが大きな原因です。その翻訳こそ私の得意分野ですから、しっかり橋渡しをしていきます。今や欧米の企業では、ビジネスパーソンがITやテクノロジー、DXについて十分な知識を持つことが当たり前ですが、日本企業の経営層には知識を持つ方は少なく、担当部署に任せるケースが多い。その意識も変えたいと思います。
――日本企業のIT戦略にどのような課題を感じますか。また、それに対してレッドハットはどんな解決策を提示できますか。
DXが進んでいない企業の経営者は、DXへの関心は持っていてもDX自体の定義ができていません。DXには業務効率化など内向けのものと、お客様に向けた新サービスの提供など外向けのものがありますが、双方ともできなければ先に進めません。何をすべきか定義付けができないことで、DXを自分の範疇として捉えられないのです。一方、DXが進んでいる企業は定義付けに加えて、新しいテクノロジーを使って、失敗しても良いのでまずやってみるというカルチャーがある。レッドハットは、内向け、外向けの双方のソリューションを持ち、テクノロジーだけでなく、カルチャーの部分も含めて提供できます。今は幸いなことに、経営陣の方々にも聞く耳を持っていただけるので、DX化の取り組みに多角的な面から影響を及ぼしたいですね。
[次のページ]最重要と位置付ける「OpenShift」