最重要と位置付ける
「OpenShift」
――新社長として、レッドハットでやりたいと考えている取り組みを教えてください。
前CEO(現・米IBMプレジデント)のジム・ホワイトハースト氏の著書にある「オープン・オーガニゼーション」が真に実践されているのは米本社のエンジニアリング部門ですが、日本ではまだまだその実現に向けた取り組みの余地が大きい。オープンソースのやり方をビジネスや組織に取り入れてイノベーションにつなげるというDNAは組織に染みついていると感じますが、日本流へのアレンジが必要です。日本ではせっかく良い考えを持ちながら、会議などで発言しない人も多い。でも、会議に出席するからには、しっかりした意見を持ってほしいし、指名されたらそれを主張してほしい。その点をカスタマイズして浸透させれば、他企業にはない面白い風土になると期待しています。
――レッドハットは長年にわたり増収増益を続けていますが、それを可能にしている理由は何でしょう。順風満帆に見えますが、あえて課題を挙げるとすればどこにありますか。
オープンソースのLinuxをエンタープライズへとうまくシフトさせ、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)をFortune 500のほとんどの企業に浸透させていきました。その途中でオープンソースコミュニティに関わるメンバーが、「その次」のニーズがあることに気付いて、社内でエマージングブロダクトと呼ぶ次世代製品のOpenShiftやAnsibleなどが登場したことが大きいと思います。
それらの製品は、何より時代とのタイミングに合致していました。ベンダーロックインを嫌うお客様に最適で、スピード重視、ハイブリッド/マルチクラウドの実現といったニーズに適合し、ポジションを確立しました。そこにリソースをフォーカスしたことで、オープンハイブリッドクラウドを推進するという成長軌道に乗りました。IBMもそこに興味を持ち買収したのですが、今後もレッドハットは独立企業としてやっていきますし、それが守られる限り今後、5年は十分に成長できると思います。
一方の課題は、これからOpenShiftやAnsibleなどの導入にチャレンジする企業への対応です。例えばOpenShiftは既に通信や金融のお客様に多く導入されていますが、他分野はこれから。特に日本やアジアでは自動車業界をはじめとする製造業のお客様にどれだけ導入していただけるかが成長を続けるカギになります。それには業界を知り、業界向けにテクノロジーを“翻訳”できる人の存在が不可欠です。そして、パートナーの方々と組んでソリューションを組み立て、戦略的に横展開することが重要と考えています。
――その意味では、パートナーには製品販売以上に、カルチャーを売ってもらうようになると。
そうありたいですね。楽しみなのは、私たちのパートナーでもある大手電機メーカー各社を見ても、随分とカルチャーを変えようとしていますし、IBMも自身のトランスフォーメーションを強く推進しています。日本におけるパートナーの存在は絶大なので、そうした変革の動きが増えれば増えるほど面白いことが起きるでしょうし、日本企業が大きく変わると思います。
――最後に、注力する製品を教えてもらえますか。
私の中で最重要と位置付けているのは「Open
Shift」です。コンテナの良さ、つまりどうDXすれば事業で成果が出せるのかを、ビジネス側の方々に訴求できるためです。すでにサービスインまでの時間を大幅短縮した大手金融機関の先進事例もありますし、スピードが劇的に変わる点を基軸に訴求したい。次が「Ansible」で、(人手不足の)日本社会にも、コロナ禍にもフィットするソリューションです。そして3番目がRHELです。
Favorite
Goods
社会人一年目に出会った師匠代わりの先輩から影響を受け、背伸びをしてカフスを着用するようになった。今ではこれがないと落ち着かない。取り外してワイシャツの袖をまくり上げているときは、「本気モード」に突入しているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
売り物は「カルチャーの変革」
日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、欧米に比べ遅れていると見られることが多い。しかしそれは決して、ITを使いこなしたり、新たな事業を創出したりする能力が欠けているからではないと岡社長は分析する。例えば、日本の代表産業である製造業。製造ラインでデータを取って品質を改善するのは得意中の得意だし、納入した製品に対して保守サービスを提供することで、顧客との継続的な関係を築いているメーカーは多い。「データ活用」や「リカーリングビジネス」といった、昨今のトレンドとなるキーワードは既に先取り済みなのだ。
ただ、そこに新しいテクノロジーを活用して変革をもたらそうという機運がまだ弱い。これは能力ではなく、カルチャーの問題だ。レッドハットにはオープンソースソフトウェアを使いこなす知見だけでなく、ビジネス層・開発者・運用担当者を巻き込んだIT変革のノウハウがある。その実績を、より幅広い人々が理解できる言葉に“翻訳”し、顧客のカルチャーの変革を加速していくのが、岡社長の役割だという。
プロフィール
岡 玄樹
(おか げんき)
2001年、リーマン・ブラザーズ証券会社に入社し、投資銀行本部でM&A戦略を担当。06年にコロンビア大学でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニーのニューヨーク支社に勤務。その後同社東京支社でパートナーに就任。15年にソフトバンクグループに入社し事業会社へ転じ、チーフグローバルストラテジストを務める。17年にアントフィナンシャルジャパン(アリペイ)日本代表、18年に日本マイクロソフト執行役員常務に就任。日本マイクロソフトではCOOを務めた。21年1月より現職。
会社紹介
1993年設立。本社を米ノースカロライナ州に置く。商用版Linux「Red Hat Enterprise Linux」をはじめとするOSやミドルウェアの販売およびサポートを主力としていたが、近年は運用管理ツール「Ansible」、コンテナ基盤「OpenShift」などの事業も拡大している。2018年10月に米IBMが約340億ドルで米レッドハットの買収を発表し、19年7月に手続きが完了した。グローバルでの従業員数は約16000人。日本法人は99年設立。