BIPROGY(ビプロジー)への社名変更を決めた日本ユニシスは、注力事業である「ビジネスエコシステム」の事業割合を一段と高めていく。デジタル技術を駆使したマッチングによって、社会的な資源の最適配分を実現する。平岡昭良社長は、「再生エネルギー活用による脱炭素社会の実現や、SDGs(持続可能な開発目標)に挙げられているさまざまな社会課題に向き合うことが、これからのITベンダーの成長の柱になる」と指摘。メインフレーム時代から60年余りにわたって日本の基幹系システムを構築してきた老舗ベンダーが、新しい社名とともに目指す新しいビジネスモデルについて話を聞いた。
多様性を象徴する「BIPROGY」
――国内で60年余り慣れ親しんできた日本ユニシスの社名を2022年4月1日付で「BIPROGY(ビプロジー)」へ変更するとは、ずいぶん思い切った決断をされましたね。その狙いから教えていただけますか。
ITビジネスの業際化が急速に進んでおり、業界の壁を越えてのデータのやりとりによって価値を創出するようになった今、従来の日本国内だけに閉じた営業区分けでは制約が大きすぎると判断したからです。米ユニシスとの契約上、国外で「日本ユニシス」のブランドを使う場合は、都度承認を得なければならず、当社が独自で開発した商材であっても、どうしても気持ちが国内だけに向いてしまいがちでした。
私の中で社名を考え直すきっかけとなったのが、15年にイタリアで開催されたミラノ万博でのこと。当社は日本館に協賛し、スマホアプリを提供したこともあって、実際に現地に出向いたのです。パビリオンで協賛企業の名前を探したところ、当社のロゴは掲示されず、代わりに黒い文字で「日本ユニシス」と小さく書かれていただけ。これではボーダレス化するITビジネスに対応できないと感じ、ここ3年くらいかけて誰からの制約も受けない唯一無二のブランドを手にしようと準備を進めてきた次第です。
――新社名BIPROGYに込めた思いは何ですか。
BIPROGY由来は青、藍、紫、赤、橙、緑、黄のいわゆる虹色の英語の頭文字を並べたものです。たくさんの色が集まっている虹色に「多様性」を見いだしたことから、この社名にしました。ITビジネスのボーダレス化は、多様な業種ユーザーが織りなすビジネスエコシステムを形成しますし、当社内の人材を見ても、多様性を内包していくことが次の成長につながるイノベーションにつながります。
念のためですが、社名変更した後も米ユニシスとの関係に影響はなく、これまで通り永続的な国内独占販売代理店として米ユニシス製品の販売、保守サービスを提供していきます。
再エネのカギは最適組み合わせ
――「業際化」や「ボーダレス」というキーワードは、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。
分かりやすい例としてエネルギー管理システム(EMS)が挙げられます。脱炭素の流れの中で、再生エネルギーの使用率を高めようとする動きが活発化しています。ただ、いかんせん再エネは火力に比べて不安定で、太陽光発電は雨や曇りの日は発電量が下がるし、風力も風向きによってバラツキが出る。一方、電気自動車は家庭用蓄電池としての機能を持たせられるので、再エネの発電量が減ったときは電気自動車に蓄電してある分のエネルギーを使うといった補完関係が、すでに実用化のレベルに達しています。
他にも、ミドリムシを使ったバイオ燃料はミドリムシそのものが二酸化炭素を吸収するため、ミドリムシ由来のバイオ燃料を燃やして二酸化炭素を排出してもある程度は吸収と排出がバランスしやすい。これら多様なエネルギーの組み合わせは、誰かがマッチングして、エネルギーを作る人と使いたい人を結びつけてあげる必要があります。EMSによって最適な組み合わせ結果を出してあげることで、バラバラだった要素が一つにまとまり、脱炭素に向けて前進し始める。
エネルギーはあるゆる業種で使いますので、EMSはボーダレスなビジネスエコシステムの象徴として、私はよく例に挙げています。
――今年度から新しい3カ年中期経営計画が始まっており、その中でも「ビジネスエコシステム」に言及しておられます。平岡さんが社長に就任した2016年にインタビューしたときもビジネスエコシステムを強く押し出していた記憶があり、ブレないというか、相当なこだわりをもっているようですね。
ITベンダーやSIerの役割を突き詰めると、先進的なデジタル技術で社会の課題を解決することだと思うのです。脱炭素やエネルギー問題もそうですが、課題を抱えている人と解決策を持っている人を効率よくマッチングするのが社会的な課題解決の近道となります。この5月に北國銀行の勘定系システムを、日本マイクロソフトのAzure上に再構築しました。パブリッククラウド環境におけるフルバンキングシステムの稼働は国内初の事例であるとともに、クラウド上でFinTech企業や地元の産業界を結んで、地域のビジネスエコシステムの実現を目指しています。
Azure上でのデータ収集・蓄積、分析を通じて、データを活用した新しい価値やサービスを創出するのが狙いですが、実はこれと類似する事例として、当社が提供している電気自動車向けの充電スタンド「smart oasis(スマートオアシス)」や、キャッシュレス決済サービス基盤「Canal Payment Service(キャナルペイメントサービス)」があります。smart oasisは先のEMSと親和性が高いですし、EMSの決済基盤としてCanal Paymentと連携することも可能です。これらを総称してビジネスエコシステムと呼んでいます。
社会の課題を顧客とともに解決へ
――新中計では24年3月期の連結売上高3400億円のうちアウトソーシング事業を1000億円にする目標を掲げています。昨年度のアウトソーシング事業が約600億円ですので、大幅な伸長計画となります。
ここでは便宜上アウトソーシング事業に分類していますが、ビジネスエコシステムが成長の柱であることに間違いはありません。クラウドに移行した銀行の勘定系システムを当社が運用するだけなら、従来型のアウトソーシング事業ですが、クラウド上でFinTechや地場企業のデータを活用し、新しい価値を生み出せるようになれば、当社を含めてエコシステムに参加している企業皆が従来になかった収益を手にすることができる。
当社が提供する電気自動車向けの充電スタンドやキャッシュレス決済サービス単体で見れば、当社自身による手数料ビジネスの一種ですが、充電スタンドをEMSの一つとして見れば、あらゆる業種を巻き込んで新しい価値を創るビジネスだと見ることもできます。今中計で掲げた1000億円の中には、脱炭素やSDGs(持続可能な開発目標)、ESG投資(環境・社会・ガバナンスの取り組みで投資先を選定する投資手法)など、地球規模の社会課題の解決に向けて当社が持つ先進的なデジタル技術、そして先見性や洞察力を駆使し、ビジネスエコシステムを通じて新しい価値を創る要素も含まれているということです。
――日本ユニシスは、歴史のある会社だけに基幹系システムをゴリゴリつくっている印象があったのですが、収益構造の面ではBIPROGYへの社名変更のインパクトと同じか、それ以上の転換点に今中計はなりそうですね。
名実共に次の成長に向けての極めて重要な中計だと捉えています。SDGsで謳っている持続可能な開発でカギを握るのがデジタル技術であり、持っている人とそれを必要としている人をマッチングする「デジタルコモンズ」を実現していきます。コモンズとは共有材のことで、地球環境そのものと捉えることもできますし、身近な例であれば稼働率が僅か数%でほとんど車庫で寝ているマイカーや、そこら中にある空き家の有効活用になぞらえることもできます。
共有材にすることで、逆に資源が粗末に扱われる「コモンズの悲劇」などという言葉がありますが、私はデジタル技術を駆使することで、これを「コモンズの奇跡」に変えたい。私たちITベンダーは、これまで「顧客のため」にビジネスを手がけてきました。当社もそうです。ですが、デジタルが広く社会の発展に欠かせない要素となった今は、「社会の課題を顧客とともに解決する」方向へ進むべきであり、当社のビジネスの伸びしろもここにあると捉えています。
Favorite Goods
地球儀をモチーフにした英TATEOSSIAN(タテオシアン)ブランドのカフスボタン。新社名BIPROGYのもと、業際的なビジネスを誰からの制約も受けずに地球規模の発想で展開していく思いを込めて「地球儀のカフスをつけている」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社会課題の解決を成長につなげる
平岡昭良社長は、2016年のトップ就任から一貫して「ビジネスエコシステム」を提唱してきた。再生エネルギーの生産者と、それを必要とする事業者、家庭を過不足なくマッチングする仕組みや、銀行の勘定系システムをパブリッククラウド上に構築し、FinTech企業や地場企業を結ぶプラットフォームなど、デジタルを駆使したビジネスの新しい生態系づくりに取り組む。
今回のBIPROGY(ビプロジー)への社名変更は、60年余り続いた日本ユニシスの従来型のビジネスモデルから、ビジネスエコシステムを軸とした新しいモデルへの転換を象徴するものになる。ITベンダーやSIerが主力としてきた売り切り型の大型SI案件だけでは、「中長期にわたって成長を持続させることは難しい」と、平岡社長は考える。
脱炭素やSDGs(持続可能な開発目標)、ESG投資(環境・社会・ガバナンスの取り組みで投資先を選定する投資手法)などの文脈で語られる持続可能な社会の実現と同様、企業活動においても社会全体が抱える課題と無縁ではいられない。さまざまな業種の顧客とともに社会課題を解決し、ビジネスを成長させる新しい生態系――ビジネスエコシステムを実現する熱い思いを新社名に込めた。
プロフィール
平岡昭良
(ひらおか あきよし)
1956年、石川県生まれ。早稲田大学理工学部卒業。80年、日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。2002年、ビジネスアグリゲーション事業部長。同年、執行役員。05年、取締役常務執行役員。11年、代表取締役専務執行役員。16年4月1日、代表取締役社長CEO・CHO(最高健康管理責任者)に就任。
会社紹介
日本ユニシスの昨年度(2021年3月期)連結売上高は前年度比0.6%減の3096億円、営業利益は同2.2%増の267億円。10期連続の営業増益を達成。24年3月期までの3カ年中期経営計画では、連結売上高3400億円、営業利益率10%超を目指す。連結従業員数は約8000人。22年4月1日付でBIPROGY(ビプロジー)に社名を変更予定。