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IAで日本市場の「天辺」目指す
オートメーション・エニウェア・ジャパン カントリーマネージャー 日本営業統括
由井希佳
取材・文/本多和幸、藤岡 堯 撮影/松嶋優子
2021/11/05 09:00
週刊BCN 2021年11月01日vol.1897掲載
自社の現状は「こんなもんじゃない」
──カントリーマネージャー就任から1年が過ぎました。現時点での自己評価は100点満点で何点でしょうか。(コロナ禍の)えらいタイミングで引き受けた感じはありましたが、評価としては中途半端ですが60点。マイナスの40点は何かと言えば、計画が達成できていないところがいくつかあったことです。一つは目標値。本社から日本への期待値がめちゃめちゃ高い。順調に成長させてきたと思いますが、求められている高い目標に向けては道半ばな点がマイナスかなと。もう一つは日本におけるオートメーション・エニウェアのブランドが、まだまだ市場に広がっていない。これも道半ばです。
ビジョンや製品の優位性、技術的なポイントは明確ですが、市場に届ききっていない。「こんなもんじゃない」という思いがすごくあります。メンバーもそれを深く理解している。かなり自信はあるんです。でもまだまだ広がっていない。非常に大きな伸びしろがありますね。
──就任までの経緯をお聞かせください。
19年8月にプリセールスのヘッドとしてジョインしました。入社の少し前にソフトバンク・ビジョン・ファンドからの出資を受け、ビジネスの立ち上げのフェーズでしたね。まだ銀座の貸しオフィスに入居していて、案件も少なかったです。肩書は関係なく、朝から夜遅くまで働きました。スタートアップ感がありましたね。
それから、20年に入ってすぐに新型コロナ禍に飲み込まれる状況となり、内外の環境変化でドタバタしていたところ、APACのエグゼクティブに呼ばれて日本のビジネスをリードしてほしいと言われたのが1年ちょっと前でした。
──新型コロナ禍による市場環境への影響は多かれ少なかれあったと思いますが、国内のRPA市場における自社の現状をどう捉えますか。
グローバルで見ても、日本は堅調に推移しています。新型コロナの蔓延を受け、お客様の業界や規模によって好調な企業とそうでない企業が大きく分かれてきましたが、好調な企業には、デジタルを積極的に活用したチャレンジングな提案を受け入れていただきました。サービス業では痛手を受けた企業が多かったものの、生産性向上やコスト削減、働き方改革につながる提案を採用していただき、成果も出すことができました。
当社は人から機械的なタスクを取り除き、人の知性でより偉大なことを成し遂げる、そういうビジョンの下に事業を展開しているので、テレワークの時代、クラウド化、働き方改革、生産性向上といった点と相性がよく、好調につながっています。日本はお客様の解約率が非常に低いです。ニューロゴ(新規顧客)も、特にパートナーを通じた獲得が四半期ごとに増えていますし、その点ではよかったと思っています。
──最初はサーバー型のRPAとして始まったと思いますが、製品ポートフォリオはここ数年でどう変化してきましたか。
19年ごろからポートフォリオの拡充を進めてきました。そのベースは(as a Service型RPAプラットフォームの)「Automation 360」(19年の提供開始時の名称は「A2019」)です。19年の時点でプラットフォームのクラウドネイティブ化の方向へ大きく舵を切れたことが大成功だったと思います。
当時は私も「業界初のクラウドネイティブのRPAプラットフォームの誕生」と話していましたが、それまでのRPAと言えば、Windows上におけるオンプレミスのPCのオペレーションという世界でした。これをマルチクラウド上で、さまざまなOSで開発・実行できる、コンテナ化したプラットフォームとして作り変え、ユーザーがブラウザで直感的に開発できるようにしました。
ただ、既存のお客様にとっては、これまでに作ったボットを移行してもらうなどの痛みがあったことも事実です。それでも、その後はクラウド上でアジャイルに新機能が乗ってくるので、既存のボットに影響を与えず、SaaSとしてバージョンアップできるスタイルに切り替えることができました。
クラウドネイティブに思い切って舵を切ることは、市場が広がってきた後では難しい。あのときだったからよかったんです。調査会社のレポートによると、20年のグローバルにおけるクラウドRPAのマーケットシェアで当社は54%とダントツでした。SaaS形式なのでこれから広げやすいし、お客様にとっても使いやすいものになっていると思います。

デジタルアシスタントでビジネスに変革を
──機能面では今後どのような拡充を図っていくのでしょうか。デジタルアシスタントにフォーカスしています。一般家庭では、Amazon Alexaのようなデジタルアシスタントに知りたいことを聞くと、素早く返してくれます。もし、業務でこのようなデジタルアシスタントが、インタラクティブかつリアルタイムに対応してくれる世界がやってきたら、ビジネスにデジタル変革が起きるのではないでしょうか。
これまでのRPAはある工程の定型作業の一部自動化というイメージでしたが、これからは人が介在するエンドツーエンドのプロセスをデジタルワークフロー化し、デジタルアシスタントが自動化していく。この「インテリジェントオートメーション」がこれからの主戦場になると考え、注力していきます。お客様側での導入の範囲も、部署に限らず横断的な取り組みとなるでしょう。
自動化を推進していくためには、お客様の(自動化に対する)成熟度がどの程度なのかが見えていないといけません。成熟度を把握した上で、お客様のデジタルトランスフォーメーションチームと一緒に、どういう道筋で自動化を進めるかを描いていきます。1年後、2年後、3年後にどういう状態であるかを見える化し、成果とデジタル化の実感の両輪で継続的に変化している状態へ持っていく。これが非常に重要です。
ノウハウ、技術はすべてパートナーに渡す
──拡販戦略はどう進めていきますか。まだまだ大企業ではないので、少ない人数で先進的なお客様のリファレンスモデルをまずつくり、全社的なデジタル化を支援するビジネスを確立するとともに、パートナーとの協業によりそれを広く浸透させていく方針です。言葉だけではパートナーも実感がわかないかもしれませんが、われわれはパートナーにコミットするので、パートナーもわれわれにコミットしていただきたい。今は重要なタイミングですので、広げていく作戦を練っています。
パートナー数は現在約50社ですが、得意領域はそれぞれあり、規模はエンタープライズからSMB、業種も公共系や病院など多岐にわたっています。18年からパートナーモデルを作って、徐々に変えながら取り組んできました。その後、単なるRPAというものではなくなっている中で、新しいソリューションに対してパートナーをイネーブルメント(最適化・強化・改善)する必要が出てきました。われわれはお客様の実績をつくる部分に注力しているので、そういったノウハウ、テクノロジーをパートナーにすべて渡す形で拡販していきたいです。
パートナーからすると、第1フェーズのRPAブームは全社展開ではなく、ある工程の自動化にとどまっていたので、それほど大きなビジネスになるとは認識されていませんでした。しかし第2フェーズでは部署を越えてエンドツーエンドで業務が最適化される。その段階に入れば途端にビジネスの規模が大きくなります。この点をパートナーに訴求しきれていません。それができれば、他社ではなく、オートメーション・エニウェアと組めば儲かるという感覚を持っていただけるはずです。
──社内マネジメントにおいて力を入れていることはありますか。
愚直ですが、やはりみんなをモチベートするための目標が大事です。みんなには2025年度に日本で「天辺」=ナンバーワンになるぞと言っています。ナンバーワンとは、売り上げでトップに立つということです。そのためのGo to マーケットのシミュレーションを方針に落として、言語化して、チームとシェアしています。スタートアップには「ここで何かを成し遂げたい」と思っている人が集まっているので、明確な目標を示すことに意味があります。

Favorite Goods
今の会社に移る前にできた休暇期間に乗り始めたロードバイク。ストレス解消や体力づくりに活用している。自転車に詳しい友人に相談して購入したそうで、決め手になったポイントは「『私を呼んでいるな』という感じがした」とのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
圧倒的主体性がもたらす「運」
カントリーマネージャーに就いたいきさつをたずねると「自分はタイミングとか運命に乗っかっていくタイプ」との言葉が漏れた。カントリーマネージャーの誘いに対しても、本人曰く「責任とかも深く考えることなく承知した」そうだ。
「周囲が意識を高くして物事に取り組んでいる姿にわくわくして、それがモチベーションになって、互いに盛り立てたい、成果を分かち合いたいと思うようになってくるんです」
周りの行動に刺激を受け、一緒になってさまざまなことに挑んでいけるメンタリティ。それがあるからこそ、思いもよらないチャンスにもためらいなく飛び込める。人からは「運を引き寄せる」とも言われるそうだが、なんでも意欲的に取り組む姿勢が、必然的にいい結果をもたらす。そんなふうにも思えてくる。
社内に対しては「圧倒的な主体性を持つ強いチーム」であるよう求めているという。常に高い意識をもって互いを刺激しあい、モチベーションを高めあえるチームになれれば、成果は自ずと生まれてくる。
目指すは日本市場のナンバーワン。その目標に届くかは今は誰にもわからない。それでも、たどり着けたとしたら、それはやはり運ではなく、組織の実力によるものだろう。
プロフィール
由井希佳
(ゆい きよし)
1970年生まれ、大阪府出身。関西大学工学部卒。プラント業界、ECスタートアップを経て、2001年にEMCジャパンに入社。名古屋支店長などを歴任し、12年にはヴイエムウェアへ移り、IoT事業統括などを務める。19年にオートメーション・エニウェア・ジャパンにセールスエンジニア本部本部長として加わり、20年10月から現職。
会社紹介
ボットを利用したRPAソリューションを展開する米国の大手ベンダー、オートメーション・エニウェアの日本法人。18年3月設立。米本社はRPAとAI、機械学習、分析などの機能を組み合わせた高度な自動化プラットフォームを、Webベース/クラウドネイティブで提供している。
自社の現状は「こんなもんじゃない」
──カントリーマネージャー就任から1年が過ぎました。現時点での自己評価は100点満点で何点でしょうか。(コロナ禍の)えらいタイミングで引き受けた感じはありましたが、評価としては中途半端ですが60点。マイナスの40点は何かと言えば、計画が達成できていないところがいくつかあったことです。一つは目標値。本社から日本への期待値がめちゃめちゃ高い。順調に成長させてきたと思いますが、求められている高い目標に向けては道半ばな点がマイナスかなと。もう一つは日本におけるオートメーション・エニウェアのブランドが、まだまだ市場に広がっていない。これも道半ばです。
ビジョンや製品の優位性、技術的なポイントは明確ですが、市場に届ききっていない。「こんなもんじゃない」という思いがすごくあります。メンバーもそれを深く理解している。かなり自信はあるんです。でもまだまだ広がっていない。非常に大きな伸びしろがありますね。
──就任までの経緯をお聞かせください。
19年8月にプリセールスのヘッドとしてジョインしました。入社の少し前にソフトバンク・ビジョン・ファンドからの出資を受け、ビジネスの立ち上げのフェーズでしたね。まだ銀座の貸しオフィスに入居していて、案件も少なかったです。肩書は関係なく、朝から夜遅くまで働きました。スタートアップ感がありましたね。
それから、20年に入ってすぐに新型コロナ禍に飲み込まれる状況となり、内外の環境変化でドタバタしていたところ、APACのエグゼクティブに呼ばれて日本のビジネスをリードしてほしいと言われたのが1年ちょっと前でした。
──新型コロナ禍による市場環境への影響は多かれ少なかれあったと思いますが、国内のRPA市場における自社の現状をどう捉えますか。
グローバルで見ても、日本は堅調に推移しています。新型コロナの蔓延を受け、お客様の業界や規模によって好調な企業とそうでない企業が大きく分かれてきましたが、好調な企業には、デジタルを積極的に活用したチャレンジングな提案を受け入れていただきました。サービス業では痛手を受けた企業が多かったものの、生産性向上やコスト削減、働き方改革につながる提案を採用していただき、成果も出すことができました。
当社は人から機械的なタスクを取り除き、人の知性でより偉大なことを成し遂げる、そういうビジョンの下に事業を展開しているので、テレワークの時代、クラウド化、働き方改革、生産性向上といった点と相性がよく、好調につながっています。日本はお客様の解約率が非常に低いです。ニューロゴ(新規顧客)も、特にパートナーを通じた獲得が四半期ごとに増えていますし、その点ではよかったと思っています。
──最初はサーバー型のRPAとして始まったと思いますが、製品ポートフォリオはここ数年でどう変化してきましたか。
19年ごろからポートフォリオの拡充を進めてきました。そのベースは(as a Service型RPAプラットフォームの)「Automation 360」(19年の提供開始時の名称は「A2019」)です。19年の時点でプラットフォームのクラウドネイティブ化の方向へ大きく舵を切れたことが大成功だったと思います。
当時は私も「業界初のクラウドネイティブのRPAプラットフォームの誕生」と話していましたが、それまでのRPAと言えば、Windows上におけるオンプレミスのPCのオペレーションという世界でした。これをマルチクラウド上で、さまざまなOSで開発・実行できる、コンテナ化したプラットフォームとして作り変え、ユーザーがブラウザで直感的に開発できるようにしました。
ただ、既存のお客様にとっては、これまでに作ったボットを移行してもらうなどの痛みがあったことも事実です。それでも、その後はクラウド上でアジャイルに新機能が乗ってくるので、既存のボットに影響を与えず、SaaSとしてバージョンアップできるスタイルに切り替えることができました。
クラウドネイティブに思い切って舵を切ることは、市場が広がってきた後では難しい。あのときだったからよかったんです。調査会社のレポートによると、20年のグローバルにおけるクラウドRPAのマーケットシェアで当社は54%とダントツでした。SaaS形式なのでこれから広げやすいし、お客様にとっても使いやすいものになっていると思います。
- デジタルアシスタントでビジネスに変革を 「インテリジェントオートメーション」に注力
- 今後の拡販戦略 パートナーとの協業、ノウハウ、技術はすべてパートナーに渡す
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