クラウドがITの主流になると言われ続けて10年以上が経過した。その普及スピードはこれまでも加速する一方だったが、新型コロナ禍により、さらに一段ギアが上がったというのが多くの人の実感だろう。アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)のトップとして、「Amazon Web Services(AWS)」とクラウド市場の成長を10年に渡りリードしてきた長崎忠雄社長は、それでも「クラウドはまだ始まったばかり」と言い切る。もはや法人向けIT市場のビジョナリーとなったAWSが、これからのIT産業界や日本の社会全体が歩む道をどう展望し、その中で自らが果たすべき役割をどう定義しているのか。長崎社長の言葉には、長年の継続的かつ驚異的な成長を経ても、「満足」とは無縁のハングリーさが溢れている。

「イノベーションのための技術」を再認識

――この2年間でAWSやクラウドに対するマーケットの見方はどう変わったでしょうか。

 日本のお客様のクラウドに対する意識、導入スピードが劇的に変わったと思います。もともとクラウドはイノベーションのための技術で、低コストでトライ&エラーを繰り返して、成功の確率を高めていくわけです。新型コロナ禍に直面して、従来のやり方では2年、3年とかかる変革やイノベーションに取り組まなければならなくなったお客様がクラウドを使う流れが一気に広がりました。

 AWSそのものがアマゾン・ドット・コムのイノベーションの過程で生まれたものです。テクノロジーとカルチャー、二つの面で日本のお客様を支援してきた実感があります。

――カルチャーの観点からの支援とはどのようなものでしょうか。

 イノベーションって簡単じゃないんですよ。リスクを取らないといけませんし、うまくいくかどうか分からないことをやり続けなきゃいけない。なかなか日本の企業はそういう組織ができていないですし、既に成功しているビジネスがあるほど変えられないじゃないですか。

 我々のテクノロジーがいくら優れていても、お客様に自ら変わりたいというモチベーションがなければ、導入してもなかなか成功に導けません。ですから、お客様が変わるためのヒントとして、AWSが日頃経営でやっていること、お客様の支持をずっと捉え続けるために取り組んでいることなどをワークショップで共有する、といった活動もやっています。ご要望も本当に増えていますね。

――AWS自身が変わったことも多いのでは。

 大阪リージョンのフルリージョン化という、日本のお客様からかねて強い要望があったことを実現できたことは大変嬉しいですし、多くのお客様に感謝していただいています。

 社内施策という観点では、昨年3月にいち早くリモートワークに移行しました。我々が先頭に立って、リモートでもスピードを落とさずにビジネスができるということを証明できたと思っています。米国の当社幹部やサービスチームと日本のお客様をつなぐ機会も格段に増えましたので、これもリモート中心になったことによる大きなメリットの一つです。

――オフィスは縮小していきますか。

 そういう方針ではないです。クラウドの市場はこれからさらに大きく広がっていきます。当社はあらゆる部門で人材採用を積極的にやっています。新しく入った人材との一体感を醸成するにはリアルな場が必要ですし、イノベーティブなことをやろうという場合にもリモートでのコミュニケーションでは不十分なことがあります。お客様とのコミュニケーションもそうですね。必要に応じた選択肢を提供していきます。

――大阪にフルリージョンを立ち上げたことのビジネス上の効果についてはどう見ておられますか。

 まずシンプルに西日本地区のお客様が東京ではなく大阪リージョンを選べるようになりましたので、そうした引き合いは非常に増えています。

 また、クラウドへの移行があらゆるワークロードで進んでいますが、ミッションクリティカルになればなるほど物理的に距離が離れたところにDRの拠点を置きたいわけで、そうしたニーズも多いです。AWSは一つのリージョンが複数のアベイラビリティゾーンで構成されていますので、単独でも堅牢性は非常に高いのですが、法規制があるために離れた複数の拠点を必要としているお客様はたくさんいらっしゃいます。

――競合のクラウドベンダーからは、「ミッションクリティカルシステムのクラウド化についてはAWSよりも当社のサービスが適している」というセールストークが頻繁に聞かれます。

 他社が言っていることは把握していませんが、我々はこの業界で十数年、パイオニアとしてやってきました。エンタープライズ企業における事例の多さとサービスの多さは群を抜いていると評価していただいています。これは簡単に積み上げられるものではないですね。

――日本におけるクラウド活用やデジタル化、DXの遅れを指摘する声も一層高まった感があります。

 日本が米国と決定的に違うのは、デベロッパーの数だと思います。今まではそれでよかったとしても、クラウドの時代はそれが足かせになる可能性があります。米国では例えば、一般的な金融機関がIT人材を大量に採用して、エンタープライズサービスを自分たちでつくるテクノロジー企業に変わる動きも目立っています。日本は人材の流動性も低いですし、そもそも数が少ない。これは向こう数年でボディブローのように効いてくると思います。

――AWSジャパンとしてその課題解決に貢献できることはありますか。

 クラウド人材やイノベーティブなことができる人材を育てられるようなトレーニングプログラムとサーティフィケーションを拡充しています。パートナーに対しては無償のプログラムも用意しています。また、日本独自の施策として、パートナー経由でお客様の内製化を支援するプログラムを立ち上げました。既に15社のパートナーに賛同していただき、これらの活動を通して日本の次世代の人材育成に取り組んでいます。