グーグル・クラウド・ジャパンの事業が好調に推移している。パートナーの拡充が進み、さまざまな業種の大手企業での導入実績が増加。さらに、日本政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」に「Google Cloud Platform(GCP)」が採用されるなど、その存在感は増すばかりだ。2019年11月に日本代表に就任した平手智行氏は就任直後から、国内企業の基幹システムのクラウド化に加え、データ活用の重要性を唱えてきた。新型コロナ禍により、デジタル活用が急速に進む中で、データ活用に本格的に取り組む企業も増大しており、グーグルの技術で国内企業のデータ活用を支援し、日本全体の競争力を高めていく。
(取材・文/岩田晃久、日高 彰 写真/大星直輝)
クラウドに変えただけではDXは実現できない
──日本代表に就任した際に、既存の基幹システムのクラウド化とデータの活用の支援に取り組んでいくと話していました。
オンプレからクラウドへの刷新は引き続き順調に進んでおり、従来型のインフラをリフトするということで、業務上のスケールがアップダウンするのに対して柔軟に対応できる、運用の工数が減る、セキュリティが良くなるなど、そうした面では一定の効果は出ています。ただ、クラウドに移行することがゴールになっており、その先のデータ活用までは取り組めていなかったケースも少なくありませんでした。
しかし、新型コロナウイルスにより、エンドユーザーはネット上で何でもできることが分かり、ネット中心の行動様式に大きく変化しました。その結果、企業にはエンドユーザーの行動様式の変化に対応することが求められ、データを活用した製品の開発や需要予測などに本格的に取り組むケースが増えてきました。加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するためには、働き方改革をより推進する必要もあると多くの企業が気づきました。そういった中で、当社のクラウドソリューションへの引き合いが増えています。
マルチクラウドで強みを発揮
――平手代表が就任して以降、パートナーが急増した印象があります。パートナーとの取り組みについて教えてください。
この約2年で大きく進化したことがパートナーとの取り組みです。当社のテクノロジーをそのままお客様に届けるだけでは、必ずしも(お客様の)経営課題を解決できるとは言えません。パートナーの力を借り、テクノロジーをイノベーションに変えてお届けすることが重要です。これは、私が就任直後に掲げたことですが、新型コロナ禍で大きく進みました。パートナーエコシステムでは、大手SIerやCIer、コンサルティングファーム、そうそうたる企業がパートナーとなっています。加えて、グーグル系ではなかったアイレットなどにパートナーに参画していただいたり、伊藤忠商事がジーアイクラウドというグーグルにフォーカスした企業を設立するといった動きもあります。「Google Workspace」でも、ダイワボウ情報システム、TD SYNNEXが認定パートナーになりました。
――短期間でここまでパートナーを拡充できた要因はどこにありますか。
さまざまな要因はありますが、先ほど申し上げたように、インフラをただクラウドに移行するだけではDXを実現できないことにお客様が気づき、データ活用に取り組むようになりました。その際、ただデータを収集するのではなく、正規化し、そして安全に保管しながら、リアルタイムに、かつ、汎用性の高い状態でデータを常にキープする必要があります。さらにそのデータを自動で高度に分析し、ローコード・ノーコードで活用できなければなりません。つまりデータアナリストだけが使えるデータにするのではなく、すべての従業員が活用できるデータにする必要があります。それを実現できるのが当社の技術です。
グーグルは検索エンジンや「YouTube」、広告や「アナリティクス 360」などの全てにAIを実装し、あらゆるデータを収集分析、可視化して、そこからサービスを提供しています。そこが我々の一丁目一番地になります。このようなグーグルのテクノロジーを活用してデータドリブンを進めたいという声が増えていることが、パートナーが拡大している要因の一つです。
最近、パートナーやお客様から「A+G」という言葉を聞くようになりました。「A」は「Amazon Web Services(AWS)」と「Microsoft Azure(Azure)」を指しており、「G」はGCPです。既にAWSやAzureを導入している企業が、クラウドサービスを追加する際に、データ活用を目的にPaaSの領域でGCPを選択するケースも増加しています。
――ということは必ずしもすべてGCPでなくても良いということでしょうか。
当社のサービスはマルチクラウドに対応しており、オープンソースの技術をベースとしているということがポイントです。例えば、マルチクラウド分析サービス「BigQuery Omni」では、AWSやAzureのデータをGCPに転送・移行することなく、お客様のためにモダナイズされたデータウェアハウス(DWH)を作ることができます。変化の速い時代の中では、常にデータを進化させていく必要があるため、オープンソースのテクノロジーを活用していくということは、お客様にとっても競争力の源泉として必須になってくると思います。もちろん、当社はPaaSの領域だけの提供で満足するつもりはありませんが、お客様が既に利用されているクラウド環境からでもデータ分析などを行えるという点は強力な武器になるということです。
――新型コロナ禍により働き方も大きく変わりました。その中で、Google Workspaceの利用者も急増しています。支持される理由はどこにあるのでしょうか。
Google Workspaceはメールツールではなく、コラボレーションと働き方改革を支援するサービスです。例えば、機能の一つである共同編集では、一つの議題に対して全員がそこに集まり、チャットやスライド、データを活用しながらリアルタイムに意見を出し合えます。そうすることで、参画する社員の自立意識が芽生えるのと同時に(社員の)思考プロセスも見えてくるため、その場、その場でコラボレーションが起きます。これは、メールで一人一人の意見を集めて集計するのとは大きな違いです。お客様がデータを集めただけではダメで、働き方が変わらなければ、根本的なコラボレーションができない。そうした理解が進んだことで、Google Workspaceの利用も増加しています。実際、ファーストリテイリングやファミリーマート、全日本空輸などの大手企業がGoogle Workspaceで現場の声を集約し、在庫管理や製品開発に生かしています。
ガバメントクラウドの基盤に採用
――GCPがガバメントクラウドに採用されたことも大きなトピックですね。
私が就任して以降、安心して利用できる環境を整えるため第三者認証の取得をはじめ、金融やヘルスケアなど各業界のガイドラインへの準拠を強化してきました。そして、ガバメントクラウドでは、プライバシー、セキュリティ、可用性といった領域が厳格に審査されます。その審査をパスできたことで、正真正銘、安全性が認められたということになります。
当社では、現在、五つのサービスがISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)に登録されています。これは、一つのベンダーとしてはとても多い実績です。幅広い領域でお客様に安心して使っていただけることを周知させていきたいですね。
――自治体でもデータのサイロ化は課題となっています。
今後は自治体も企業と同様に、人に寄り添ったハイパー・パーソナライズ(顧客の行動データをリアルタイムで収集し、顧客の要望やニーズに応じて製品、サービス、顧客体験をカスタマイズする概念)な提案が求められます。それを実現させるためには、やはりサイロ化されているデータを集約し、活用していくことが必須となりますので、グーグルの技術で支援しています。
――今後の抱負をお願いします。
長年使われてきた基幹システムが「レガシー」などと言われてしまっていますが、日本のお客様は本当に素晴らしいシステムをお持ちです。そして、そこには、指向性の高いデータが存在しています。ただサイロ化しており、データ活用の点では使いにくいのが課題です。お客様が「やりたいこと」から一緒に考え、そのために何を変革していくのかを討議させていただき、そのためにデータの棚卸しを行い、DWHを作り込んでいきたいです。そして、その先にある、クラウドへのリフトやローコード・ノーコードでのデータ活用、全ての従業員がコラボレーションして働ける環境を実現するための支援を行っていきます。また、必要なサプライチェーンやバリューチェーン上でコラボレーションすることを多くのお客様が望まれているため、ゼロトラストネットワークの「Beyond Corp」といったサービスで、安全で安心できるネットワーク・クラウド環境の提供を目指していきます。多くの企業が変革の時を迎えていますので、当社が支援することで日本の競争力を高めていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
最近は、GCPをはじめとしたグーグル・クラウドの製品を耳にする機会が増えた。高成長の要因には、日本のIT市場を熟知している平手代表の存在が大きい。取材の際にも、一つの質問に対して、国内の状況と照らし合わせグーグル・クラウドが果たすべき役割を熱く答えてくれた。こうした平手代表の人柄に惹かれて、パートナーに参画する企業も多いのだろう。
19年11月に日本代表就任。そこからデータ活用の重要性を唱えてきた。新型コロナウイルスの影響で大幅に進んだとされる国内のデジタル変革の中で、平手代表が指摘してきた通り、データ活用は重要な項目となった。国内企業、そして行政機関には高度にデータを活用する術はまだまだ足りない。だからこそ、グーグル・クラウドの果たすべき役割は重要だ。テクノロジーで日本の成長を支援していく。
プロフィール
平手智行
(ひらて ともゆき)
1961年生まれ。横浜市出身。87年、日本IBMに入社。アジア太平洋地区経営企画、米IBM戦略部門を経て2006年、日本IBM執行役員と米IBMバイスプレジデントに就任し、業種別事業やマネージドサービス事業を担当。12年、ベライゾンジャパンの社長に就任。15年7月、デル日本法人の代表取締役社長に就任。19年8月、デルおよびEMCジャパンの代表取締役会長に就任。19年11月から現職。
会社紹介
【グーグル・クラウド・ジャパン】米グーグルのクラウドサービスを扱う日本法人として2016年に設立。法人向けクラウド基盤「Google Cloud Platform(GCP)」およびコラボレーション/生産性向上ツール「Google Workspace」などを提供する。GCPは日本政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」に採用された。現在、東京と大阪にリージョンを開設している。