(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
さまざま事業の経験が生きる
── 社長に就任して率直な思いを聞かせてください。デジタルプレス事業本部長からのトップ起用ということに関して、プリンティング事業へ注力する意志の表れとみる向きもありますが、どう考えますか。世界が大きな変化を遂げ、過渡期にある中で、岡(隆史前社長、現会長)の年齢的な部分もあり、新しい方向へ進む意味でバトンタッチにはいいタイミングだったと思います。いずれは経営のトップになれたらいいなとは思っていたので、自分のキャリアという意味でも光栄に思いました。それと同時に身の引き締まる思い、責任を強く感じました。
確かにプリンティング事業は売上規模で見れば、日本でも世界でもそれほど大きな事業ではありません。ただ、われわれにとって非常に重要な事業であり、まさにイノベーションを起こすような、テクノロジーシンボルのような事業であります。会社の中ではディスラプション、いわば破壊的な市場創造を起こす分野だと思っています。
私の社長就任に関しては、これはもしかしたらHPのカルチャーかもしれませんが、何か一つの事業だけを掘っていくよりも、さまざま事業を経験することも大切だと感じます。当然トップになれば、売り上げの規模は関係なく、皆さん日本HPのお客様なので対応できなければなりません。私の場合、Eコマースから入り、個人向けPCの責任者、量販店の担当、デジタルプレスと、いわゆるミクロな個人のお客様から、大きな機械を売るような事業まで経験して、幅広く理解していることも人事としてあったのかなと思います。
── デジタルプレスの今後の展望はいかがでしょうか。
例えば、コロナ禍になって今までにないほど小ロットの印刷ニーズが多くなってきました。需要が読めなくなっていますので、今まではオフセット印刷で大量に何万部刷っていたものをデマンドに合わせる形で少しずつ刷っていこうというニーズがあります。
マーケティングにしても、今まではマスに同じようなDMを送ればよかったものが、お客様に刺さるようなDMにしようということで、パーソナライズされる傾向があります。このような流れの中でデジタルプレスの需要は間違いなく伸びていくと思いますし、非常に重要な事業であると考えています。
われわれのデジタル印刷は非常に高品質で、オフセット印刷の置き換えができることが、まず一つの大事なポイントかなと思っています。版がないので、ウェブでの受注から生産、加工までを一気通貫で行え、しかも全て見える化しているので生産状況の把握もでき、入り口から出口まで効率のいい生産システムを組むことができるのも売りです。それから、インクも多くの色を兼ね備えているので(色の)再現性が高い。この三つが差別化できるポイントです。