業界特化型のERP製品を主力事業として展開するインフォアジャパンの新社長に、2022年11月に黒塚明彦氏が就任した。18年に開始したSaaS事業に注力し、23年から27年までの5年間でSaaSソリューションの導入企業数100社の達成を目標として新たに打ち立てた。達成に向けて、新規パートナーの獲得やパートナーに比重を置いた販売、導入など、パートナーエコシステムの強化に取り組む方針だ。
(取材・文/大向琴音 写真/大星直輝)
必要十分な機能で業務改革を推進
──22年11月に社長に就任された際の説明会で、前職までの経験が生きているとコメントされていました。
07年~10年までSAPジャパンで製造営業本部長を担当するなど、ERP製品については、これまでも販売、導入に携わってきました。SAPもそうですが、ERP製品は財務会計や管理会計部門が対象の中心です。その上、日本の製造業のお客様は、これまで何年、何十年も積み上げてきた業務プロセスがしっかりとあり、それをわざわざ崩してパッケージに合わせるということはあまりしません。そのため日本の製造業のお客様で生産管理や、現場周りにERPを適用しているケースはなかなか少ないです。
しかし、インフォアの場合は、財務会計部門だけでなく、生産管理など現場周りにも柔軟に対応できる製品を提供しており、大手製造業でも、財務会計部分はSAPだけど、生産管理はインフォアを入れているというケースが結構多いです。生産管理の領域に関しては、米Electronic Data Systems(エレクトロニックデータシステムズ)で(当時の親会社である)ゼネラルモーターズに関係する事業を10年やっていましたので、こちらも知見があります。
インフォアのもう一つの特徴は、エッジソリューションと呼ぶERP以外の製品もいろいろと持っていることです。それぞれの製品の専業ベンダーでも長い営業経験があり、こちらもインフォアのビジネスに生かせると考えています。
──インフォアのソリューションの特徴については、どのようにお考えですか。
インフォアはもともと自社でソフトウェアを開発して大きくなった会社ではありません。ある程度評価の高かったソフトウェアを提供する企業を、いくつも買収して大きくなり、結果として、組立型製造業やプロセス産業、あるいはアパレルやファッション流通など業界に特化した製品を多く有しています。
ERP製品を提供しているほかのベンダーは、インフォアが提供しているような業界特化のものではないので、毎回、その業界に合わせてかなりカスタマイズをしていく必要があります。一方で、インフォアの場合は、業界ごとの機能を作り込んだ製品があり、その業界のお客様は共通の製品を使用されるので、一つのサーバーの上に複数のお客様のシステムを載せるマルチテナントが実現できます。導入期間が短くなりますし、カスタマイズも必要なくなりますから、コストがかなり抑えられます。
また、日本の製造業は、何十年もの積み重ねがあって現場の業務を変えたくないという意識があるとお話ししましたが、必ずしもそれがいいこととは限りません。中堅企業でも、今のプロセスがベストかどうかわからないという課題を持つお客様はいらっしゃいますし、業務を自分たちで変えて、最適なものをつくり出せるお客様ばかりではありません。であれば、既に世界中のお客様の間で使われていて、業界ごとに必要十分な機能をはじめから提供しているインフォアのシステムに業務を合わせていただくことで、迅速に業務改革ができます。
──最近の市場の動きをどのように見ていますか。
国全体でDX推進の意識が強くなってきました。老朽化しているシステムを入れ替えたいという声は非常に多く、ERP製品に関しては各企業の強い投資意欲を感じています。クラウドについては、3、4年前までは、企業がパブリッククラウドに対して意欲を持っておらず、クラウドと言ってもプライベートクラウドをという考え方が多かったです。しかし、投資対効果や維持・メンテナンスの費用を考え、マルチテナントのクラウドに興味を持つ企業がとても増えたと思います。
領域特化のパートナー獲得にも注力
──SaaS事業の状況はいかがでしょうか。
当初は私たちもシングルテナントのクラウドでしたが、18年にマルチテナントのクラウドの提供を始めました。それから5年ぐらい経ちますが、年々、導入されるお客様が多くなっています。22年は新規でSaaSを導入するお客様が4社。それから既存のお客様でオンプレミスからクラウドへの載せ替えが4社ありました。
──11月の説明会で、5年間で100社へのサービス導入を目指すと話していました。
23年から27年までの5年間で100社のサービス導入を目指していくという話をさせていただきましたが、あながち不可能ではないんです。5年間で100社ですと、1年あたりで割ると20社になります。22年は導入が10社ほどありますので、今のペースだと23年はさらに増えるとみています。お客様のニーズとしては、27年には30社あるいは40社になることも考えられます。
ただし、そうなってくると今度は導入リソースが課題になってきます。今、IT業界ではリソースが本当に不足しています。できるだけ「Fit to Standard(業務を標準的なシステムに合わせること)」で短期間に導入して、リソースを最低限に抑えられるようなかたちの提供を目指しています。
──パートナー戦略についてはどのような方針でしょうか。
目標の達成に向けてパートナープログラムを大幅に変えようとしています。現在、チャネルと呼んでいる販売と導入の両方を手掛けるパートナーが17社、ライセンス販売はせず、導入あるいはビジネス部分のリーディングを担うアライアンスパートナーが12社、導入パートナーが20社あります。
従来の営業スタイルでは、直販営業とチャネル営業の二つがありました。チャネル営業では、インフォアはチャネルパートナーの販売を支援しますが、直販営業では、お客様に対し、弊社の導入部門であるGPS(グローバルプロフェッショナルサービス)チームを活用して導入していく自己完結型をとっていました。23年からは、パートナーと一緒にセールスしていき、導入の比重をもう少しパートナーに移していこうとしています。さらにGPSによるパートナーの支援にも取り組んでいきます。
──新規パートナーの獲得も進めるのでしょうか。
はい。特に開発の回転数を多くし、短期で導入して次のプロジェクトを取りにいけるような考え方を持っているパートナーを新たに獲得しています。まだオンプレミスでの経験が長いパートナーが多い状況ですが、一方で、初めからSaaSありきで考えていたり、クラウドの導入を経験したりしているパートナーは増えてきているので、そういった動きを加速していきます。さらに、ターゲットとして自動車部品メーカーや半導体製造装置メーカー、検査装置メーカーなどにフォーカスしていることから、できるだけこの領域に強いパートナーを拡大したいとも考えています。
──今後のビジネスの展望をお願いします。
5年で100社導入に向けて売り上げ目標も立てていますが、ともすれば毎年、営業ノルマに追われ、それを達成するのに必死になってしまいます。売り上げだけでなく、お客様の満足や日本の産業にクラウド製品で寄与するといった側面についても中長期のプランで考えていきたいと思っています。商材はいいものを持っているので、いくらでもビジネスができるのではないかとわくわくしています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
大切にしている言葉を聞いたところ「Control your own destiny or someone else will(自らの運命をコントロールしなさい。さもないと、他の誰かがコントロールすることになる)」という米General Electric(ゼネラル・エレクトリック)の元経営者ジャック・ウェルチ氏の言葉を挙げた。
インフォアは歴史のある企業ということもあり、今までの流れで事業に取り組んでいる部分があるとみる。しかし、成長を続けるためには、これまでのやり方を変え、市場の流れに合わせて新しいことに取り組んでいくことが必要との考えがある。
競合他社に在籍していた頃から、当然、インフォアのことは知っていた。トップに就任し、魅力的な製品をそろえていることを改めて認識している。他社にはない強みを生かして飛躍するために、現在はSaaS事業を中心にビジネスの拡大を目指しており「変えるべきはここ」と力を込める。
プロフィール
黒塚明彦
(くろつか あきひこ)
1964年生まれ。埼玉県出身。日本大学法学部政治経済学科卒業後、米Electronic Data Systems(エレクトロニックデータシステムズ)に入社し、親会社であるGeneral Motors Company(ゼネラルモーターズ)や日本ゼネラルモーターズの事業などを担当。SAPジャパンのバイスプレジデント製造営業本部長やBIツールベンダーの日本ティブコソフトウェアのカントリーマネージャーなども経験した。2022年11月から現職。
会社紹介
【インフォアジャパン】1995年に設立。米Infor(インフォア)の日本法人として、業界特化型のERP製品を中心に、各種エンタープライズ・ソリューションの販売、導入、コンサルティングを手掛ける。