AIや機械学習のためのクラウド型統合データ基盤を提供する米Databricks(データブリックス)の日本法人は、データ基盤とAIを活用したビジネス変革を提案することで、国内市場におけるビジネスの拡大を目指す。笹俊文社長は「大量のデータを扱えて、そのデータを基にAIを生かしたビジネスのシナリオを育てていけるツールの優位性をしっかりお伝えしたい」と意気込む。
(取材/日高 彰 文/堀 茜 写真/大星直輝)
処理高速化で扱うデータがより多様に
──今、多くのベンダーが「AIやデータ利活用の課題を解決する」と銘打つデータプラットフォームを手がけています。競合も多いと思いますが、一番の強みは何だとお考えですか。
製品面での最大の特徴は、プラットフォームの中心に分散処理のエンジンである「Apache Spark」を据えていることです。Sparkはオープンソースのプロジェクトで、当社もコントリビューターとして大きな役割を果たしていますが、プラットフォーム上でSparkがより最適化され、オープンソースで公開されているものよりも高速に動作するという点で、非常に優位性が高いでしょう。
AI活用のために、大量のデータに成形を施していく流れを考えると、いわば「ブロンズ(銅)データ」であるロー(生)データを、集計された「シルバーデータ」にし、さらに使いやすく加工した「ゴールドデータ」へと、いかに速く処理するかが大切になります。そこに長年オープンソースで培われてきたSparkがものすごく寄与しています。
データ処理のスピードが10倍になれば、取り込むデータのバラエティーを10倍にできる可能性があります。今まで処理時間と加工コストにお金がかかっていたからこれだけしかデータが使えなかったというところが、当社のプラットフォームなら素早くデータを加工していける。ここがやはり、一番の強みとなる部分です。
──今年1月に社長に就任されました。直近の日本市場の状況をどうみていますか。
まさに、データ利活用とAIがうまく交わってくるタイミングに入ったと思っています。日本企業の中で、「データを集める」ということに関して、先駆けて一生懸命やってきたところは多いです。最近はそのデータをいかに利活用するかが大きなトピックにあがってきていると感じます。ただ今はまだ、AIを使ってどんなビジネスシナリオを描くか、どのデータが価値があるのか、見極めていこうという段階と言えます。
一方で、自社のデータを外に出して利活用するのは難しいということも、皆さん感じていると思うんです。例えば、コールセンター向けにチャットボットを大規模言語モデルで教育したいと思ったとしても、コールセンターの10年分のログを外部のサードパーティーに提供するのは、セキュリティ上の壁が厚い。外に出せなければ、社内で10年分のログを整理し、自分たちでモデルをチューニングしていかなければなりません。そういったニーズに対して、当社のプラットフォームがご活用いただけるはずです。
肌感覚だと、私が入社してから引き合いや忙しさを含め、倍くらいになってきています。ただ、私どものようなツールがあることをまだ認知されていない面が多々あるのも現状です。大量のデータを扱えて、そのデータからAIのビジネスシナリオを自社環境の中で育てていけるツールがある、ということを多くのお客様にしっかりと伝えていきたいです。
ツールと人の両面でAI活用を支援
──データ活用に成功している企業は多くないと言われています。何が課題となっており、それをどのように解決していこうとしているのでしょうか。
当社のプラットフォームは大量データを手際よくコストパフォーマンスよく扱えて、それによってAIのビジネスシナリオがつくれます。ただ、もちろんツールだけでは解決できない部分も多くあります。ここでいつも付きまとうのが、人材の不足です。データサイエンティストが足りないのは日本全体の課題で、大学がデータサイエンティストの育成に取り組み始めました。今後、人材はある程度、採用しやすくなるかとみています。
ただ、データサイエンスに関してとがったスキルをもつ人だけでなく、ミドルマン的に動けるコンサルタントのニーズも増えていくはずです。今後1週間、1カ月でどれくらい商品が売れるか需要予測をしようと思ったら、人流データ、イベントの情報、天気の情報などを掛け合わせないと予測ができません。その天気のデータも、県別でいいのか市別でいいのか、どの粒度で、どの程度の金額で買うのがいいのか、判断が必要です。データバリューを分析しながら、掛け合わせて何ができるかというデータアナリストの部分がそろわないと、本当の意味でビジネスシナリオの活性化はできません。
データを使うための人材も必要ですが、こういうビジネス目的に対してはそもそもこういうデータの使い方をするんだ、という知見を持った人が増えていくことが非常に重要です。当社ではプラットフォームの提供に加えてこの部分にも力を入れていきます。データバリューを分析し、お客様固有の環境でコンサルテーションをして、データサイエンティストが実際のアルゴリズムを使ってモデル化していく。私どものプラットフォームは3大パブリッククラウドの上で共通基盤として動きますので、サードパーティーのコンサルテーションを入れやすいのも特徴です。
──クラウドを横断して統一プラットフォームとして使えるのも魅力の一つです。
顧客回りのデータは「Google Cloud」にあるけれども基幹系のデータは「Amazon Web Services」にあるお客様も多くいます。そういったときにそれぞれのツールで解析し、AIビジネスシナリオを構築するとなると、求められるスキルは冗長的になってしまいます。こうした場合でも統合的なプラットフォームとして利用できますし、最近はAIのニーズが増してきたことで、ますます当社のアーキテクチャーがお客様に貢献できると感じています。
パートナー戦略は拡大と深化
──ユーザー企業に対して人的な支援を厚くしていくという点で、パートナー戦略もより重要になってくると思いますが、どのようにお考えでしょうか。
現在はパートナーの数を増やしていくところと、関係を深めていくところの両方で動いています。データ基盤の整備と、データの利活用が同時に必要な時代に入って、鶏と卵、どちらが先ではなくどちらも同時に実現しないといけないというのが、今年一番の大きな波と感じています。そうなってくると必要になるのは、データ統合、テクノロジー整備の提案をしながら、業種ごとそれぞれの領域において、どういった利活用が効果を最大限にするかという、ビジネスシナリオの提案を同時にしていくことです。それがなければ、不況下で企業は新しいシステムとデータ基盤の刷新に取り組めないでしょう。
だから私たちはパートナー企業に、業種別のドメインエキスパートになることを期待しています。自社の営業とパートナーを通じた販売のどちらでも、お客様に付加価値の高いデータ統合基盤を提案していけるようになっていきたいです。
──特に提案に注力するターゲットとなる業種や、傾向的に引き合いが強い業種はありますか。
特別にはないですね。日本では、この業種ですごく活用が進んでいるということはなく、どの業種にも、データの利活用に気合いが入っている先進企業があるという印象です。なので、販売に関してもある程度、面で押さえていかなくてはいけないかなと。このため、それぞれの業種に強いパートナーを1社1社増やしていく考えです。
日本市場のビジネスはまだまだ立ち上げ時期という認識です。グローバルで支持していただいている製品の優位性をしっかりお伝えしていくと同時に、社内、パートナーのどちらとも、なるべく現場に近い存在でビジネスを一緒に作り上げていきたい。空中戦も地上戦も全部みなさんと一緒にやっていきたいと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
エンタープライズITの世界で30年以上の経験を持つ笹社長は、データブリックスに来たことで「運良く、SoR(System of Record)、SoE(System of Engagement)、SoI(System of Intelligence/Insight)の3大領域をすべて経験することになった」と話す。基幹業務を効率化するSoR、顧客接点を強化するSoEに続いて、今、最も企業のビジネスを大きく変革する可能性を秘めているのが、SoIだという。
しかし、SoIが前の二つのエンタープライズITと異なるのは、一つの企業の中のデータだけを扱っていても、導入効果を得にくいという点だ。これまでのSoR、SoEのデータに加え、外部のデータを取り込むための基盤と、それを縦横無尽に処理するためのAIがそろわなければ、ビジネスの革新は起こせない。データや知能をつなぐハブ的な存在になることを国内でも目指す。
プロフィール
笹 俊文
(ささ としふみ)
1990年に明治大学商学部卒業後、プライス・ウォーターハウス(現PwCコンサルティング)に入社。日本ジェイ・ディ・エドワーズ(現日本オラクル)、日本アリバ(現SAPジャパン)、インフォアジャパンなどを経て、2011年にセールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)に入社。デジタルマーケティングビジネスユニットの専務執行役員兼ジェネラルマネージャーなどを務めた。23年1月より現職。
会社紹介
【データブリックス・ジャパン】AIや機械学習などのテクノロジーでビッグデータを扱うための、クラウド型統合データ分析基盤「レイクハウス・プラットフォーム」を提供。米国で2013年に創業し、20年に日本法人の設立を発表。グローバルの顧客は7000社を超える。