コンタクトセンターなどを運営するキューアンドエーは、主に中堅・中小企業を対象としたデジタル変革支援サービス「DIGINEXT(デジネクスト)」を今年から本格的に立ち上げた。コンタクトセンター業務で培った知見を生かした顧客接点領域のデジタル化支援や、スタートアップ企業向けの組織づくり、人材育成などに取り組んでいる。7月には東京と仙台の“2本社体制”へと移行。仙台ではビジネスの地産地消をテーマに地場企業のデジタル変革支援のモデルケースづくりを急ぐ。キューアンドエーらしい特色あるビジネス開発に力を入れる野村勇人社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
宮城本店は社長就任直後の大仕事
――今年7月1日付で仙台市に本店を開設しました。その狙いを教えてください。
創業の地である東京に加えて、仙台に本店を置き、実質的には二つの本社を置く体制にしました。2本社体制にした背景は、仙台を中心とした宮城県にコンタクトセンターを複数置いていること、地元自治体の応援もあって宮城での人材採用が順調であること、災害時の事業継続のため、などが挙げられます。狙いとしては、人材育成の拠点として有望視しています。
直近では、当社グループの全国14カ所のコンタクトセンターのうち、宮城県内に4カ所開設しており、連結従業員数約4000人のうち1000人余りが宮城県内で勤務しています。ビジネスの中心は一大需要地である首都圏であり、東京で受注した仕事を宮城のセンターで対応する比率も高い。ただ、今後ビジネスの地産地消を指向していくとき、宮城の人材は非常に有用で、宮城で先行事例をつくっていくための拠点として本店を開設しました。
――ビジネスの地産地消とは具体的にどのようなものをイメージしていますか。
当社は大手企業のコンタクトセンター業務のアウトソーシングが多くを占めますが、ビジネスの幅を広げていくに当たって、中堅・中小企業のデジタル変革の支援の領域を伸ばしていきます。中堅・中小企業のデジタル変革を支援するサービス体系「DIGINEXT(デジネクスト)」を今年から本格的に立ち上げており、宮城をビジネスの地産地消のモデル地区にしたいと考えています。
――今年6月22日に社長に就任して、最初の大仕事が仙台に本店を構えることとなりました。それだけ思い入れがあったということでしょうか。
ここ何年もかけて準備してきた計画が、たまたま社長就任のタイミングと重なり、結果的に就任直後の大仕事となりました。もちろん私も役員の1人としてビジネスの地産地消など一連の事業計画を推進する立場でしたので、就任後に急に方向転換したわけではありません。首都圏や名阪の大都市圏での売上比率は依然として高いですし、そうしたなかでも地場に密着して中堅・中小企業向けのビジネスを少しでも伸ばしていく施策の一環です。
2011年の東日本大震災で宮城を含む東北全域が大打撃を受けたときは、事業継続のためにやむを得ず宮城から離れることも検討しました。しかし、被災者でもある宮城のメンバーのがんばりで、なんとか事業を継続することができました。そのとき私は人材の底力、当社で言うところのサポートマンシップを肌で感じました。
「ビジネスの柱」と「人材の柱」
――サポートマンシップとはどんなものですか。
当社は1997年に創業して以来、PCやインターネット、スマートフォンが登場してからはスマホの操作サポートを多く手掛けてきました。デジタル機器の操作が不慣れな人にも分かりやすく手順を伝えることに喜びを感じ、ユーザーに寄り添い、丁寧に対応できる姿勢をサポートマンシップと呼んでいます。このサポートマンシップを育んでいくことが当社の競争力に直結します。
大企業中心の首都圏がビジネスの柱だとすれば、宮城は人材の柱を打ち立てていきたい。もちろん宮城だけでなく、名阪や九州など当社の主要コンタクトセンターを置いている地域で人材の柱を太くしていき、収益面でのビジネスの柱と合わせて、経営の安定化や将来の成長につなげていきます。
――中堅・中小企業のデジタル変革支援ビジネスを有望視するのはどうしてですか。
DXの流れの中で、企業規模を問わず先進的なデジタル技術で業務やビジネスを変革する動きが続いています。ITやDXの専門人材がそれほど多く在籍していない中堅・中小企業では、当社の本業であるサポート力が生かせると踏んだからです。
分かりやすい例を挙げれば、電話による受付業務は大なり小なりどこの会社にもありますが、電話だけだと記録は残らず、顧客情報や購買履歴とひもづけることもできず、非常に効率が悪い。近年では従量制のクラウドPBXや、顧客情報とひもづけるクラウドCTIといった割安なSaaS型サービスが充実しており、これらツールの導入や活用支援の問い合わせを多くいただいています。
まずはクラウドPBXを入れて、1日に何件の受付業務があるのかを可視化し、クラウドCTIを入れたときの投資対効果をユーザーに提案するところから始めています。よくある問い合わせはユーザー企業の公式HPのFAQに反映したり、チャットボットを導入したりして、電話で問い合わせなくても済む仕組みも合わせて提案しています。
――コンタクトセンターのプロ集団だけあって、電話回りの知見を存分に生かせそうです。
電話はあくまで一例で、実際にはDXを幅広く捉えてビジネスを展開しています。スタートアップ企業向けでは、働きやすい職場環境を整える支援なども手掛けています。従業員数が100人を超えてくると、社長が従業員の顔と名前を覚えられなくなり、個人商店的な体制から脱却し、会社組織を構築しなければなりません。従業員に気持ちよく、長く働いてもらうための就業規則や福利厚生、「カオナビ」「SmartHR」などのタレントマネジメント機能を活用したキャリアパスの設定やキャリア形成の仕組みづくりなども支援しています。
昨年度業績は過去最高を更新
――中堅・中小企業や、伸び盛りのスタートアップ企業ならではの課題に焦点を当てるわけですね。
「DIGINEXT」では、DXコンサルティングや、前述の電話受付など顧客接点の変革、BPOといったメニューを用意しています。デジタル変革を行うに当たって、まずは業務の可視化をして、ITによって仕組み化できる部分を切り出し、その後は業務そのものを当社にアウトソーシングするBPOビジネスにつなげていきたい。大企業の場合は、BPOに切り出す業務があらかじめ明確になっていることが多いのですが、DIGINEXTでは中小企業は業務の可視化からお手伝いするメニューづくりを意識しています。
――業績についても教えていただけますか。
23年3月期の連結売上高は前期比6.2%増の223億円で、営業利益とともに過去最高を更新しました。コロナ禍を経て顧客接点のオンライン比率が高まり、それに伴って電話やチャット、メールなどを受け付けるコンタクトセンター需要も大きくなったことが伸びた要因です。
コロナ禍の3年間を振り返ると、移動の制限や3密回避で対外的には新しいことに挑戦しにくい状況でしたが、内部的には働き方改革を推し進めた期間でもあり、女性活躍や子育てサポート、企業主導型保育所の共同利用などの働きやすい職場づくりに力を入れました。
――今後の見通しをお願いします。
24年3月期は、25年3月期までの3カ年中期経営計画の2年目に当たります。中計では連結売上高263億円の目標を掲げており、主力の大企業向けビジネスを成長させるのはもちろんのこと、中堅・中小企業向けDX支援の領域では当社ならではの特色あるビジネスを積極的に伸ばしていく計画です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
野村社長から“サポートマンシップ”との言葉が幾度か出てきた。操作が分からず困っている人を手助けすることに喜びを感じられる人材が、コンタクトセンター業務で高いモチベーションを保てるからで、キューアンドエーはそうした人材の育成に力を入れている。
社長に就任して、最も重視したのはサポートマンシップを発揮できる仕事を用意し、報酬や職場環境を継続的に改善していくことだ。「ただ仕事があればいい」ではダメで、「働きがいを感じられ、できれば全体の2~3割は、キューアンドエーらしさを前面に押し出せるような構成にしたい」と話す。
コンシューマーの領域はIT機器の使い勝手がよくなるなどしてサポートサービスの市場は縮小傾向にあるという。一方で大企業向けのビジネス領域は安定的に推移し、中堅・中小企業のDX支援は「伸びしろが大きい」。ビジネスの成長と従業員エンゲージメントの両立を実現していく。
プロフィール
野村勇人
(のむら はやと)
1971年、東京都生まれ。97年、横河パイオニックス入社。2002年、横河キューアンドエー(現キューアンドエー)オンサイト事業部事業部長。10年、執行役員マーケティングサービス統括部長兼ソリューション営業部長。19年、執行役員常務オペレーション事業本部長。21年、取締役常務オペレーション事業本部長。23年6月22日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
【キューアンドエー】全国14カ所、約2700席のコンタクトセンターやBPOセンターを運営。2023年3月期の連結売上高は前期比6.2%増の223億円、3カ年中期経営計画の最終年度の25年3月期は263億円を目標に据える。連結従業員数は約4000人。