NECネッツエスアイは、中間持ち株会社のNESICホールディングス(NESIC-HD)傘下の新体制へ移行した。SIerのNECネクサソリューションズも同じく子会社となり、ネットワーク構築から業務システム開発まで、幅広いITサービスをワンストップで提供できる体制へとシフト。最新のデジタルサービスを短期間で実装する「クイック・ライト」を方針に掲げ、NEC本体から自治体向け消防防災事業の一部を継承することで地域ビジネスの強化も図る。NESIC-HDグループ全体で将来的に年商1兆円超を視野に入れ、事業拡大に邁進する。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
「クイック・ライト」は規模を問わず
――新体制の狙いからお聞かせください。
NIerである当社と、SIerのネクサソリューションズをグループ化することで、全体の事業規模を拡大し、ネットワーク構築から業務システム開発まで一気通貫で手掛けられる体制を整えることが狙いです。顧客ターゲットや事業領域については、短納期で素早く最新のデジタルサービスを実装するクイック・ライトなITサービスを軸にビジネスを伸ばしていくことを基本としていきます。
――ネッツエスアイは通信キャリア向けネットワーク構築や、携帯電話の通信基地局の建設など大規模なNIも手掛けており、クイック・ライトとは距離があるように見えます。
クイック・ライトは、必ずしも小規模なビジネスを指しているわけではありません。ご指摘の通り、当社は大規模な通信インフラの構築事業を多数手掛けていますが、その中にも新しい技法を取り入れることで納期を短縮したり、他社に先駆けて最新のデジタル技術を応用することは十分に可能です。
極端に言えば、10年かかるような社会インフラの構築を2年で実現できるようになれば理想的ですよね。通信のような社会インフラは災害に強く、冗長性に優れた基盤であるべきことは言うまでもありませんが、だからといってクイック・ライトを追求しなくても良いということにはなりません。むしろ、ただでさえ時間がかかる大規模ネットワークの構築だからこそ、クイック・ライトで少しでも素早く利用できるようになれば競争力の向上に直結します。
ただ、実のところクイック・ライトは「言うは易し」で、当社にとって非常にチャレンジングな戦略目標でもあります。しかし、AIエージェントの活用が良い例で、近い将来、事務作業の多くをAIエージェントに任せられるようになるでしょうし、ネットワーク設計やソフト開発の生産革新、運用の自動化への応用も急ピッチで進む見込みです。当社としてもAIエージェントをうまく使ってクイック・ライトを推進していきたいと考えています。
外部環境に目を向けると、米国の高関税に伴うグローバル規模でのサプライチェーンの再編や、地域紛争や資源高といった変化が生じています。こうした変化に素早く、最小限のコストで対応していくこともクイック・ライト戦略の一つです。そのためには、ネクサソリューションズと二人三脚で変化に富んだ社風をつくり、ユーザー企業や社会の需要に応えていきます。
専門人材をワンストップでそろえる
――ネクサソリューションズとの連携についてお聞かせください。
ネットワークやセキュリティー、ソフト開発のそれぞれの専門家が両社に在籍していますが、まずはワンストップで技術陣をそろえることで両社連携の強みを発揮していきます。従来はネットワーク系の技術者は当社、ソフト開発やSI系の技術者はネクサソリューションズ、セキュリティー系は両社に分散していましたが、NESIC-HDができたことで、ユーザー企業の要望にそって、ネットワークからSIに至るまで必要な技術者を全てそろえられるようになりました。
当社では通信基地局の建設や設備工事で培った技術者も多く在籍しており、ネットワーク構築の現場に寄り添ったサービスを提供できます。一方、ネクサソリューションズは中堅・中小のユーザー企業向けのSI実績が豊富です。多くのユーザー企業にとってIT専門人材の採用に苦戦する中、グループとして全方位でサポートできるようになり、これまで提供できなかった新しい価値をつくり出せると考えています。
――新しい価値とは、具体的にどのようなものでしょう。
キーワードは、やはりクイック・ライトです。ネットワーク構築からソフト開発まで一貫してクイック・ライトを実践していくことが、これまでにない価値創造につながるとみています。両社の専門人材をそろえたり、両社の顧客にそれぞれのサービスを売り込むクロスセルを行うことをベースとしつつ、その上でクイック・ライトなサービスを両社が力を合わせて開発していく取り組みを加速させます。
従来通りのやり方で個別にシステム開発していては、加速度的なクイック・ライトの実践は難しいため、例えばユーザー企業が属している業界で共同利用できるようなサービス基盤をつくったり、中小企業向けに特化したサービスを横展開したりと、方策はいろいろあると思っています。せっかく両社が連携するわけですから、クイック・ライトをドラスティックに実現できるよう、力を合わせていきます。
――NEC本体からNESIC-HDグループに一部事業を譲渡されていますが、どのような事業ですか。
NEC本体の自治体向け消防防災事業の一部を2025年10月から当社が担う予定です。またNESIC-HDグループの発足のタイミングで、NEC本体の中堅・中小企業向けSIビジネスを担当していた人員が、数百人規模でネクサソリューションズに合流しています。ネクサソリューションズは、これまで東名阪地域の中堅企業ユーザーを主にビジネスターゲットとしてきましたが、このタイミングで全国対応できる体制へと再編するとともに、当社も消防防災事業を地域の自治体向けに展開していきます。
エンジニアリング事業を直轄に
――大野社長がCENO(最高エンジニアリング責任者)を兼務しているのはなぜですか。
私がエンジニアリング畑を長く歩んできたこともありますが、通信基地局の建設やネットワーク工事の施工といった当社の強みであるエンジニアリングを一層強化していくために、社長直轄としました。
建設や施工の現場はAIやクラウドなどの注目を集める先端デジタル領域と少々距離があり、肉体を使ったアナログ的な作業が少なからずありますが、この領域においても当社経営方針の軸であるクイック・ライトを実践していきます。ネットワーク基盤の構築に欠かせない建設工事や施工のクイック・ライト化は、NIerである当社の競争力に直結する領域ですので、私自身が陣頭指揮を執る体制にしました。AIにしてもクラウドにしてもネットワーク基盤がないとユーザー企業にサービスを届けられません。建設や施工に関する技術的な突破口、新しい手法を生み出し、迅速なサービス提供ができるよう努めます。
――今後の経営目標についてお話しいただけますか。
NESIC-HDグループ全体の売り上げ規模は、NEC本体から引き継ぐ事業も含めて5000億円超になる見込みです。NESIC-HDの牛島(祐之)社長とは、将来的にはグループ全体で年商1兆円超のベンダーに成長していきたいという話をしています。他社との競争に勝ち残るためでもありますが、ネットワーク基盤から業務システムのSIに至るまでのクイック・ライトを実現するに当たっては、ある程度の事業規模と経営体力が必要という側面もあります。
――海外事業についてはいかがですか。
当社はサウジアラビアの石油プラントの通信施設工事の実績がありますし、私自身も10年ほど前にASEANでのエンジニアリング事業を担当した経験があります。ただ、全体的に見れば国内中心の事業体でしたので、年商1兆円超の事業規模を目指していくには、国内と海外の線引きをなくし、グローバルにビジネスを展開できる組織体へと変革する必要があります。納めた設備が安定して稼働する点で、日本のネットワーク構築技術には定評があります。これにクイック・ライトを加えることで、新たなビジネスチャンスをつかみます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
入社して間もない20代半ば、強度計算に基づき、通信基地局の土台となるコンクリートの量を決める作業に従事していた。基地局建設やネットワーク工事の施工は、すでに確立された技術があり、専門書を読みながら習得していった。その過程で「専門書の著者が、いろいろな表現を用いて読者に技術を伝えようと努力している様子がとても興味深かった」と振り返る。
通信ネットワークを担うNIerの一員として、「デジタル技術によって実現するネットワークの先には、必ず人間というアナログな存在がいる」という意識を持っている。コーポレート・メッセージの「明日のコミュニケーションをデザインする」は、通信(コミュニケーション)だけでなく、人と人のアナログ的なコミュニケーションを重視する意味も込められている。
デジタル技術を習得するのと同時に、「人の思いや、その人が何を求めているのかといったアナログ的な要素を理解する力量も大切」と説く。
プロフィール
大野道生
(おおの みちたか)
1969年、東京都生まれ。88年、日本電気システム建設(現NECネッツエスアイ)入社。2016年、キャリア・パブリックソリューション事業本部グローバルビジネス事業部長。19年にNECネッツエスアイとKDDIの合弁会社であるK&Nシステムインテグレーションズで取締役執行役員。20年に同社の代表取締役執行役員社長。23年、NECネッツエスアイ取締役。24年、代表取締役執行役員社長兼COO。25年6月19日から現職。
会社紹介
【NECネッツエスアイ】1953年設立。2025年3月期の連結売上高は約3900億円、従業員数は約7600人。24年10月から25年1月にかけて実施されたNEC本体による株式公開買付けを経て、株式上場を廃止。NESICホールディングス傘下に入った。