「SAP ERP」の既存バージョンの保守サポート期限が2027年に迫る中、NTTデータの国内SAP(独SAP、エスエーピー)ビジネスの中核を担うNTTデータグローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は、堅調に売り上げを伸ばしている。ユーザー企業の業務を徹底的に分析し、「SAP S/4HANA」の標準に合わせてクラウドへ移行する伴走支援によって、この5年間で売上高を約2倍に増やした。標準に合わせられない部分はアドオンとして残すなど、業務分析力を生かして適切に切り分ける点もユーザー企業から高く評価されているという。25年6月にNTTデータGSLトップに就任した木村千彫社長に国内におけるSAPマイグレーションの現状と展望を聞いた。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
提案から保守まで一気通貫で
――足元のSAPビジネスの状況をお聞かせください。
ビジネスは全体的に伸びており、当社の24年度(25年3月期)の売上高は、5年前に比べて約2倍に増えました。大型案件も含まれるため、単年度で比較すると伸び率に凸凹はあるものの、右肩上がりの成長トレンドを維持していることは確かであり、今後もこの勢いを保っていきたいです。
――ユーザー企業の規模感など、事業構成を教えてください。
当社は第一事業本部から第三事業本部まで三つの事業本部があり、明確に線引きされているわけではないものの、第一事業本部は規模が大きいユーザー企業が多くを占め、第二事業本部は中堅どころのユーザー企業が多い傾向があります。第三事業本部は主に保守運用サービスを担っています。SAPは事業規模が大きい多国籍企業ユーザーも多く、NTTデータグループ本体と連携するプロジェクトも少なくありません。
当社は国内中心の事業形態ですが、NTTデータグループは全世界に拠点を展開しており、必要に応じて連携を図っています。NTTデータグループのなかでもSAPビジネスに特化し、ノウハウを蓄積してきた当社の強みと、NTTデータグループのグローバル規模での面的カバーという強みを掛け合わせることで、日本の超大手のユーザー企業の需要にも応えています。
プロジェクトの規模はさまざまですが、おおよそ年間20~30プロジェクトが進行しています。また、プロジェクトが終了した100社を超えるユーザー企業の保守運用を請け負っています。SAP活用の提案から実装、保守運用を通じて導入の成果をしっかりと出すまで、一気通貫でユーザー企業を支えられるのが当社の特色の一つです。
長期的な信頼関係を重視
――SAP製品の方向性として「Fit to Standard」と「クラウド移行」の二つの軸があると聞いています。SIerにとっての伝統的なSAPビジネスはカスタマイズやアドオン開発であったことを踏まえると、こうした要素が少なくなると将来的にビジネスの伸び悩みにつながりませんか。
ユーザー企業の業務をSAPの標準に合わせ、さらにパブリッククラウドへ移行することは、常に最新の状態にアップデートし、AIやサードパーティー製SaaSなど最先端のデジタル技術を、いち早く基幹業務システムに取り込むことを可能とします。基幹業務システムは「つくって終わり」ではなく、新しいデジタル技術を取り込んで進化し続けるものであり、塩漬けにして放置するものではありません。そうした覚悟を持ったユーザー企業を全力で支えるのが、当社の役割です。
昔のようなゴリゴリのカスタマイズがなくなると、SIerの売り上げは上がらないのでは、という質問に対しては、確かにその側面はあると考えます。一方で、標準に合わせるには、まずユーザー企業の業務を徹底的に分析し、知り尽くした上で「ここはこうすれば標準に合わせられる」「ここは難しそうだ」と切り分けを行っていくノウハウが欠かせません。
ユーザー企業の業務は、その成り立ちや所属する業界の慣習、品質や納期を担保するための現場の工夫が積み重なって生まれてきたものです。そこをしっかりと受け止め、理解した上でできる限り標準に合わせ、クラウド環境への移行を促進させていく当社の能力が、ビジネスを伸ばす上で大きな優位性となっています。
――標準に合わせきれない部分が出てくるということですか。
「S/4HANA Cloud」にはPublic EditionとPrivate Editionがあり、前者は一般的なSaaSにより近い提供形態であり、バージョンアップが自動で行われ、最新の機能が提供されます。後者は従来のオンプレミス型に近い提供形態であり、アドオンなどの追加機能の開発にも対応するものです。ERPのコア部分はそのままで、ユーザー企業の競争優位性に直結し、かつ標準に合わせるのが難しい場合はアドオン開発で対応することも可能です。
むやみにアドオン開発を増やすのではなく、ユーザー企業に寄り添って、二人三脚で「どこまで標準に合わせるか」「どこまでアドオンとして残すか」を、業務分析や当社の知見を総動員して切り分けて、実装していきます。その後の保守運用も任せてもらい、ユーザー企業にとっての投資対効果を最大限引き出すことが当社の価値だと考えています。NTTデータグループはユーザー企業との長期にわたる揺るぎない関係性「ロングターム・リレーションシップ」を重視しており、SAPビジネスにおいても同様の長期的な信頼関係と価値創出に重点を置いています。
SAP導入は地域性、多様性がある
――27年にSAP ERPの既存バージョンの保守サポートが終了します。
サポート終了が迫っているため、現行バージョンのS/4HANAの導入を決めるケースがあるのは事実ですが、本質的にはS/4HANAで何をしたいのか、どのような価値を生み出したいのかを明確にしなければ方向性は定まりません。ユーザー企業は基幹システム更改や、S/4HANA導入を目的としているわけではなく、それによってどう売り上げや利益に結びつけるのか、AIやデータ分析を活用することで、どのような価値創出が可能なのかを求めています。当社ではそうしたユーザー企業の狙いをともに考え、伴走支援していきます。
――木村社長のキャリアについてお話しいただけますか。
NTTデータで金融セグメントを担当していた期間が最も長く、次に国内でグローバルビジネスを担当し、23年からは約2年にわたって欧州に赴任して、欧州ビジネス全体を統括する役割を拝命しました。キャリアで言えば、国内金融と欧州の産業や金融、公共を含む全産業を担当してきたイメージでしょうか。国内は金融事業部門と公共事業部門が統合されていた時期が過去にあったので、その期間に限っては国内公共も横目で見ていました。ただ、国内の産業セグメントを担当するのは25年6月にNTTデータGSLの社長に着任してからが初めての経験で、就任前からワクワクしていました。
――確かにSAPは産業ユーザーがメインユーザーですね。欧州でもSAPプロジェクトは多かったのではないですか。
もちろんSAPビジネスを率いるチームはあり、私も欧州ビジネス全体を俯瞰する中の一事業として見ていました。とはいえ、業務システム導入のプロセスは各国ごとに大きく異なっており、英国はユーザー企業主導でシステム更改する米国型に近く、ドイツは日本のようなベンダー委託型と米国型の中間的なイメージです。オフショア開発の使い方も英国はインドなどの開発リソースを積極的に使う一方、イタリアは国内ニアショア開発がメイン、ドイツはハイブリッドと各国ごとに色があり、「欧州」を一括りに捉えると、うまくいく商談もうまくいかなくなってしまいます。
――欧州での経験は現職でどのように役立っていますか。
欧州各国のSIプロジェクトは地元の担当者が一番良く知っているように、日本では日本のやり方があります。例えばドイツのSAPプロジェクトの手法を日本に持ち込んでもまず合いません。どちらが良いというものではなく、SIはそれだけ地域性があり、多様だということです。
当社はNTTデータグループ内外からさまざまな経歴を持った人材が集まっており、それぞれが持つ多様な知見を全社横断の学びの活動「GSL大学」を通じて共有しています。全社員がGSL大学の“学生”となって「教え合う」「学び合う」を継続することで個人や組織の成長につなげ、SAPビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
欧州での勤務経験は約2年だが、「欧州で暮らした期間を合計すると10年近くになる」と木村千彫社長は話す。テレビ局に勤めていた父親の転勤に伴い、小学生のころからフランスで4年、英国で2年半を過ごしたとのこと。フランス語も英語も分からない中、「そこにいれば、そのうち分かるようになる」と、鷹揚に構える姿勢がその頃から身についたという。
NTTデータで金融畑を20年余り経験したのち、グローバルビジネスの責任者として白羽の矢が立ったのも、新しい環境に対する柔軟な適応力の高さが評価されたからかもしれない。
SAPは標準に合わせるパッケージ型のERPだが、「そこに至るまでのプロセスは国や地域、ユーザー企業ごとに異なる」とし、多様なアプローチを重視する。じっくり腰を据えてユーザー企業の業務と向き合い、新しい環境になじむよう支援することで、SAP導入プロジェクトを成功へと導く。
プロフィール
木村千彫
(きむら ちえり)
1966年、東京都生まれ。90年、東京大学教育学部を卒業後、NTTデータ通信(現NTTデータグループ)に入社。2011年、パブリック&フィナンシャル事業推進部長。13年、グローバルビジネス事業推進部長。20年、執行役員北米事業本部長兼EMEA・中南米事業本部長。22年、NTT DATA, Inc.執行役員CFO。23年、エグゼクティブバイスプレジデントCEO欧州・中南米担当。25年6月11日から現職。
会社紹介
【NTTデータグローバルソリューションズ】SAPビジネスを専門とするSIerで、NTTデータグループの国内SAPビジネスの中核を担う。2012年に設立。25年3月期の売上高は約200億円、従業員数は約600人。