通信建設を祖業にするミライト・ワンが事業領域を拡大している。通信インフラの成熟に伴い事業構造改革を進めた結果、ICTソリューションといった非通信分野が成長。まちづくりを一気通貫で担うコンセプトで、次世代インフラを総合的に支える企業像を打ち出す。菅原英宗社長は、育成による人材流動によって、これまでのノウハウを生かせる隣接分野を足掛かりに新事業を強化するとともに、作業現場をフィールドとしてロボティクスなどのイノベーションも推進する考えを示した。
(取材・文/春菜孝明 撮影/大星直輝)
フルバリューで価値提供
――通信工事業のイメージが強いですが、事業の方向性は変化していますか。
通信のインフラをつくり、守る通信建設業を80年続けてきました。通信はなくなりませんし発展していくので、やり続けます。それをベースに、社会にさらに貢献できるようデータセンター(DC)や環境、エネルギー、まちづくりなどのお手伝いをしていきます。今まで積み重ねてきたものはしっかりと深化させつつ、新しい事業は世の中のためになることを探索して拡大します。
合併やM&Aなど、グループを「足し算」で拡大してきました。今度はそれぞれの会社や事業がもう少しかみ合って相乗効果を出しながら付加価値を出していく、「掛け算」の経営に取り組みます。
掛け算の経営には三つの要素があると思っています。一つめは、グループとして持っているフルバリューをお客様視点で組み合わせて届けていくことです。顧客起点で構築と運用を合わせたソリューションをつくる体制に変えていきます。二つめは技術の掛け算です。AIやDXで生産性を上げたり、より精度の高いソリューションを提供したり、ロボティクスを生かしたりと、社内の技術を横串でつなぎます。三つめは人です。事業が多岐にわたるからこそ、それらを複合的に理解し、横断的に動ける人材を育てなければいけません。そのための制度や仕組みづくりを前進させています。
――新しい取り組みとして「みらいドメイン」を掲げています。技術力を生かし、まちづくり全体を担うと解釈して良いのでしょうか。
はい、掛け算の経営でそういうところを探索していきます。みらいドメインは通信基盤とICTソリューション、環境・社会の大きく三つで展開しています。ICTはWi-Fiの構築やアプリケーションの導入など、環境・社会は蓄電池や太陽光、EVの充電ステーションなどの環境に優しい電気や建物、道路などのインフラを提供します。これらを組み合わせてまちづくりに貢献していきます。
通信に関わっている人材はICTに親和性があり、環境・社会も同様です。通信建設をベースにしつつ、拡大する事業に人や技術を適用していきます。2022年に西武建設、23年に国際航業がグループになり、建物建設や測量の領域が加わりました。通信から建物、エネルギーまで一体で提供する「フルバリュー型モデル」を強みに、案件の大型化も見込んでいます。
――新事業を担う人材をどのように育てますか。
DXやAI人材、DC領域の人材など、多方面での育成を進めており、26年までに約1000人の人材シフトを計画しています。OJTはもちろん、(職場や通常の業務から離れて行う)Off-JTとして「みらいカレッジ」で学習機会を提供しています。
M&Aでクラウド保守をサービス化
――ICTソリューションではどのような点に注力していますか。
O&M(Operation&Management)です。顧客のシステムや設備を構築する上で、オペレーションのお手伝いが必要になります。25年にインターネットシステム監視保守会社のY2SをM&Aし、(従来のオンサイト保守に加えて)クラウド保守の領域を増やしました。元々、各地に散在しているハードウェアを遠隔でオペレーションし、必要があれば現地のリソースで対応してきました。そうしたオンサイト対応と、クラウドによる中央監視を組み合わせたハイブリッド型のO&Mで価値を創造します。中堅企業などで需要を掘り起こし、5~10年先の柱にしたいと考えています。
――ICTの基盤となるDC事業はいかがでしょうか。
コンテナ型DCの実需が生まれています。本年度のDC全体の目標が500億円で、コンテナ型DCは約1割です。ただ、全体の増加が見込まれる中、コンテナ型の需要も増えていくので、2~3割まで上げていけると思います。
DCは昨今、土地確保の課題や建設に数年単位で時間がかかることから、分散型を活用する傾向にあります。その一つの解決策としてコンテナ型があります。NTTが取り組む「IOWN APN」など、つなぐことで距離を超えられる世界になっていることを考えると、分散型の需要は底堅いし、成長が期待できるでしょう。コンテナ型DCは昔からあるものですが、生成AIによる電力不足によって追い風になっているので、需要に応えていきたいです。
――みらいドメインの目標は。
事業全体に対して45%まで引き上げる目標です。(従来の)通信基盤ドメインが40%ほどで、それを超えるくらいに持っていきます。次世代のインフラ・まちづくりといった領域で価値創造を増やしたく、「みらいドメイン」の考え方をそこにフォーカスするかたちで洗練させたいと考えています。
もちろん、未来のインフラづくりの意味で通信に関しても新しい領域に取り組みます。オールフォトニクス・ネットワーク(APN)や光電融合などの新しい技術が使われ始め、NTTではこれらのオペレーションシステムを開発し、社会実装は着実に前に進んでいると感じます。私たちとしても、こうした最先端技術を使ったインフラをつくる上で貢献しなければと考えています。技術を習得すると同時に、オペレーションをお手伝いするチャレンジをします。宇宙通信のような領域も、その延長線上に出てくると思います。
――社業全体の目標を教えてください。
中期経営計画が進行中で、最終年度の26年度に売上高7200億円を掲げています。本年度はまだギャップがあるので、目標に向けてしっかりと対応します。
作業現場にAIアプリ
――DX人材の話がありましたが、社内のAI活用は進んでいますか。
生成AI基盤をグループ全体で整え、ミライト・ワンでみると6割以上がアクティブに使っています。25年9月には生成AIを活用した「受注前のリスク抽出・対策アプリ」を発表しました。アプリは社内で利用し、販売も考えています。今後は作業現場でどれだけAIを使えるかが重要になります。写真検査に画像分析AIを活用し、作業負担を軽減するソリューションも導入します。次はロボティクスで何ができるかですが、幸いなことに現場があるので、いろいろチャレンジしていきたいです。
ただどちらかと言うと、AIやロボットそのものをつくるわけではないので、どう活用すれば価値や効果が出るかを考え、つくり上げることがわれわれのイノベーションだと思います。
――他社との協調が重要になりそうですね。
はい。工事も協力会社やパートナーと一緒に行うものです。技術のイノベーションでも外の方々と一緒に連携していかなければいけないと思っていますので、ベンチャー企業への出資や協業を増やします。
ロボティクスの分野だと、ドローンやホテルなどの配送ロボット、四足歩行ロボットなど、グループの中でいろいろ取り組んでいます。現場をフィールドとして活用する前提で、外部との連携もしやすくなるように仕組みを整えていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
現場に行き、コミュニケーションを取ることを大切にしているが、ここ1年ほどは「現地を訪れる回数が減り残念。反省もしている」と語る。オンライン会議が増えた一方、直接対話する方が相手が何を考えているか気づきが多く、訪問の機会を大切にしている。
これは社員にも伝えたいことだ。自分で考えて走る「自己自走」、チーム全体で目配せする「One for All, All for One」、当事者意識を持って外部との連携や将来を見据えた行動をする「一歩前、一歩外、一歩先」の三つを求めている。「常日頃、自分が気をつけないと」と表情を引き締める。
通信建設という伝統的な屋台骨を守りつつ、新しい分野を開拓している真っ最中だ。部門の枠を超えて価値を創造する取り組みは、まさに社員の一歩が欠かせない。リーダーとして現地現物主義を体現する時が来た。
プロフィール
菅原英宗
(すがはら ひでむね)
1962年、福島県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了。87年に日本電信電話(現NTT)入社。NTTコムソリューションズ代表取締役社長、NTTコミュニケーションズ代表取締役副社長などを経て24年にミライト・ワン代表取締役副社長執行役員。25年6月から現職。
会社紹介
【ミライト・ワン】源流は1946年創業の大明電話工業、東洋電機通信工業、60年に創業した近畿通信建設。2010年に3社統合でミライト・ホールディングスを発足、22年にミライト・ワンに商号変更。連結子会社は82社、従業員数(連結)は1万7725人(25年9月時点)。25年3月期の連結売上高は5785億円。