米国の大手SIer、Cognizant Technology Solutions(コグニザントテクノロジーソリューションズ)は、グローバルにビジネスを展開する中で、企業の課題を生成AIやAIエージェントで解決するSIコンサルティングに注力している。日本法人コグニザントジャパンは、グローバル案件の日本向けデリバリーから脱却し、日本企業に知見を提供することで国内でのビジネス拡大を狙う。渡辺宣彦社長は、成長のかぎをパートナー戦略と位置付け、国内SIerなど幅広い企業とのパートナーシップを模索している。
(取材・文/堀 茜 写真/大星直輝)
SIコンサルでグローバル展開
――コグニザントの事業と会社概要をご紹介ください。
37カ国に300拠点を展開し、SIコンサルティングの規模では、世界で6番目くらいです。日本において分かりやすくいえば、NTTデータと同規模ですね。グローバルで33万人の社員がいて、社員の大部分にあたる25万人ほどはインドのデリバリーセンターで開発を担っています。当社は単純にオフショアでコストを落とす仕事をしたいのではなく、付加価値を増大できるコンサルティングを提供しています。それを実行する手段としてデリバリーセンターがあり、高度に洗練されたオペレーションをセットで提供できる、数少ないプレイヤーです。
――多くの日本企業が情報システムの構築・運用を外注するのに対し、米国では事業会社内にエンジニアがいてシステムは内製が主流と言われています。米国のSIerは顧客にどんな価値を提供していますか。
確かに、一般的に欧米、特に米国では内製志向であると言われます。一方で日本の事業会社は多くのIT関連の業務を外部に委託していると言われるかと思います。ただ、実際には、アウトソーシングを活用している欧米企業も多くあります。コグニザントだけでなく、グローバル企業のアイルランドAccenture(アクセンチュア)や米IBM(アイビーエム)も、IT開発を受注することで成り立っています。欧米企業のほうが、内製とアウトソーシングの最適な割合を戦略的に考えていろいろ試行している、というのが正しいのではないでしょうか。
――コグニザントジャパンで、これまでの経験をどう生かしますか。
前職、前々職はプロダクトを提供している会社で、どちらも素晴らしい経験をしました。ただ、プロダクト販売ではお客様に100%合うソリューションをつくりあげることはなかなかできないとも感じました。新卒から長年勤めたアクセンチュアでは、コンサルティングからお客様にフィットするソリューションをつくっていて、コグニザントと同じグローバルソーシングを担当しました。それをまたやりたくなり、SIコンサルティングで顧客が求めるものをトータルで提供しているコグニザントでならできそうだなと感じました。
――日本におけるポジションをどうみていますか。
グローバルと比べると、日本市場には浸透できていません。日本法人には約1000人の社員がいますが、お客様からは「そんなに規模が大きいのか」と驚かれます。1000人で驚かれる程度に認知度は低く、たまたまご縁のあったお客様が認めてくださっている現状で、国内での位置付けは小さなものだと謙虚に受け止めています。
国内では、約80社の顧客がいます。製薬などのライフサイエンスと、保険を中心とした金融がメインです。グローバル展開している企業が、コグニザントにシステム開発を依頼して、国内向けを日本法人が担当するケースが多いです。当社ではこれをインバウンドと呼んでおり、インバウンドはもちろん大事ですが、今後はそこで培った知見を日本のお客様に提供し、日本の価値を上げていくことに注力します。国内企業を主軸に、戦略的な優先度を置いて対応していきます。
――国内に競合SIerは多くいますが、何が優位性になりますか。
グローバル企業の日本向けシステムに対応するには、国内における法規制への対応などが求められます。案件が多いライフサイエンスと金融に加えて、製造、流通、通信も注力業界になるのですが、インバウンド案件での経験は同じ業界の日本企業への提案にも生きます。さらに、日本発の企業がグローバルに事業を広げるケースも多くあり、海外進出する際に強力にサポートできるのが強みの一つで、そこはかなり信頼をいただいています。
AIに「全振り」
――注力領域を教えてください。
お客様にお会いするときにも言っていますが、AIに全振りです。生成AIとAIエージェントをつくり、使うことにほとんどの資源を振り向けています。お客様のAIをつくる開発業者としての仕事もしていますが、当社が受託しているBPOで、効率を徹底的に高めていくためにもAIを活用しています。システムの開発、テスト工程でも(AIとの対話を通じてコードを生成する)バイブコーディングでAIを使っています。業務領域は変わっていませんが、その中にAIを取り込むことで、最大の価値を抽出することを実践しています。
当社の強みは、ビジネスドメインに特化したAIエージェントです。AIエージェントを一から構築しなくても、すでに各業種に最適なAIエージェントをグローバルで多数用意しています。そういったアセットを日本企業向けに展開することができますし、日本で経験を積むことで、さらに当社のAIエージェントにフィードバックが生まれます。AI活用のエコシステムの一部に日本市場もあると考えています。
――日本企業の生成AIやAIエージェントの導入状況をどう分析しますか。
いろいろな取り組みがされてはいますが、AIの恩恵を受けているのは、ホワイトカラーの非定型業務や知的労働に従事している人に限られているのではないでしょうか。AI活用の裾野は広く、定型業務部分にもっと広がっていくとより大きな効果が出るでしょう。
例えば営業活動を行う時に、内部事務が多すぎてお客様との接点が稼働時間の2割しかないという現状があります。当社がAIで貢献できる領域は、人間にしかできない業務に費やす時間を増やすことです。提案書をつくったりアポイントを管理したりといった業務の大半をAIで自動化し、人間はその先にいるお客様との接点に徹底的に特化できるようにすることにすでに取り組んでいます。
もう一つ、AIで当社が非常に力を入れているのが、フィジカルAIです。ヘルスケア製品や電子機器を製造しているオムロンと戦略的に提携し、産業用機械に当社のAIケイパビリティーを活用いただくことで、価値増大を図っています。国内では他に例がないような取り組みで、日本の産業界全体に大きなインパクトがあると考えています。フィジカルAIは、産業用機械を活用している自動車、食品などあらゆる製造業で役に立つものです。日本企業の頭脳の部分をAIで支援することで、縁の下の力持ち的に支えていきます。
幅広いパートナーと連携を模索
――パートナー戦略をお聞かせください。
社長就任後、「ジャパングロースプラン」を策定し、その中にパートナー戦略を盛り込みました。コグニザントジャパンは、これまではパートナーと一緒に市場を開拓したり、一緒にデリバリーしたりすることに力を入れてきておらず、あまり焦点が当たっていなかったのですが、私はそこを変えたいと考えています。幅広くいろいろな企業とパートナーとしてお付き合いしたいと思っており、五つに分類しました。ハイパースケーラー、SaaS企業、大手SIer、国内アウトソーサー、そして製造企業です。
先ほどのオムロンはお客様であり、Go to Marketのパートナーでもあります。SIerやアウトソーサーとの協業は、日本ではまだ存在感を示せていない当社のサービスをエンドユーザーのお客様に知ってもらう意味で重視しています。当社と戦略的に組むと言ってくださる企業と、選択的に手を携えてやっていくことを模索しています。
――国内SIerとの協業は、双方にどんなメリットがありますか。
当社は、日本語でデリバリーする体制はつくってはいるものの潤沢ではありません。その部分をご提供いただきたいと考えています。一方で、協業するSIerは、当社が蓄積してきた効率化のためのアセットやノウハウを吸収いただくことができます。
当社がインドのオフショアで長年やっているのは、超大規模集約化で、徹底的に効率化することです。従来のような人月単価で工数が増えたほうがいいという発想ではSIビジネスは立ち行かなくなっていきます。AIで生産効率を高め、良いものを提供できれば、お客様にも支持されてビジネスは伸びていくはずです。当社との協業を、ビジネス変革の手段の一つと位置付けてもらえればいいのではないでしょうか。いいやり方だから一緒にやろうと思っていただけると考えていますし、実際にやりたいと言ってくださるSIerもたくさんいます。当社は日本で知られていないので、競合というより協業相手として見ていただけるとも考えます。
――今後の目標を教えてください。
日本企業がグローバル化して成長を実現し、世界に貢献することを支える意味で、当社は一番いいプレイヤーだと思っているので、それを徹底的にやっていきます。今後3年間で、今の収益額の5倍を目指していきます。ただ、収益額を増やすことが目的ではありません。付加価値の大きい仕事で当社を選んでくださるお客様に貢献するという本質を見失わないようにしたいです。インドに大規模なデリバリーセンターを持っている企業という位置付けでいうと、最も規模が大きいインドTata Consultancy Services(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)と国内で肩を並べられるくらいの成長を、私の在任中に実現していきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
グローバルと比べて圧倒的に低い日本における知名度について、渡辺社長は「当社の価値に気づいてもらえていない」と表現した。それは人材確保においても同様で、雇用主としての魅力を高め、社内外にその価値を発信する「エンプロイヤーブランディング」を強化したいという。
日本市場において「小粒で光っていられる存在」として、コグニザントでなければできないことを国内企業に届けていきたいと志向する。特定の分野において独自の知見や革新的なアイデアを発信し、業界や社会に新たな価値を提示・影響を与えることを意味する「ソートリーダーシップ」を発揮することで、顧客にも、仲間である社員にも自社の価値を感じてもらった先に、大きな成長を描いている。
プロフィール
渡辺宣彦
(わたなべ のぶひこ)
1967年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。91年、当時のアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、エンタープライズ企業における大規模なDX推進などを担当。2014年、ペガジャパン代表取締役社長に就任。21年、日本マイクロソフトに入り、執行役員常務としてエンタープライズ事業本部を統括。25年11月より現職。
会社紹介
【コグニザントジャパン】米Cognizant Technology Solutions(コグニザントテクノロジーソリューションズ)は1994年創業。米国を拠点とする大手SIerで、グローバル37カ国で事業を展開し、2025年度の売上高は約3兆3000億円。日本法人のコグニザントジャパンは08年設立。