ピー・シー・エー(PCA)は現在、バックオフィス基盤を提供するだけでなく、AIを活用した業務自律化を支援する企業への転換期を迎えている。1987年の入社以来、幾度もの技術革新を最前線で見てきた玉井史郎社長CEOは、AIの登場を歴史的変化と捉え、AIを軸に事業変革を進める。同時に、約40年にわたる営業経験を武器に、中堅・中小企業の業務改革を支援する「マネジメントサポートカンパニー」への進化を推進。新たな主力製品「PCA Arch(アーチ)」を核に、AIによる業務の自律化と真のオートメーション実現を目指す戦略を描いている。
(取材・文/南雲亮平 撮影/大星直輝)
AIで真の業務効率化を
――入社から約40年が経ちます。会社と社会はどのように変化したと感じていますか。
87年の入社当時、社員数は40人弱でしたが、現在はグループ6社で約750人、「2027中期経営計画」(2026年3月期~28年3月期)の最終年度にはグループ全体で売上高220億円を目指せる規模に成長しました。30年には10社・1000人体制を目標としています。
社会全体では技術革新も目覚ましいスピードで進んできました。営業として入った当初は「PC-9800シリーズ」の全盛期で、お客様の現場にフロッピーディスク(FD)が複数枚入ったケースを持って行って、システムFDと模擬データでデモンストレーションを行っていました。その後、LANの普及によってPC同士の接続が容易になり、ITのユーザー企業は大企業中心から中堅・中小企業へと広がりました。さらに「Windows」の登場でUIの統一が進み、次第にクラウドの時代へと移行しました。
当社もその流れをいち早く捉え、現在で19年目となるクラウド事業へかじを切りました。料金体系や評価制度の見直しなど準備期間を要したものの、継続課金や前払いモデルが徐々に浸透しました。現在進行しているAIの普及は、LANやクラウドの普及と同等、あるいはそれ以上の歴史的転換点だと捉えています。
――現行の中期経営計画の途中で社長を交代した経緯を教えてください。
中期経営計画のトップラインは順調に推移しています。グループ全体の売上高の約80%を継続課金型ビジネスが占めており、安定した収益基盤を構築できています。一方で、基幹業務ソフト市場は競争が激化し、市場そのものは飽和状態に近づいています。クラウド製品の成長率も直近2年間は鈍化傾向にあります。また、多くの企業がAIへの投資を加速させている状況を踏まえ、昨年の段階で中期経営計画の見直しを決断し、AI投資へ大きくかじを切ったところです。
AIを活用した中堅・中小企業の業務効率化を実現するには、現場を熟知し、豊富な経験を持つ人材がリーダーシップを発揮することが重要だと前社長から打診を受け、社長就任を決意しました。私の役割は、バックオフィスSaaSベンダーとして、AIをどこに適用し、どの業務を自動化すべきかを見極め、お客様へ価値として届けることだと考えています。AIと共存しながら真の業務効率化を支援する「マネジメントサポートカンパニー」としての使命を果たしていきたいです。
――本年度はAI分野をはじめとする成長投資を積極的に行っています。その狙いと期待される効果について教えてください。
本年度は将来に向けた勝負の年と位置付け、大規模な投資を進めています。この投資を通じて、AIに関する四つの課題解決を目指します。
第一は、製品開発においてどのようなAIエージェントやAIアシスタントを組み込むかという点。第二は、AI駆動開発などを活用した生産性向上。第三は、当社の競争優位性の一つであるサポート業務へのAI導入です。手厚い人的サポートは高い評価を得ていますが、人材不足への対応や24時間365日の高品質なサポート提供を実現するには、人とAIを融合した体制が不可欠です。そのため、Q&Aチャットボットなどを活用したハイブリッド型サポート体制の構築を進めています。そして第四は、グループ全体でのAI活用による業務効率化です。
まずは中期経営計画の最終年度までに一定の成果を創出することが目標です。どこまで自動化するのか、どの業務領域でAIを活用するのか自社で徹底的に検証し、その過程で得られた実践的な知見をお客様への提案力向上につなげます。
業務を自律的に実行する基盤へ
――25年にリリースした新たな基幹業務クラウド基盤PCA Archの手応えや狙い、強みをお聞かせください。
PCA Archには大きな手応えを感じています。現在、バックオフィスソフト業界におけるAI活用は、操作アシスタントなど個別機能の補助にとどまるケースが少なくありません。一方で、当社は業務プロセスの自律化とタスクの自動実行に主眼を置いています。将来的には、AIエージェント同士が自律的に連携しながら次のタスクを生成し、月次業務などの一連のプロセスを自動で完結させる仕組みを実現したい。これが他社にはない大きな競争優位性になります。
また、標準搭載のドキュメント管理ツール「eDOC for PCA Arch」も大きな特徴です。データ基盤として活用できるため、AI人材の確保が難しい中堅・中小企業でも、社内規定やマニュアルなどの情報を登録することで、AIが企業固有の業務文脈を理解し、自社専用のナレッジベースを容易に構築できます。年次イベント「PCAフェス 2026」で発表した際には、「業務プロセスのつながりが初めて明確に見えた」といった評価をいただきました。
今後は「Archファースト」の流れがさらに加速するとみています。コンテキストをどんどん構築・蓄積し、多様な業務を自律的に実行できるプラットフォームへと進化させていきたいです。
半歩先の未来をパートナーに
――約4万社のオンプレミスユーザーのクラウド移行を喫緊の課題として挙げています。どのような戦略で進めていきますか。
29年3月のサポート終了までに、対象ユーザーにはクラウドまたはサブスクリプション契約へ移行していただく必要があります。そのため今期から、300人体制の専任チームを立ち上げ、DMや電話、体験版の提供などを通じて全社一丸で移行を推進しています。
特に重視しているのが、体験版利用から本契約への移行率の維持・向上です。単なる体験だけでは、クラウドに移行していただけません。コスト面に加え、ID登録への心理的抵抗感や設定作業への不安も導入障壁となるからです。そこで営業とサポートが連携し、本格導入・運用まで伴走することで、不安を払拭していきたい。さらに、キャッシュバックや操作支援サービスを組み合わせたキャンペーンも展開し、移行を後押ししています。
今後想定される食料品の消費税率引き下げについては、直接的な特需にはつながらないと考えています。しかし、パートナー企業にとってはクラウド移行を提案する好機となるでしょう。一度クラウドへ移行すれば、将来の制度改正時にも追加コストを抑えられますので、そのメリットを積極的に訴求したいです。
――パートナー戦略について教えてください。
現在、多くのパートナー企業もAIビジネスの立ち上げ方や提案手法について試行錯誤しています。その中で当社は、多くのお客様との接点から得られた生の情報や成功・失敗事例をパートナー企業と共有することで、支援を強化したいです。例えば「この業種にはPCA ArchのこのAI機能が効果的である」「このような課題にはこのアプローチが成功しやすい」といった具体的な業務改善ノウハウを、製品と合わせて提供していく。私たちが半歩先を実践し、そこで得られたリアルな知見を共有する体制こそが、AI時代における競争力の源泉になるはずです。
これまでの業務自動化は、人が画面を操作することを前提とした半自動化が中心でした。しかし今、PCA Archを通じてAIエージェントが自律的にタスクを連携させ、業務プロセス全体を自動で運用する「真のオートメーション」が現実になろうとしています。社名の由来でもある「Professional Computer Automation」を具現化できる時代が到来したということです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
約40年にわたり営業として歩んできた。入社当初は新製品の検証やパッケージ製品の出荷作業、ユーザーサポート。「当時は何でもやっていたが、すごくためになった」。顧客と接する中でさまざまな業種・業態の現場業務についても学んだ。「お客様に育てていただいた」と振り返る。
クラウド版製品への移行を支援するために設けた「選べる安心応援キャンペーン」の実施にあたっては、玉井社長の号令で大規模な費用を投じることが決まった。このキャンペーンには全国の認定パートナーが参画しており、オンプレミスユーザーの移行を推し進める強力なツールとして活用されているという。
「現場の中小企業は今どう動いているか」「IT人材がいない現場で何が障壁になっているか」。現場のリアルな課題感を深く理解しているからこそ、確信を持って施策を打てるのだろう。
プロフィール
玉井史郎
(たまい ふみお)
1963年生まれ。87年、ピー・シー・エーに入社。2013年に取締役、19年に営業本部長、同年にクロノス取締役(現任)、21年にピー・シー・エー事業本部長、同年に常務取締役、25年にタイレルシステムズ取締役(現任)に就任。26年6月から現職。
会社紹介
【ピー・シー・エー】1980年8月に故川島正夫氏ら公認会計士の有志で設立。中堅・中小企業向けに基幹業務ソフトウェアの企画から設計、開発、提供まで手掛ける。25年11月27日にAIを搭載した基幹業務プラットフォーム「PCA Arch」の提供を開始。26年3月期の売上高は173億600万円、営業利益は24億6300万円。