3月にNTTデータグループから独立したNTTデータイントラマートが、10月1日に「イントラマート」へ社名を変更した。AIが人を支援する時代から、AIが主体的に業務を実行する時代への変化をとらえ、システム開発手法だけでなく、パートナーの役割や顧客企業の業務改革の進め方も大きく変えようとしている。中山義人社長は「第二の創業」と力を込め、情報システムの新しいあり方とつくり方への対応を急ぐ。
(取材・文/南雲亮平 撮影/大星直輝)
独立で意思決定をより機動的に
──業務用のWebシステム基盤の領域で事業を広げてこられました。現在注力している領域を教えてください。
1998年にNTTデータの社内ベンチャーとして事業をスタートし、2000年に会社を設立しました。創業時は申請・承認系のワークフローを中心に事業を展開してきましたが、その後は業務プロセス全体のデジタル化、自動化へと領域を拡大し、現在では約1万3000社のお客様に製品をご利用いただいています。
特にこの5年ほどで導入社数が倍増しており、その背景には業務プロセスの自動化にAIを組み込みたいというニーズがあります。AIについては以前から研究開発に取り組んでおり、主力製品の業務自動化基盤「Accel Platform」やSaaS版の「Accel-Mart」にAIを実装して提供しています。また、現状の業務プロセス全体を可視化し、どこにAIを組み込めば効果があるのかという上流工程の設計から伴走することにも力を入れています。
──どういった点が競争優位性につながっていますか。
日本企業には、AIを前提とした業務プロセスに変えていきたいという思いがある一方で、全く異なるプロセスへ一気に切り替えることには抵抗感があります。そのため、徐々にAIネイティブな業務へ近づけていくアプローチが好まれています。当社は、そうしたニーズに合わせた設計を得意としています。
具体的には、プラットフォームを提供して業務が動き始めると、さまざまなログが蓄積されます。それを活用して、当初の計画通りに自動化や効率化が進んでいるのかを測定し、継続的にモニタリングします。そこで計画と効果にギャップがあれば業務を見直し、効果が確認できれば他業務へ横展開する。そうしたPDCAサイクルを回すことができます。
これまでは人が業務の主体で、AIはプロセスを補助する存在でした。しかし、AIエージェントは業務そのものを実行します。人が最終判断や承認を担い、AIが業務を進めるという役割分担が現実になりつつあります。重要なのは、AIを前提に業務プロセスそのものを設計し直すことです。
──年始時点ではNTTデータが47%あまりの株式を保有していましたが、3月にはグループからの独立という大きな体制変更がありました。この背景をお聞かせください。
独立の最大の理由は、意思決定のスピードをさらに高めるためです。AIエージェントの登場によって、市場環境は過去にない速度で変化しています。製品のあり方も、パートナーの役割も、お客様の業務も変わっています。こうした状況の中で市場の変化をいち早く捉え、自ら判断し、自らリスクを取り、迅速に投資していく体制が必要だと考えました。社内に加えてNTTデータの幹部とも議論した結果、現在の体制が今後の成長に最もつながるという結論に達しました。
──NTTデータやグループ各社との関係は変わるのでしょうか。
親会社/子会社ではなくなりますが、関係が切れるわけではなく、独立後もNTTデータには21.75%を保有する筆頭株主として引き続き支援いただいています。同社と新たな業務提携契約も結んでおり、グループ企業との協業や共同提案は継続します。当社パートナー約200社のうち30社はNTTデータのグループですし、実際に独立後もグループ各社からのイントラマート製品への引き合いはむしろ増えており、当社の挑戦する姿勢を尊重してくれています。
標準化しにくい固有の競争力を伸ばす
──業務システムの世界では、「個別につくり込むより、“Fit to Standard”すべき」との考え方が広がりつつあります。
会計や人事など、決まった型の手続きがある分野では、その考え方は合理的です。一方、標準に寄せ過ぎることで競争力の源泉である個性を失ってしまうケースがあります。実際に製造業であれば、設計部門のノウハウや受発注の仕組み、営業と工場の連携方法などに差別化要素があります。そうした部分まで業務を標準のパッケージに合わせた結果、納期回答に以前より時間がかかるようになってしまった事例を目にしたことがあります。
創業以来、私たちが掲げているのは「100社あれば100社それぞれの強みをITで引き上げよう」という考え方です。例えば、日本企業には分割承認や引き戻し承認など独特の業務文化があります。そうした現場に根差したプロセスまで含めて個別に最適化できることも当社の強みです。
──AI駆動開発によって開発工数の削減が現実的となる中、イントラマートのパートナーを含むビジネスへの影響をどのように見ていますか。
私はプラスに見ています。従来、当社のサービスを活用したSIビジネスの成長の制約となっていたのはリソースでした。AI駆動開発を活用することでパートナーのキャパシティーが増えれば、同じリソースで対応できる案件数も増えるはずです。そのうえでパートナーが上流工程に入り込めるようリスキリングを進めれば、売り上げと利益を同時に伸ばすこともできます。
業務プロセスのコンサルティングで重要なのは、ユーザー企業とともに現場で働き、業務を深く理解しているSEの存在です。ユーザーと肩を並べているからこそ、的確に課題を発見し、AI時代に適した業務プロセスを設計・提案することができます。縦割り意識の強い日本企業においては、部門横断で業務規定の整備やコスト管理、調整を進めていく能力も求められます。
──パートナーのリスキリングに関する具体的な施策はありますか。
現在、コンサルティングについては子会社のBiXiコンサルティングが提供しています。ただし少数精鋭の体制であるため、より多くの企業を支援できるよう、ノウハウをメソドロジー化しています。10月からはこれをパートナーへ開放し、上流工程への進出を後押しすることで、全国で同じサービスを提供できる体制を構築していきます。
具体的には、認定制度と研修制度を中心に展開していきます。認定制度については、年度内をめどに整備する想定です。パートナーの製品理解と技術力・提案力向上を目的に先行して実施していた「IM-TechCamp」では、半年ほどの期間をかけ、隔週の講義や課題、成果発表などを通じてAI駆動開発を学べる実践プログラムを提供してきました。24年度からスタートし、現在は各回300人以上の参加者が集まっています。
パートナーエコシステムを1000億円規模へ
──今後の成長戦略について教えてください。
現在、パートナー各社が手掛けるintra-mart関連のビジネスを総計すると約800億円の規模ですが、AI駆動開発による開発能力の拡張を推進力に、1000億円を目指します。サービスの完成度を高め、より使いやすい製品へ進化させていくことはもちろん、市場開拓を進めるには、これまでとは異なるパートナーも必要になると考えています。
市場開拓の方向性としては、当社が直販していた製造業の基幹系に近い領域などを想定しています。この領域に対応できるパートナーはまだ限られているので、直販で培ったノウハウを、ナレッジやテンプレート、ツールとして体系化し、展開していきます。
また、当社はこれまで主に大企業向けにビジネスを展開してきたため、中堅・中小企業にはオーバースペックな部分もありました。とはいえ、企業規模を問わずDXニーズは高まっていることを考慮し、ノーコードで活用できるエントリー版の「Accel-Mart Quick」を数年前から提供しています。こうしたサービスを起点に、中堅・中小企業を得意とするパートナーとの関係づくりを進めます。
──10月1日に社名が変わりました。意気込みを。
今回の社名変更は、私たちにとって第二の創業だと考えています。もともと当社は、ゼロから事業を立ち上げ、挑戦を続けてきた会社です。成長することで安定した部分もありますが、AIエージェントの登場など変化の大きな時代だからこそ、もう一度、創業時のチャレンジ精神を取り戻して挑んでいきたいと思っています。
苦労もありますが、自ら考え、アイデアをかたちにしていく「ゼロからイチを生み出す楽しさ」を社員一人一人に改めて実感してほしい。挑戦者としてのマインドをもう一度胸に刻み、新たな成長に挑んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
人の代わりにAIが働くようになった時代でも、中山社長は人材育成に力を注ぐ。かつて自身が休日や終業後に技術を磨いていた経験を振り返りながら、現在はコンプライアンスや働き方改革の観点から同じことをするのは難しいと語る。だからこそ、「業務の中で学ぶ時間をつくる」ことを大切にする。
AIによって複数の開発工程が自動化される時代には、AIが生み出した成果物を正しく評価する知識や、工程横断で対応できる幅広いスキルが人に求められる。AIによってベテランの知見を共有しやすくなった一方で、「経験に裏打ちされない判断には説得力がない」とも指摘。実践を通じた学びを重視する。
いかにAIが高度化しても、最後に責任を持って判断するのは人間だ。人と組織の成長を本気で考える姿勢に、AI時代の競争力の源泉を見た。
プロフィール
中山義人
(なかやま よしひと)
1966年、山梨県生まれ。92年、東京大学大学院修士課程(生命情報工学専攻)修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。2000年、NTTデータイントラマート(現イントラマート)を設立。01年6月から現職。武蔵野大学特任教授を兼任。
会社紹介
【イントラマート】1998年、NTTデータの社内ベンチャーとして事業を開始。Webシステム開発・運用保守支援プラットフォーム「intra-mart」の開発・販売を主な事業として展開。2026年3月期(25年4月~26年3月)の売上高は146億5600万円、営業利益は13億8100万円。