米国からの報道によると、米連邦調査局(FBI)が「トロイの木馬型」のコンピュータウイルスの開発を進めている。テロリストに対する諜報能力を高めるのが狙い。これまでならプライバシーの侵害が社会問題になるところだが、米国同時多発テロの記憶がまだ冷めやらぬなか、このウイルス、あっさりと米国世論に受け入れられるかもしれない。

 FBIの広報担当者は、米国の報道機関の取材に対し、諜報活動の新しい武器としてコンピュータウイルスを開発中であることは認めたものの、「まだ開発の早い段階なので詳細を明らかにできない」と語っている。

 米国での報道を総合してみると、FBIが開発を進めているのは「魔法のランプ(マジックランタン)」と呼ばれる「トロイの木馬」型ウイルス。

 電子メールなど一見安全そうなデータの中に潜んでパソコンに侵入、その後パソコンのなかで本性を現し大暴れするためこう呼ばれる。「魔法のランプ」にはキーストロークをすべて記録し、転送するソフトが添付される可能性が大きい。事実、FBIがキーストロークを記録し転送できるソフトの開発を進めている。

 キーストロークをすべて把握できれば、暗号化する前のメッセージを入手できるほか、各種ID、パスワードの入手も可能だ。

 新種のウイルスが発見されれば、アンチウイルスソフトメーカーがウイルス定義を更新したものをすぐにも配布するので、「魔法のランプ」もその効力をすぐに失うとみられる。そこでFBIは、裁判所の令状を取り「魔法のランプ」をウイルス定義ファイルに追加しないよう命じるものとみられる。

 FBIはこれまでにも無線傍受ネットワークの「エシュロン」や、電子メール傍受ソフトの「カーニボー」などを運用、開発し、プライバシー保護団体などから批判されている。

 とくに「エシュロン」は米国政府がその存在を認めていないものの、1980年代の経済戦争華やかりしころは、欧州や日本の企業や政府の通信を傍受し、米国企業にリークしたり経済交渉を有利に運ぶために利用したといわれる。

 欧州議会は1年間の調査の結果、こうした行為は過度の諜報活動でプライバシーの侵害に当たると批判する内容の報告書を2001年5月に出している。

 一方、「カーニボー」と呼ばれるインターネット通信傍受ソフトは、「エシュロン」に批判的な世論のなか開発されたが、まだ十分利用していないもよう。

 FBIは裁判所が認めた情報以外は収集しないと米国民に約束したが、これまでの経緯もあり、米世論が納得したとは言いがたい。

 そこで「カーニボー(肉食獣)」というコード名を「DCS1000」という無味乾燥な名称に変更するなど、あの手この手で米国民を納得させようとしているところだった。

 同時多発テロの影響で、こうした世論が大幅に後退、「魔法のランプ」に批判的なマスコミ報道は多くない。これは日本の政府や企業にとって重要な問題といえるだろう。 (湯川鶴章)