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厳しい米の無線市場 定額無線のインターネット

2002/09/16 16:29

週刊BCN 2002年09月16日vol.957掲載

 数年前に全米で全盛を誇ったRicochet(リコシェ)の定額無線インターネットアクセスを利用した経験のある人は、当時、その先進性と利便性に感銘をうけたはずだ。ネットバブルのあおりで倒産した後、再起の準備を進めてきたRicochetが、カリフォルニア州サンディエゴ地区を皮切りに米国における業務をようやく再開した。

 シリコンバレー、シアトル、ワシントンDCのみにその利用地区が限定された、22Kbpsのデータ通信速度による月額30ドル固定の無線インターネットサービスが市場に登場したのは1990年代半ばだった。

 データアクセス速度はとても満足できる水準ではなかったにもかかわらず、その利便性と経済性の高さからユーザー数は爆発的に増大した。その登場からあっという間に、シリコンバレーの至るところでRicochetモデムを見かけるまでに成長した。

 なかでも当時興味を引いたサービスは、データ通信に限定されるものの、これら各地区内を透過的に結ぶダイアル回線プロキシの存在だ。

 このサービスを利用することにより、シリコンバレー最北端のサンラファエルから最南端を越えたサンタクルーズ間という200マイルも離れた距離を、ローカルコール費用、すなわち無料でダイヤルアップすることができた。

 まだVPNが全くと言ってよいほど普及していなかった当時では、近隣地区を隈なく移動しながら業務を行う外販の営業担当者やネットワークフィールドサービス業者などにとって、現地からオフィスのネットワークへダイアルインする場合に通常では必要となる長距離電話料金が無料というのは画期的だった。

 日本市場で徐々に注目を集め始めている定額無線インターネットアクセスは、このRicochetとの著しい類似性が認められるため、その普及は確実視してよさそうだ。

 米国ではPHS方式が普及していなかったため、Ricochetは拡散スペクトラム方式による自営の無線ネットワークを市中に張り巡らせ、業務の拡大に努めた。

 当時の最大の懸案であるデータ通信速度を128kbpsに向上し、その可用範囲を全米主要都市を網羅する規模に拡大したが、結局は資金難の壁にぶち当たり自爆してしまったのが01年。

 その裏には、Ricochetの普及を恐れる携帯電話企業や長距離回線業者の影があったことは想像に難くない。

 ユビキタス定額無線データ通信というパンドラの箱を開けてしまった米国市場では、無線データ通信に対する従量制課金というスキームは、もはや一般市場に対しては通用しないと考えるのが一般企業人の倫理だろう。

 しかし米国では逆に、Ricochetの登場と退場後、現在に至るおよそ7年の間、そのサービスを踏襲することで市場改革を本気で推進しようとする企業は現れなかった。

 今回、Ricochetは復活したとはいえ、全ての関連業者がお互いの既得権益と業務体制を墨守するために敢えて阿吽の呼吸でこの新市場形成を阻害してきたと見ることさえできそうだ。(大平 光)
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