“短期決戦”を旗印に始まったイラク戦争は確かに短期で終わった。だが、交通や通信の要所は破壊され、社会基盤が壊滅的な打撃を受けた。その戦後復興プロジェクトが今、始まろうとしている。その一環として、通信部門の復興策でにわかに有望視されているのが、Wi-Fi(Wireless Fidelity)技術だ。砂漠の大国イラクが、いち早くワイヤレス先進国になる日は近いかもしれない。

Wi-Fi陣営が強力な売り込み

 “蜂の巣状態”になったイラクの戦後復興に対し、アメリカが注ぎ込む国家予算は総額1000億ドル(約12兆円)で、第2次世界大戦の戦後復興以来の巨大公共事業となる。なかでも最大のパイを握るインフラ整備は、サンフランシスコの建設大手ベクテルが落札した。今後は同社が主導して空港や港、電気、水道など社会基盤の整備を進める。

 ベクテルといっても日本で馴染みは薄いが、米国ではミリオン単位の巨額の政治献金でワシントン(政府)と強いつながりをもつことが度々取りざたされている。事業面ではべイブリッジ、フーバーダム、英仏海峡トンネルなど、世界的な大工事を成し遂げたことで有名だ。

 そのベクテルが世界とイラクの各企業を率いて行う復興工事は、「整備」というよりはむしろゼロからの立て直しと言っていい。

 例えば通信網。イラクではケーブル網はもちろん電話網も十分ではないため、日米のようにこれら既存インフラに頼るDSLや高速ケーブルのような従来型のブロードバンド技術は適用が難しい。従って、いきなり最新鋭のワイヤレス技術を導入することになる。

 電柱も電話ボックスもない第3世界の野っ原でケータイを取り出すイメージに近いが、言うまでもなくこれは電話の世界で現実に起った話だ。

 砂漠のど真ん中でブロードバンドとなると採用できる技術には限りがある。「何てったってWi-Fiでしょう」と先陣を切って政府に強力な売り込みをかけているのが、シスコやプロキシム、ノマディックスなどWi-Fi関連の大手だ。

 どんなへき地でも比較的低予算で高速接続環境が実現できるWi-Fiは、アメリカではコーヒーショップのスターバックスがまず導入した。先住民居留地や第3世界でも普及が進んでいる。

 極端な例でいうと、世界最高峰エベレストで標高5100メートルのベースキャンプに今月開設したサイバーカフェで使ったのも、このWi-Fi。3月にはインテル、AT&T、IBMが出資するWi-Fiプロバイダのコメタ・ネットワークスがニューヨーク市内のマクドナルド10店舗でホットスポット(Wi-Fi接続ポイント)を開設、マクドナルドの脱ワイヤー計画が注目された。

 セキュリティ面での不安、障害物に弱いこと、ほかの電化製品への干渉など、Wi-Fiにはまだ弱点もあるが、今年中には世界2万5000地点で接続が可能になるとされ(ガートナー予測)、Wi-Fiは世界レベルでワイヤレス環境を語る上で必須のタームとなりつつある。(市村佐登美)