ニュース

競争力強化のため、電波行政見直しへ

2003/06/16 19:23

週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載

政策転換図る米政府

 米ブッシュ大統領はこのほど、政府による周波数の割り当てを中心としたこれまでの電波行政のあり方を見直すための作業班を発足させた。無線LANなど、電波利用のあり方が根本から変化し始めたからだ。周波数を大幅に開放することで、産業振興も狙っている。米国が先陣を切れば、日本を含む先進各国も追随せざるを得なくなるかもしれない。

 作業班は商務省を中心にした各省庁の担当者で構成され、第1班は政府機関の、第2班は民間のより効率的な周波数利用の方法を検討する。検討期間は1年間。

 このほか、連邦下院も政府所有の周波数を民間に開放するための審議を始めているほか、スタンフォード大学が新しい電波行政を提唱するシンポジウムを開催するなど、電波行政を見直す機運が高まっている。

 見直しの機運が高まる背景には、電波はもはや希少資源ではないという認識の広まりがある。

 政府による周波数割り当ての根拠は、混信の防止。ところが受信機の性能の向上にともない、目的の信号以外の信号や雑音の多くを排除できるようになってきている。ホットスポット内で複数のパソコンの通信が混信しないのはこのためだ。

 またパケット通信で周波数を効率利用できるようにもなってきた。1つの周波数でデータ渋滞が発生すれば、混雑の少ない周波数にパケットを迂回させることで、より多くの信号を転送できるということだ。米同時多発テロの際には携帯電話がパンク状態になったが、もし周辺の周波数への自動的な切り替えが可能であれば、通信が不通になることはなかったといわれている。

 その上、ユビキタス・ネットワーク構想のように、各種電子機器が無線機能を搭載し、バケツリレーのように信号を転送していくようになれば、電子機器の増加にともない転送可能な信号の容量も増加する。

 つまり電波はもはや希少資源ではなくなるわけだ。

 もちろんこうした事態を可能にするには、乗り越えなければならないハードルがいくつかある。

 1つは、放送局や電波業者など、既得権者から周波数を開放させなければならない。既得権者は猛反対するだろう。

 また周波数を自動的に切り替える無線ソフトウェアなどの技術の向上が必要だ。だが別の言い方をすれば、電波を開放した国ではこうした分野の技術が急速に進歩し、世界をリードする可能性がある。

 電波行政の見直しは国際競争力強化にもつながる可能性があるわけで、ブッシュ大統領は「米国の周波数資産から経済価値と起業家的な可能性を解き放たなければならない」と書簡に記している。

 果たして日本は、同様の発想から電波行政の見直しに着手できるのだろうか。(湯川鶴章)
  • 1