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危機迫る音楽業界 ダウンロードでCD激減 氾濫する著作権問題

2003/09/29 19:32

週刊BCN 2003年09月29日vol.1008掲載

 インターネットから音楽をダウンロードする利用者は現在米国で約5700万人。気軽に無料で音楽が聴けるようになったのはいいが、この影響で音楽CDの売り上げは過去3年間で31%もの急激な落ち込みを見せている(音楽業界調べ)。焦る業界が狙いを定めたナップスター潰し後の標的は、“個人”。しかも261人の一斉告訴という未曾有の戦術だ。

「プロバイダは音楽ダウンロードを宣伝に使うだけで、ユーザーに著作権違反の危うさについて、何1つ教えてこなかった」と、全米レコード協会(RIAA)会長が眉を吊り上げれば、ベライゾンの代表は「12歳の少女相手に聖戦か?」とやり返す――。

 9月初旬、RIAAが米全土で行い波紋を呼んだ“違法コピー常習者261人の一斉提訴”について、その是非を話し合う米上院商務委員会公聴会が17日開かれた。満席の会場ではRIAAと、RIAAの強硬姿勢をプライバシー侵害となじるハイテク陣営との間で激論が交わされた。

 ある統計によると、音楽ファイル交換ソフト利用者の3分の2は、楽曲が合法か違法かなど全く意に介さないグレーな母集団だという。これだけの母数では一網打尽はとても無理だ。 しかし、いざ蓋を開けてみれば、捕まったのは多くが若者。著作権法が規定する1曲750-15万ドルの罰金など1曲分だって払えない人たちだ。そもそもCDが買えないからファイルで間に合わせているのである…。別の統計では、やはり収入が少ない世帯の方が若干利用率が高かった。

 リストには著名大学の教授も含まれており話題になったが、これは何かの手違いと後に判明。激昂した大学がRIAAに個人情報の引渡しを拒否するなど、RIAAにしてみれば今月はまるで悪代官のイメージ定着月間なのである。

 さて、巷の反応はどうかというと、「そこまでやるか」(主婦)、「とうとう来るところまで来たな」(エンジニア)といったところ。違法コピーはいけないという主張と同時に、事の深刻さをはっきりと印象づけてしまった。

 新聞各紙は早速、PtoP(ピアツーピア)世代の子どもたちを違法コピーの犯人にさせないためのQ&Aなどの特集を組んでいる。

 ファイル交換の影響で落ち込んだ音楽CDの売り上げは2000年から3年間で約10億ドル、業界の被害は02年だけで7億ドル。今後も被害は増えるだろう。同じ17日、ハーバード大学と調査会社のガートナーが各分野の専門家(メディア、音楽、ハイテク)を呼んでデジタルのあるべき将来へのシナリオを話し合った席では、アーティストの収入を税金でカバーするなど従来の商業ベースの発想から一歩踏み出した抜本策が出し合われた。

 ここでも、「音楽業界が危機的な状況にある何よりの証拠」と162人の告訴劇を観測してる。RIAAの時間稼ぎは焼け石に水で、これからはテクノロジーの進化を拒むのではなく、進化を前提とするビジネスモデルの構築が急務というわけだ。(市村佐登美)
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