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普及する米国VoIP、中小ISPは淘汰の時代へ 市場は大手数社に集約か

2003/12/15 19:39

週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載

 VoIPが急激に普及し始めた。大手の電話会社なども続々参入するなか、急速な普及は、価格破壊と顧客の取り合いにより、市場を荒廃させる。IT産業ではこれまでも何度も繰り返されてきたことだ。確固たる指針は確立されていないまま、模索が続くVoIP業界の状況をお伝えする。

 米国でVoIPサービスが急速に普及し始めた。しかし米国でのVoIPサービスは、中小企業を含めた企業向けに重点が置かれており、一般家庭向けが中心の日本とは大きく違っている。

 米国でのVoIPのサービス形態は、大きく二分されつつある。1つは地域の電話会社やISP(インターネットサービスプロバイダ)が、自社の電話回線やブロードバンドユーザーへの追加サービスとして、お得なパッケージを提供しているグループ。もう1つは、大手ITベンダーなどが中心となって、顧客ごとに新たにシステムを構築し、個別の契約でサービスを提供するグループだ。

 前者は一般の企業向け以外にも、個人向けや小規模オフィス用など、そのサービスにいくつかのバリエーションを持ち、基本料金も月30-60ドル程度と安価に抑えられていることが多い。しかし契約者同士の通話はほとんどが無料、しかも熾烈化する競争で値下げが相次いでおり、かつてのISP間のシェア争い同様、経営的に健全とは言えまい。

 一方後者のグループも、近年のPBXの出荷数の頭打ちなどにより、何らかの打開策を講じたいというのが発端で、特に大手通信会社は、自らの事業を脅かすVoIPには本来手を出したくはないはずだが、ライバル他社が参入してくるため、仕方なくサービスを提供しているというのが実状だ。

 VoIPを含むネットインフラの構築に関しては、一般の電話事業ほどには厳しい法的規制は課せられていない。これが中小の参入が目立つ理由の1つである。しかし、近い将来には行政による各種制限の導入も検討されており、その際には中小の自然淘汰を生み出しかねない。それを見越したAT&Tやタイムワーナーなど、これまで参入をためらっていた大手たちも、次々とサービス開始を発表している。

 しかし、VoIPが近い将来に一般の電話回線に取って代わることはもちろん、1つの通信インフラとして、確固たる地位を確保する可能性も少ないのではないかという見方は多い。これはネットインフラの急速なワイヤレス化や、携帯電話の普及により、固定電話の重要性が薄れつつあること。さらに現在では、通信時には何らかのデータ処理が必須となりつつあるためで、今後は音声通話以外への技術利用が焦点になるものと見られている。

 このため、やはり各種のノウハウを持つ大手が優位と予想されるが、彼らがVoIPの普及を望まないのは先に述べたとおりだ。かつて星の数ほど存在したISPと同様、最終的には数社の大手に集約されていく可能性は高い。(田中秀憲)
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