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「得をするのは誰か」特許システムに懸念 関連法改革の必要性高まる

2003/12/22 19:39

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 猫も杓子も特許の現代。偉大な発明の主に20年間の独占権を保証し、これをインセンティブとして更なる発明を喚起する――この特許システムの原理が情報化時代の今も健全に機能しているかというと、答えは曖昧だ。特許先進国アメリカで、特許商標庁の体制から見直すべきとの議論が盛り上がっている。

「特許の規定があいまい」、「範囲が広過ぎる」――。そんな懸念がにわかに浮上したのはソフトやネットの登場が契機だろう。

 ソフトは他の製品に比べ開発コストが低く、細切れなコードに特許が出るとトータルな開発がしにくい。ネットはネットで“ビジネスモデル特許”という厄介な問題がある。先発のアマゾンがショッピングカートやワンクリック決済の特許を盾に後発のバーンズ・アンド・ノーブルの進出を阻もうとした歴史的対立が有名だ。こうした反省から、ビジネスモデル特許には二重の審査体制が敷かれている。

 それにしても「なぜ?」という特許は多い。マイクロソフトのブラウザも特許なら、eベイのネットオークション、携帯メールのブラックベリーも特許だ。何をするにも特許の砦が幾重にも行く手を阻み、新興企業が入り込む隙は針の先ほどに限られている。

 これでは技術革新の後押しどころかマイナスに作用し兼ねないというわけで、特許戦争では攻め手であるはずのインテル帝国のアンドリュー・グローブ会長なども最近は「特許システムだけでなく知的所有権関連法の包括的改革が必要」と危機感を表明している。 「特許で得するのは誰か」と問われれば、建前としては消費者だが、米連邦取引委員会(FTC)が今秋まとめた報告書では、「特許の業種が増えて範囲が広がることが、即ち消費者のプラスになるとは限らない」との結論だった。

 得するのは特許をわんさか抱え込んでいる大企業、そしてモノになりそうな技術を先読みして特許で固め、自分たちでは製品化せずに誰かが作るのを待ってライセンス料を取り立てる“サブマリン特許”の仕掛け人たちである。

 特許コレクションの王者IBMを例にとると、同社が1993年から02年までに取得した特許数は2万2357件。そのライセンス料だけで約100億ドルの収益を挙げている。まさに“ドル箱”だ。

 米国の新案特許出願数は90年から倍近くまで膨れ上がっており、審査中の物件は45万件。これ全部を総勢3600人ぽっきりの体制でこなしている。しかも特許制度は1790年からの年代モノ。これで万人が納得する制度運用ができる方がおかしいのである。

 そこで先のFTCは出願料の値上げ、予算拡大、増員などを柱とする改革案を提案した。米科学アカデミーも特許関連の報告書を来年作成する。更に踏み込んで「特許の効力を弱め反証の道筋を作れ」という声も強まってきた。 誰のための特許か。基本に立ち戻るべき時期にさしかかったということか。(市村佐登美)
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