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IT業界に脅威、米国の相次ぐ訴訟 回避法案可決後も警戒

2004/04/12 20:44

週刊BCN 2004年04月12日vol.1035掲載

 訴訟大国アメリカでは、毎日のように巨額の賠償金を要求する訴訟が起こされ続けている。これまでは手つかずに等しかった、IT関連企業相手の大規模訴訟が起こされるのはもはや時間の問題と見られており、関係各社はいかにしてこの種の脅威から身を守るべきかが大きな課題となってきている。

 3月初頭にある法案が可決された。いかにも米国らしいこの法案は、要約すると、例えば肥満の原因がファーストフード店にあるとして、その企業や業界団体等を相手に訴訟を起こすことを禁じるもので、多くの人が非常識であると判断するような訴訟を回避することを目的に可決された。可決には、業界団体の支援を受ける議員達の強力な後押しがあったのは事実だが、いずれにせよこの種の裁判に不快感をもつ市民は多く、法案の可決自体は非常に好評である。

 この話題、いささかIT分野には縁がなさそうだが、実はIT業界もこの可決には胸をなで下ろしているという。これはITが現代社会では避けることができないほど普及したことで、訴訟大国アメリカにおいては、まだ見ぬ脅威にさらされていることと同義になったからである。

 各種のハードウェアから発する電磁波や、モニタによる視力の低下を問題にする訴訟は容易に想像がつくし、既に過激な内容のゲームソフトが凶悪犯罪の要因であるとの主張はいくつかなされている。もしかしたら、あるソフトの使いすぎでストレスが溜まったと訴えがなされる寸前だったのかもしれない。

 ところでこの種の裁判は、被害者側からの主張というより、一気に名声と莫大な収入を狙う山師的な弁護士によって主導されるケースがほとんどだ。タバコ訴訟は言うに及ばず、数多くの薬害訴訟関連での巨額の和解金に味を占めた彼らは、次のターゲットをファーストフードチェーンに向け、そしていずれ必ずITメーカー各社にもその触手は及んだことだろう。

 これまでIT業界が関与した訴訟といえば、メーカー側に関与するPL(製造物責任)法関連のものや、ソフトの製作や音楽配信に絡む著作権の保護に関するもの。もしくは大手企業による独占禁止法の関連が主であり、一般のユーザーが原告となる訴訟が起こされたケースは例外的であった。しかし今後もあらゆる種類の訴訟が起こされる可能性は高く、IT産業界全体で対応が必要であるとの声もある。

 今回の可決により、あまりに突飛な訴訟が起こされる恐れは大きく減った。しかし莫大な利益を上げ続けるIT業界各社は、訴訟対象としては非常に魅力的であるに違いなく、今後も各種の脅威から身を守らねばならない。この法案も、ある種の訴訟を制限することで、かえって新たな方向性での訴訟を生み出すきっかけになってしまったのではないかという懸念も指摘されている。(田中秀憲)
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