ニュース

ネットの予測市場 高的中率の先物取り引き アナリストを凌ぐ勢い

2004/06/21 20:49

週刊BCN 2004年06月21日vol.1044掲載

 うるう年の今年は五輪に、米大統領選に大忙しだが、そんな先が読めない分野で活躍するのがネットが舞台の「予測市場(prediction market)」だ。米国では10年以上前から大学や民間が運用実績をあげ、最近の研究によって一般の世論調査やアナリスト予想より的中率が高いことまでわかってきた。

 予測市場とは、ある出来事が将来起こる可能性を取り引きする先物市場のこと。またの名を仮想証券市場、イベント・フューチャーとも言い、投資の対象は選挙から試合までジャンル無制限だ。

 世界最古の実践例は米アイオワ大学が1988年に作った非営利サイト「アイオワ電子取引市場」(http://www.biz.uiowa.edu/iem/)。ここは大統領選当落予想が当たることで知られ、的中率は「世論調査の75%を凌ぐ高率」(サイエンス・ニュース)とも言われる。投資上限は500ドル。

「ハリウッド証券取引市場」(http://www.hsx.com)は96年開始。映画優待券が当たるバーチャル取り引きながら、02年オスカー賞予想では主要部門40候補のうち35候補までを当てた。米法の網を逃れたアイルランドで02年に誕生した人気のサイト「トレードスポーツ」(http://www.tradesports.com/)は、取り引き10ドルにつき、4セントの場所代が収入源。12年五輪開催地では、「パリ」銘柄がダントツ首位だ。

 米ニュース・フューチャーズは小規模集団で楽しめる専用ソフトを開発している。MITのハイテク動向予測サイトも採用したのはここのソフトだ。

 この予測市場という発想は、応用経済学分野で20年以上昔からあった。例えば「暗殺市場」。85年にジム・ベルという人物が考え、95年にはデジタル署名やデジタルマネーで匿名性を高めたモデルをサイトに再提案している。彼が記した論文「暗殺政治」に刺激を受けたインテル黎明期の著名エンジニア、ティモシー・C・メイ氏は、その実現のための暗号化プロトコルを開発し、FBI(米連邦捜査局)に研究の本当の目的を事情聴取されてもいる。

 理論が実践に向け動き始めたのは9.11の同時テロが契機。事件では、激突の3日前から被害に遭った航空会社2社の親会社の株で大量のプット・オプションと空売りが発生し、慌てた米証券取引委員会がアルカイダとの関連について調査に乗り出す一幕があった。

 世界が事の成り行きをリアルタイムの映像で追うので精一杯ななか、「市場だけは先に知っていた」ことになり、その信頼性に注目した米国防高等研究計画庁(DARPA)は03年7月、「政策分析市場(PAM=Policy Analysis Market)」の開設を発表したが、これは上院に、「暗殺やテロで金儲けとは不謹慎」とこっぴどく叩かれて頓挫した。

 早速、巷の予測市場ではこのプロジェクトの主任が「辞任する」に10ドル(=100%)賭ける不届き者が現れたが、彼の予想通り首はつながらなかった。侮るまじ、予測市場。(市村佐登美)
  • 1