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MS、トヨタに急接近、ERP参入の布石に IT産業と自動車メーカーの提携

2004/07/12 21:03

週刊BCN 2004年07月12日vol.1047掲載

 それぞれの業界を代表する2社、自動車のトヨタと、ITのマイクロソフトが急接近しているという。表立った行動はトヨタのレース活動へのスポンサー支援計画だ。しかし、それは将来大規模な提携に向けた第1歩だという噂もある。動向によっては各分野に影響を与えかねないこの2社の提携の内容を探る。

ers from the World」で、韓国サムスン電子のF1レースへの進出計画をお伝えした。ところが、この一件が話題になった数日後、まさに米国でのF1レースの期間中に、今度はマイクロソフトによるトヨタF1チームへのスポンサー計画が報じられ、大きな話題となった。

 これは独での新聞記事が発端となったもので、同紙によるとマイクロソフトは約4000万ドルをトヨタチームへのスポンサー料として用意しており、契約の詳細を詰めている段階だという。しかもこの提携は、単なる広告宣伝目的ではなく、将来の本格的な事業提携へ向けての第一歩という見方も強く、各方面の大きな注目を集めた。

 トヨタは「カンバン方式」や「カイゼン」と呼ばれる、自社内の各種開発/生産工程管理システムで、非常に高い成果を出している。そしてこれらのシステムを積極的に他の分野にも導入し、各方面へ十分対応が可能であることを実証している。一方マイクロソフトは、同社の勢力が及ばない数少ない分野であるERP(統合基幹業務システム)市場への進出機会を狙っていることもよく知られている。

 ERP市場には、世界の主要企業1万社に採用されているとして、事実上の業界標準であるSAPをはじめ、無数のパッケージソフトや独自開発のシステムが存在している。その市場の大きさから、マイクロソフトとしても、いつかは本格参入すべき分野であった。しかし、いかにマイクロフトといえども、全くの新製品がいきなり市場でのシェアを獲得するとは考えにくい。トヨタへの接近はそのための布石ではないかと見られている。

 もし、トヨタと大手IT企業との密接な事業提携が実現すれば、将来発売するシステムの主要クライアントがトヨタの関係企業となることも十分考えられる。新製品の宣伝文句としてはケチの付けようがないだろう。また、トヨタが持つ各種のノウハウを存分に生かすことができれば、非常に完成度の高い製品が期待できる。

 ところが7月早々に、トヨタチームはBMCソフトウェアとのスポンサー契約を締結した。BMCも社内システムには非常に力を入れている。この提携により、マイクロソフトへ向けられていた視線がそっくりそのまま同社に向けられることになった。

 現在、米国中西部では、日本をはじめとする世界各国の自動車メーカーの進出が相次いでいる。同時に多くの部品メーカーをはじめ、下請け/関連企業も米国内に拠点を置くこととなり、これら企業向けの各種システムも一気に需要が高まることになる。彼らに対して、大企業から中小企業までが混在する自動車業界に柔軟に対応が可能で、しかもトヨタという成功事例のノウハウがふんだんに詰め込まれているシステムが提供されれば、一気にシェアを獲得する可能性も高い。

 さらにはカーナビなどの車載アクセサリーや、エンジンや車体の制御分野にまで進出の可能性が出てくる。現在、トヨタチームは、パナソニックのスポンサードを受けているが、トヨタを媒体としてこれら日本の家電メーカーと親密になっていくことも可能で、今後ますますIT化が進むこの分野も、非常に魅力的なターゲットとして浮かび上がって来るだろう。

 マイクロソフトやBMCに刺激されたわけではなかろうが、アップルコンピュータはBMWとの提携を発表した。これにより同社の一部車種において、ハンドルのスイッチでiPodが操作できるようになるという。

 しかしBMWのF1チームはすでにデルとの関係が深く、この提携はあくまで周辺機器分野での提携に限られているようだ。F1レースが大手自動車メーカー同士の競争になってから久しいが、IT産業にとっても、市場でのシェア争いの代理戦争になりつつある。

 近い将来、トヨタとIT大手の提携が実現すれば、彼らはレースでの優勝より先に、IT分野での勝利を得ることになるかもしれない。(田中秀憲)
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