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ブログ、影響力広がる 電子メディアの地位確立 大統領選集票ツールにも

2004/07/19 21:03

週刊BCN 2004年07月19日vol.1048掲載

 米大統領候補指名を行う民主党全国大会が7月末行われる。政治記者ならば1度は憧れるこの晴れ舞台のプレス席に、今年は初めてブロガーの一団も正式に参加が認められた。インターネットをベースとする電子メディアのブログが、読者数、影響力ともに無視できないレベルに成長してきた証拠として受け止められている。

「他の記者さんと待遇は全く同じにしたいですね。初日は朝食会も予定していますよ」

 大会主催者はこう語る。全国大会は大統領選の開幕を告げる夏のビッグイベント。一足早い民主党全国大会には、ブログ界初の報道権を得ようと、政治を得意分野とする60人以上の著名ブロガーが名乗りを上げた。審査にパスしたブロガーは4日間の会期いっぱい会場に詰め、1万5000人の興奮を現場から送ることができる。

 誰でも書きたいことを書き放題できるネットジャーナルの「ブログ」が流行っている。ブログは「Web Log(ウェブログ)」の略。ウェブ日記が独り言を綴る“閉じられた媒体”なのに対し、ブログは関連リンクを張って情報の窓口としたり、読んだ人が感想を書き残して討論の場とすることが可能な“開かれた媒体”だ。書き手の信条を軸とする時評、ニッチな分野に特化したウォッチドッグ的な色彩が多い。

 最初のブログ出現は1997年に遡る。99年に専用ソフトと無料ポータルが生まれ、普及が加速。その3年後にはブログ運営の草分け、パイラ・ラボの「BLOGGER.COM」がユーザー数100万人弱を達成した。同社のCEOはサンフランシスコのアパートの自室で仲間数人と同社を運営していることで有名だ。現在はグーグルに出向いてブログの開発総括も手掛けている。

 一般報道機関が避けて通るタブーにもブログは果敢に踏み込んでいく。この無修正なナマ情報の底力を見せつけたのが02年12月のトレント・ロット事件だ。全米のメディアが報道を自主的に控えたロット議員のパーティー会場における差別発言をブロガーたちがしつこく取り上げ、同議員は発言の4日後に公式謝罪、2週間後には上院多数党院内総務辞任に追い込まれた。
 ブログにはデマも多い。例えばケリー大統領候補とインターン女史との不倫疑惑は、年初にブログで広まった単なる噂話を既成事実としてタブロイド誌やラジオ番組が盛んに伝えたもの。実のところ話の裏は全く取れていない。

 客観性は二の次。本当かどうかの判断は読者任せ。そんな弱さと強さを併せ持つブログは未加工な一次情報の宝庫だ。情報の送り手と受け手の双方に慎重な姿勢が求められ、正式な報道機関とは認められにくい。しかし今回の大統領選は違う。ブログに広告を出したり、ブログや個人ウェブを集票ツールとして活用する陣営がやたらと目立つのだ。

 中でも出色は、ジョン・F・ケリー上院議員。7月6日には副大統領候補決定の重大ニュースを個人サイトとブログ、メールで同時発表する荒技を遂げてしまった(http://blog.johnkerry.com/blog/archives/002048.html)。大統領候補が記者会見前にこれだけの重大発表をネットで行うのは「今回が初めて」(ロイター)。初報をネットで行い、サイト登録者にメール配信するとの予告が3日に流れるや、彼の個人ウェブ(会員100万人)には新たに15万件の登録が殺到した。まさに戦略の勝利。

 ブログは遠い存在の著名人をぐんと身近な存在に近づけてくれる。この点に目をつけ、自分でブログを書いてしまった最初の元大統領候補は、ディーン民主党議員だ。昨年3月開設の個人ブログ(www.blogforamerica.com)では、同年6月までに760万ドルの政治資金を集める嬉しいオマケ付きで、他陣営の多くが慌ててこれを真似た。

 映画「華氏90度」でマイケル・ムーア監督が、「どんどんダウンロードしていい」と公言するなど今年も大統領選は話題沸騰。ネットの戦いも加わってスリリングな展開が期待できそうだ。

 ちなみにこのブログ。実は天下のビル・ゲイツ氏も6月27日に始めている(http://billgatesblog.blogspot.com/)。初投稿には「きっと秘書が書いてるんだろう」などと早速歓迎のコメントが並んだが、それ以後、更新はなされていない。何が彼をブログに掻き立てたのか、非常に興味深いところだが、皆さんはどうご覧になるだろう。(市村佐登美)
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