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好きな絵や写真で切手を作ろう 米ネット企業のサービスが好調

2004/09/13 21:09

週刊BCN 2004年09月13日vol.1055掲載

 サービス開始後1か月もたたずに大人気となった米スタンプス・ドットコムの新サービス。目新しい技術や手法ではなく、しかも高コストであるにもかかわらず個人利用者を中心に大人気となった。既に確立し安定した技術の有効利用と、それを実現する柔軟な思考が新たなビジネスチャンスを生むという好例だ。

 米国のスタンプス・ドットコム(http://www.stamps.com/)が新しく始めたサービスが大人気だ。このサービスは、インターネットを利用して切手を購入する際に、注文する利用者が家族の写真や自分で描いた絵やイラストなどを注文する切手に使用可能だという点だ。

 このサービスを希望する利用者は、まず希望するデザインを電子メールの添付画像として同社に送る。同社の審査に通過すれば、そのデザインを使用した切手の発注が可能となる。出来上がった切手は後日利用者へ発送されるという仕組みだ。

 注文は1セット20枚のシート単位。購入価格は額面金額よりも高くなる。デザインが公序良俗に反しないものであることは言うまでもない。ヌードや暴力的な表現を用いたものなどはもちろんのこと、同社の独自基準にそぐわないものなども全て却下される。また、利用者が意匠の著作権を持たないものも、その著作権の保護の観点から使用することは許されない。

 このサービスが始まった8月10日からの最初の数週間の発注内容は、家族や結婚式での写真を利用したものがほとんどだったという。またカメラマンやアーティストたちが自分の作品をPRするためにこのサービスを利用するケースも見られ、いずれの場合も利用者には非常に好評とのことだ。

 一方、このサービスの開始によって、偽切手の横行を危惧する声も挙がっている。無数にデザインが出現する可能性が出てきたことから、画像処理ソフトを使った偽造は容易に考えられ、今後の更なる普及には偽造そのものの防止のための工夫とともに、不正使用に対する摘発方法の確立が大きな課題となるだろう。

 これまでのところ売り上げは好調だといい、今後は企業からの大規模な発注も期待されるところだ。

 しかし現在のところ、額面価格の約2倍という高コストがネックとなり、企業からの発注は今一歩だという。郵便物の発送時期を企業側が綿密に特定できるため、特に映画配給会社やゲーム業界などエンタテインメント業界は非常に興味を示しているというが、過激なものほど人気が出る傾向にあるエンタテインメント会社の希望する意匠では、厳しいデザイン審査を通過する可能性が低く、両者の思惑はなかなか一致しない。この点から業務利用での普及を疑問視する見方もあり、審査基準の明確化とその解釈が企業導入のカギとなるだろう。

 郵便事業の民間委託が進めば、利益確保は最優先課題となってくる。スタンプス・ドットコムは郵便物へのバーコードによる料金別納システムを広く展開しており、サービス開始以来5年がたったこの分野での売り上げは、既に切手換算で2億5000万枚を超えるまでに成長しているという。郵便事業では切手販売は収益の主要な柱だが、既に成熟したと思われていたこの分野で新たな収益構造が確立されたことは、民間委託が日本より進んでいる米国のケースとはいえ十分に注目に値する。

 しかもこのサービス開始にあたっては、技術的に難しい点はなく、ネットインフラの普及と民間委託という二重の追い風を受けたことで、意外なほど簡単に新しい需要を喚起できた。日本でも郵便事業の民営化の議論は活発だが、このような柔軟な姿勢と積極的な経営努力は、日本の関係者も見習うべき点が多いだろう。

 かつて日本において、年賀状印刷がワープロの大きな購入動機の1つだった。ワープロがパソコンになってからも同様で、現在でも年賀状印刷ソフトは安定した地位を築いている。

 スタンプス・ドットコムの手法は、日本でもかなりの売り上げを期待できると思われる。そしてその際に障害となるのは、郵便事業についてのさまざまな規制と当局の判断時期だけであろう。(田中秀憲)
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