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アマゾン、検索サービス開始 グーグル、ヤフーを猛追へ ネットビジネス変革の可能性も

2004/10/04 21:11

週刊BCN 2004年10月04日vol.1058掲載

 米アマゾン・ドットコムが検索サービス「A9」を正式スタートさせた。同サービスは、アマゾンの書籍などの物販をサポートするためのものではなく、インターネット上の検索エンジンの首位の座を狙おうというもの。グーグル、マイクロソフト、ヤフーの間の検索技術の開発競争にアマゾンが参入したわけだ。検索技術は、ネットビジネスは、果たしてどのように変化していくのだろう。

 A9を利用するには、A9のウェブページにアクセスしてアマゾンのユーザーIDとパスワードを入力する必要がある。またプラグインソフトをダウンロードし、マイクロソフトのブラウザ「インターネットエクスプローラー」のツールバー部分にA9専用の検索窓や各種ボタンを組み込み、ツールバーを使ってA9の機能を利用することも可能。

 A9の検索技術のうち、ネット上をロボットソフトが自動巡回し情報を収集するクローラー技術や、情報に索引付けしデータベース化する技術など、検索技術の基礎部分は、ライセンス料を支払ってグーグルの技術を利用している。

 このためウェブページ検索の結果自体はグーグルと同じ。また写真、画像の検索などグーグルに含まれる機能は、すべてA9でも利用可能だ。

 検索技術の基礎部分でグーグルと競うのではなく、応用部分で違いを出そうという戦略だ。

 ではグーグルと何が違うかというと、まず見せ方が違う。1回の検索で、キーワードに関連するウェブページ、写真などの結果が並列に表示される。書籍や百科事典などアマゾン所有のデータベースの検索結果も同時に表示される。書籍検索は、本文中にキーワードを含む書籍のタイトルだけではなく、本文中のキーワードを含む部分の前後の文章まで表示してくれる。

 しかしA9の最大の特徴は、パーソナライズ機能にある。ユーザーの過去の検索結果やアクセスしたページの傾向を記録し、ユーザーの検索の傾向を学習する仕組みになっている。使い込めば使い込むほど自分に合った検索結果が表示されるようになるわけだ。

 他のユーザーの検索履歴もデータベース化されているので、同様の検索をしたユーザーがどのような情報にアクセスしたかを調べて推薦してくれる仕組みにもなっている。

 気にいったページをブックマークのリストに追加したり、アクセスしたページの記録にメモをつけてあとから参照できる機能もある。ブックマークやメモはユーザーのパソコン上ではなくA9のサーバー上に記録されるので、ID、パスワードさえ入力すれば他人のパソコンからでも自分のデータにアクセスできるようになっている。

 アマゾンはA9のサービスをアマゾンのサイト上ではなく、独立したサイトとして運営している。また検索結果がアマゾンの物販に直結しているわけではない。なぜアマゾンは物販に結びつけようとしないのか。実はアマゾンのこの判断に同社の遠大な戦略が見え隠れする。

 これまでネット上の主要ビジネスモデルといえば、ポータルだった。これまでは、ネット上に必要な情報がなかったり、あってもどこにあるのか分かりにくかった。そこでユーザーの情報ニーズの最大公約数を収集してくるのが、ポータルの仕事であり付加価値だった。

 ところが検索技術の発達で、必要な情報に的確にたどり着けるようになってきた。検索エンジンから、ポータルやウェブサイトの頭越しに情報やサービスに直接アクセスできるような時代になってきた。検索エンジンがポータルに代わる主流ビジネスモデルになろうとしているわけだ。

 アマゾンはこの時代の変化に気づいている。だから時代遅れになろうとしているショッピングポータルの機能強化策の1つとして使わずに、独立サイトとして運営しようとしている。だから今は物販を強調せずに、まずは利用者増加を目指し検索エンジンの首位の座をつかもうとしているのだ。

 A9は、完璧だと思われたグーグルの技術に、ユーザーインターフェイスという部分でまだ改良の余地のあることを示してくれた。今後はマイクロソフトとヤフーが開発中の検索技術を披露してくれる番だ。この分野の技術革新は今後、一層加速度を増すことになりそうだ。(湯川鶴章)
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