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米ネット業界で旅行業競争が勃発 AOLやヤフーが参入

2005/02/07 21:32

週刊BCN 2005年02月07日vol.1075掲載

 米メディア大手タイム・ワーナーのインターネット部門、アメリカ・オンライン(AOL)は、旅行業界への進出を表明し、業界に大きな衝撃を与えている。時を同じくして検索サイトのグーグルやヤフーもこの分野への本格的な参入を果たした。すでにいくつかの有力な業者も存在し、またネット普及前から事業を行ってきた従来からの旅行業者も含め、厳しい競争が始まることになりそうだ。

 AOLが旅行事業に本格的に参入しようとしている。AOLはネット旅行代理店「カヤック」を買収し、本格的にネット旅行事業に進出してきた。また同時期にヤフーも旅行情報提供会社のフェアチェイスと提携し、この分野での地位確立を目指している。

 実はこれら新規参入組の事業形態は「旅行検索エンジンサービス」。チケット販売などの旅行関連業務を請け負う「旅行代理店」ではない。サービスの中心は、格安の航空運賃やホテルの宿泊費のディスカウント情報など、ネットで集めることができる各種の価格情報を一覧表示すること。実際の商品の販売で収益を出すビジネスではない。したがって、広い意味では従来の旅行代理店と直接競合するわけではない。提供するサービスだけ取り出してみれば、プライスラインを始め、トラベロシティやエクスペディアなどと同じものであることが分かる。

 AOLやヤフーの進出が驚異となるのは、まず第1にはインターネット上の旅行サイトということになる。旅行サイトは、各社独自のルートを使ってホテルや航空会社と提携し、低価格で提供している。従ってそれぞれのサイトによって価格が大きく異なる場合が少なくない。多くの利用者は複数の旅行サイトを見比べた上で最終的に購入しているという。また、これまでの旅行サイトの利用者は、検索して望みの商品を見つけた後に、まずそのサイトで予約金を支払う必要があった。そしてこれが彼らの収益となっていた。

 ところがAOLやヤフーはこれらのサービスを無償で提供する。自社サイトのより一層のポータル化を周知徹底させるのが目的なのだ。検索後にはすぐにそのデータの発生元となったサイトへジャンプさせており、結果として人件費が浮く分を価格に反映。より低価格での提供を可能としている。

 一方旅行専業サイトは、検索サービスを無償にした場合、必ずチケットや宿泊の販売に結びつけないと利益が確保できない。他社よりも魅力的な価格設定は利益幅の圧縮に直結し、これは本末転倒だ。最初に手を付けるべき具体的な対抗策は、更なる低価格での仕入れということになるが、これは大量販売を実現しなければ難しい。低価格で卸すことは最終的には航空会社やホテル側にとってのメリットも少なく、お互いが相容れないケースに発展することも多い。

 また、いくつかの格安航空会社はこれまでネット旅行業者に特別な優遇措置を取っておらず、これらの点でもAOLやヤフーの参入メリットとされている。

 現在のところ、QIXOは検索サービスそのものにも課金を行っているが、他は一切無料の方針を維持している。しかし彼らが手にするバックマージンだけでは早晩経営は厳しい状況に置かれる可能性が高いという意見が一般的。AOLとヤフーはそれらを踏まえての進出ということのようである。

 もちろんポータルサイトとしては有名なAOLやヤフーが旅行業でも通用するかどうかは未知数だ。もし成功すれば、エクスペディアやトラベロシティは共同で旅行検索サイトを立ち上げるのではないかとも見られている。また彼らは検索サイトの自動巡回を拒否するシステムも準備し始めている。

 ある調査によると、旅行を希望する人のうち、オンラインでの購買は20%にも満たず、検索サイト上位6社の合計も0.5%以下だという。現在でも従来型の旅行代理店が販売拠点の中心ということが分かる。このため、最終的にはオンラインショップの多くが従来からの企業のオンライン版、いわゆる「クリック&モルタル」に席巻されてしまったように、旅行業も同様の道を辿るのではないかと見る向きもある。いずれにせよ本格的な争いはこれからであり、今後も更なる企業の進出と新しいビジネスモデルの出現が相次ぐだろう。(NYCOARA, Inc.)
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