中国政府が国策として「オープンソースソフトウェア(OSS)」の推進を打ち出してから数年が経つ。OSSの中心であるLinuxも市場を拡大している。だが、需要の中心は公共セクターで、それも全体から見れば微々たるもの。政府機関の中でも敢えて米マイクロソフト製品を選択する動きすら出ている。国策OSS推進の真意はどこにあるのか。

 2月28日から3月4日の5日間、「チャイナOSSウィーク 2005」が北京市内で開催された。中国のIT関連団体、政府機関が主催した中国では初となるOSS専門カンファレンスだ。

 会期中には、Linuxディストリビューションの一種「Debianプロジェクト」のリーダー、マーティン・ミクルメイヤー氏が訪れ、アジアで初めてDebianコミュニティーを開催。急成長するウェブブラウザ「ファイアーフォックス」を提供する米モジラ財団の会長、ミッチェル・ベーカー氏も講演を行った。

 国策としてOSSの普及に力を入れる中国だけに、同カンファレンスにはOSS業界の主要人物が集まり、中国国内では高い注目を集めていたようだ。

 実際、中国のOSS市場は拡大している。中国のIT専門調査会社、CCIDコンサルティング(賽迪顧問)が2月に発表したレポートによれば、Linuxベースの商用ソフトウェアの売上高は2004年に約1億元(約13億円)と、前年から44.8%増加している。

 IT企業コンソーシアム「中標軟件」は、米サン・マイクロシステムズから技術供与を受け、LinuxベースのOSとオフィス「ネオシャイン」を販売しており、黒龍江省など地方政府が採用している。「紅旗Linux」を擁するレッドフラッグソフトウェア(北京中科紅旗軟件技術)のクリス・ツァオ社長は本紙(3月14日号)のインタビューに応えて、「中国では多くの企業がLinuxに移行している」と自信を見せる。

 だが、OSSの中心的存在であるLinuxでさえも市場全体から見れば、規模はわずかなものだ。同じCCIDのレポートよれば、OS市場におけるLinuxの占有率は04年で2.2%、前年より0.5ポイント上昇したに過ぎない。

 Linuxの場合、無償製品を利用しているユーザーも多く、商用製品の市場占有率だけでは判断できないが、中国政府の“掛け声”ほどに普及していないのは確かだろう。

 それはLinux市場のセクター別シェアからもうかがえる。政府機関の30.7%をはじめ、通信事業者12.3%、教育機関10.9%、金融機関10.0%という構成だ。政府が意向をかけやすい公共セクターのシェアが大部分を占めており、一般企業への普及は進んでいない。

 ただ、中国では依然、GDP(国内総生産)の70%を生み出すのは国営企業であり、もし政府が本気でOSSを推進しているなら、Linuxの市場占有率がもっと高くなってもおかしくない。

 中国ソフトウェア業界の関係者はこう推測する。「政府は国防関連や一部政府機関にセキュリティレベルの高いOSSを適用したいと考えているが、一般にまでOSSを本気で普及させるつもりはないし、できるとは思っていない。OSS推進を前面に打ち出しているのは、あくまでもマイクロソフト、インテルへの交渉カードとして使うため」。

 確かに、政府機関においてもOSS推進は一枚岩ではないようだ。

 北京市が昨年末に行ったソフトウェア製品調達(総額3000万元=約3億9000万円)は、大部分がマイクロソフト製品で占められていた。レッドフラッグなど国内ベンダーから反発を受け契約を白紙に戻すものの、結局、「公表していないが、当初の契約通りマイクロソフトから購入している」(業界関係者)と言われる。

 OSS推進を打ち出すことで、マイクロソフト、米インテルから譲歩(直接投資)を引き出す一方で、米IBMやサンなどOSS推進派の関心も引きつけられる。そして国内ベンダーにもある程度競争の余地を確保してやれる。このような考えがあるかどうかは不明だが、中国政府が今後、「OSS推進」という手綱をどのように使うか注目される。
坂口正憲(ジャーナリスト)