アップルコンピュータの「iTunesミュージックストア」を中心にまわっている感のある米国の音楽配信サービス業界だが、ここに来て少し面白い変化が出てきている。音楽小売大手のバージンやポータル大手のMSNなどの既存業者に加え、新たにヤフーが参入を発表。さらにリアルネットワークスなどを中心に定額無制限の契約型サービスが広がっている。

 著作権問題を壁に、なかなか立ち上がりを見せなかったインターネット経由での音楽配信事業を最初に成功させたのは、アップルコンピュータが提供する「iTunesミュージックストア」だ。

 米アップルが5月に発表したリリースによれば、同ストアからの楽曲のダウンロード数は世界中の総計で4億に達し、業界でのシェアは70%以上になるという。携帯音楽プレイヤーとしては9割近いシェアを誇るといわれるiPodと合わせ、同サービスの利用者が日々増加しているのが現状だ。iTunesミュージックストアは、欧州にも広がりを見せつつあり、日本でも2005年中のサービス開始が予定されている。

 iTunesの成功は、音楽配信市場の潜在的可能性を示すもので、多くの事業者はここにビジネスチャンスがあると考えている。検索ポータル大手のMSNは昨年9月、音楽配信サイト「MSNミュージック」のベータ版を立ち上げ、iTunesと真っ向から対抗していくことを表明した。iTunesと同様、MSNも世界中にその拠点を増やしつつある。そして同月、音楽CD販売小売店「バージンメガストア」を展開する英バージングループも音楽配信事業への参入を表明している。

 しかし、これでiTunesが築いた地位がそう簡単に揺らぐものではない。同社の音楽販売本数はこの半年から1年ほどで急激に増加。市場全体の拡大に合わせて、むしろそのひとり勝ち状態が進んでいる印象さえある。iPodという武器を持ち、1曲99セントという低価格でサービスを提供している同社に対抗するためには、楽曲のラインアップの充実と同時に、価格戦略で大きくアドバンテージをとらなければならない。

 そのなかで登場したのが、米ヤフーが5月11日(米国時間)に発表した音楽配信サイト「ヤフーミュージック」のベータ版だ。基本的には、iTunesやMSNなどのサービスと同じだが、1点だけ大きな違いがある。それは、月額料金を払えばダウンロードが無制限に行える「サブスクリプション」と呼ばれる契約型サービスを導入している点だ。

 例えば、月額6ドル99セントを支払えば、その月はいくらでも好きな曲のダウンロードができる。これを年間サブスクリプションの59ドル88セントで契約すれば、月あたりの支払額は4ドル99セントにまで下がる。サブスクリプションにより無制限ダウンロードが可能になるため、同社では「アンリミテッド」という名称で同サービスを呼んでいる。

 同様の無制限ダウンロードサービスは、リアルネットワークスの「ラプソディ」やナップスターも提供しており、1つの動きになりつつある。特にヤフーのサービス価格は、同じ無制限ダウンロードサービスを提供する他の2社の半額となっており、競合を意識したものとなっている。

 だが、サブスクリプションには1つのネックがある。ダウンロードした音楽ファイルにはDRM(デジタル著作権管理)による著作権プロテクトがかかっており、サービス契約を中止した時点ですべてがただのファイルの塊となってしまう。つまり、ダウンロードした楽曲を継続して楽しみたければ、毎月料金を継続して支払わなければならない。また、楽曲をパソコン以外の機器で楽しんだり、恒久的に保存しておきたいという人もいるだろう。その場合、ヤフーなどのサービスでは楽曲1つあたり99セントで購入するというオプションも用意されている(ヤフーアンリミテッドの契約者は79セント)。

 だが実際のところ、楽曲を購入した段階でiTunesとの価格差はほとんどなくなってしまう。もしこの分野に流動化が起こるとすれば、サブスクリプションがどの程度ユーザーに受け入れられるかが1つの試金石になると考えられる。(鈴木純也)