現在、米国の通信業界で注目されている1つのキーワードがある。それが「トリプルプレイ」だ。従来までの通信では、電話は電話、データ通信はデータ通信と別々のネットワークを構築していたが、トリプルプレイが実現すると、単一のネットワーク上で「音声、テレビ、データ」の3種のサービスが提供できる。そのカギを握るのがIPだ。

 「音声は音声専用のネットワークで」、「データ通信はデータ通信専用のネットワークで」──。それがこれまでの米通信業界のサービス提供に対するスタンスだった。つまり通信事業者は新サービスの展開にあたり、従来まで存在していた音声通話用のネットワークはそのままに、新たに別のネットワークを施設するのである。

 しかし、これでは施設の維持費ばかりがかさんでしまう。通信サービスの分野では年々コスト競争が進んでおり、ブロードバンド対応やオンデマンドビデオ配信など、新たなサービスを迅速に提供できるスピード経営が求められている。

 そこで登場するのが「トリプルプレイ」である。音声、テレビ、データという3つのサービスを1つの高速なバックボーンネットワーク上にのせ、ユーザーに提供するのだ。別々のネットワークではなく、単一のバックボーンという点がポイント。ユーザーの視点からみれば、提供されるサービスがどのような仕組みで動いているかはあまり意識しなくて良い。しかも事業者にとっては、単一ネットワークへの統合でコスト削減を実現できるというメリットがある。

 トリプルプレイの実例を見てみよう。CATV(ケーブルテレビ)事業者が、本来のテレビ配信以外にインターネット接続サービスや電話サービスを提供しているケースがあるだろう。これがトリプルプレイだ。また最近では、地域系電話会社が電話やDSLサービスを提供すると同時に、テレビ配信の実験サービスを提供するケースも増えている。サービスプロバイダが、インターネット接続サービスを提供すると同時に、IP電話やテレビ配信サービスを行う場合もあるだろう。トリプルプレイの世界では、事業者が既存のブロードバンドインフラを活用しつつ、それまでの事業者の垣根を越えたサービス提供が行われるようになる。

 ユーザーはこれら3つのサービスの利用にあたり、別々の事業者と契約したり、複数のインフラを引く必要がなくなる。トリプルプレイはユーザーがより高品質で低価格なサービスを利用できるチャンスにもなる。

 トリプルプレイを実現する技術として注目を集めるのがIPだ。TCP/IPなどの表記でおなじみのこの技術は、コンピュータの世界を中心に発達してきた。そしていま、通信事業者のネットワークを大きく変革する中核技術になろうとしている。

 これまで通信事業者の音声ネットワークは、TDM(時分割多重)という方式が主流だった。これをデータ通信で用いられているIPベースのネットワークへと順次統合するのである。例えば、カナダ最大の通信事業者であるベル・カナダでは、フレームリレーやATM、専用線といった従来型のサービスメニューを2006年までにすべてIPベースのデータ通信サービスに1本化し、大幅なコスト削減を表明している。

 インターネット黎明期の90年代前半は、リアルタイム通信に向かないIP技術をこうした用途に利用するのは夢物語だったが、バックボーン向けの技術としてMPLS(マルチプロトコルレーベルスイッチング)が登場し、音声通話などの伝送の遅延が致命的となるデータを優先的に転送するQoSの技術が確立したことで、IPネットワーク上でも高品質の電話サービスの提供が可能になった。さらにマルチキャストやユニキャストなどの技術の登場で、IPネットワーク上でテレビ放送を流すことも容易になりつつある。

 ここ2-3年、米マイクロソフトは「IPTV」というIPネットワーク上でテレビ放送やビデオオンデマンドを配信する技術を積極的に推進しつつある。05年初頭に米ネバダ州ラスベガスで開催された家電の総合展示会「インターナショナルCES」では、地域系電話会社のSBCコミュニケーションズとの提携によるIPTVのデモを披露している。(鈴木純也)