【上海発】7月18日、マイクロソフトの世界副総裁である李開復博士が退職し、グーグルの副総裁兼グーグルチャイナ総裁に就任することがわかった。マイクロソフトアジア研究所での経営経験を生かし、グーグル中国エンジニアリング研究所にも携わるという。このニュースはたちまち世界中のIT業界に波及した。マイクロソフトで中国人の中でも最高位の役職に就いていた李博士は、なぜグーグルを選んだのだろうか。報道陣の取材および「開復学生網」(http://www.kaifulee.com/)に掲載されている李博士の文章を元に、今号と次号の2回にわたり考察してみたい。

インターネット覇権争いの様相

■退職を後押しした3つの理由

 李博士は、アップルコンピュータ副総裁、SGI副総裁を経て、1998年にマイクロソフトに入った。中国に派遣されてマイクロソフト中国研究所(後にアジア研究所に昇格)を設立し、世界中から優秀な中国人科学者を集めて目覚ましい業績を上げた後、00年7月に世界副総裁に昇進している。音声認識分野で世界的な注目を浴びた実績を持っていることで有名なコンピュータ科学者としても知られており、IEEE(電気電子学会)会員でもある。

 李博士の退職理由としては、「グーグル要素」、「中国要素」、「マイクロソフト要素」の3つが考えられるだろう。グーグルの文化(次世代技術、革新精神、誠実信念、公衆利益の追求、情熱、自由+透明度)に感動し、自分をもう1度見つけたいと李博士が思っている、これが「グーグル要素」。

 「中国要素」としては、李博士は常に中国で働きたいと言っていること。米国の大学で助教授をしていた経験のある李博士は、中国にいた時に若い学生達と活発に会話し、講演も行っていた。「中国には優秀な青年がいる。中国の未来は学生らにある」とも発言していた李博士が開設した「開復学生網」は、学生との会話の窓口を開くことを目的に作られたものだ。また、台湾出身の李博士には「中華コンプレックス」があるとも言われている。

 さらに、ゼロからものを作ることが大好きという李博士にとって、中国にこれから進出するグーグルの事業展開には相当興味を惹かれたことだろう。一方でマイクロソフトのビジネスはすでに軌道に乗っており、ルーティンワークが多く、1からスタートするという面白味に欠ける。これが「マイクロソフト要素」になると推測される。

■裁判所はMSの主張認める

 しかし、グーグルチャイナへの転職の道は平坦ではない。7月19日、マイクロソフトは李博士の雇用を巡り、グーグルを提訴した。同日、グーグルは李博士雇用を正式に発表した。米ワシントン州キング郡の上級裁判所に提出した訴状で、マイクロソフトは、李博士はマイクロソフトに雇用された際に結んだ競合禁止契約に違反していると主張している。

 8月1日に、裁判所はマイクロソフトの主張を認め差し止め命令を下した。李博士がグーグルで特定の領域での業務に携わることを禁じるとともに、グーグルが李博士をそれらの領域について雇用することを禁じている。

 同命令では、禁止業務として、コンピュータ検索技術、自然言語処理技術や音声技術などを含む、李博士がマイクロソフトで携わった製品、サービス、プロジェクトと競合するすべての業務や、中国向けコンピュータ検索技術市場での事業戦略、事業計画、事業開発にかかわる業務を挙げている。また、差し止め命令はこのほかに以下のことを命じている。

 ①グーグルと李博士は、同氏がマイクロソフト在籍中に得た同社の企業秘密や機密情報、専有情報を公開または使用してはならない、②李博士はマイクロソフトの従業員に、グーグルを含む競合他社への転職を勧めたり、促したり、説得しようとしてはならない、③グーグルと李博士は、同氏のマイクロソフトでの担当業務に関連する文書を持っている場合はすべてマイクロソフトに返却する必要があり、同氏のマイクロソフトまたはグーグルでの担当業務に関連する文書を一切破棄してはならない。

 この訴訟の裁判は来年1月に開始される予定だが、両社は9月6日に裁判所に出頭することになっており、グーグルがその際に今回の差し止め命令に異議を申し立てる可能性もある。
(魏鋒(ウェイ・フェン=ACCS上海事務所担当))