米国のIP電話サービス業界で加入数最大を誇るボナージュ(NJ)が、秋の新規株式公開(IPO)に向け動いている。調達目標は4-6億ドル。この報道に続き、8月末にはグーグルがIM(インスタントメッセージ)&音声サービスの試験開始を明らかにした。一方、マイクロソフトはテレオ(SF)を買収。IP電話業界の覇権争いはいよいよ本番を迎えそうだ。

 ニュージャージー州に近々本社を移転する予定のボナージュは2001年1月創業。派手なテレビ広告を流すことで知られ、ブランド認知度はかなり高い。米国内に加入者約80万人を抱えており、年内100万人突破を目指す成長企業だ。

 IPOレースの先頭集団では、同社の他に加入数順にタイムワーナー・ケーブル(約60万人)、ケーブルビジョン・システムズ(約50万人)と続く。

 さらに大西洋を渡った欧州ルクセンブルクに本拠を置くスカイプは、初期ナップスターの閉鎖後しばらく、検索キーワードランキング世界トップの座を欲しいままにした人気PtoPソフト「Kazaa(カザー)」の開発者たちが新たに手掛けたVoIPサービス企業。パソコン同士の無料通話には約5100万人、パソコンと固定電話や携帯電話を結ぶ有料通話には約200万人が加入しており、「米国のVoIP通話の45%はスカイプ経由」(同社)という。

 このようなVoIP勢力の台頭を待つまでもなく、米国はケーブルと携帯電話に押され、ローカル電話会社と長距離電話会社の収入は00年のピークを境に下降線をたどっている。

 ケーブル会社が光ファイバー網から放送・ブロードバンド・電話の一体型サービスを提供すれば、電話会社は固定電話を維持しながら携帯電話サービスも利用できる新プランで対抗するなど、サービスと価格の両面で激しい戦いを繰り広げているのだ。

 ただでさえ小さくなるパイの奪い合いに数年前からVoIPのベンチャーが加わり、既存電話会社やケーブル事業者は嫌でもVoIP開始の必要に迫られてきた。VoIP加入で得られるサービス収入は既存の回線電話に比べ1人最大10ドル分も安い。しかし、「薄利でも加入者流出よりはマシ」というのが、今の電話業界全体を覆うムードだ。

 米調査会社テレジオグラフィーによれば、既存電話会社にVoIPの各種サービスを提供する米国のプロバイダ各社が今年第1四半期(05年1-3月期)時点で獲得した通話加入数は合計180万人。この数字は来年末までに700万人、2010年には1750万人と、今後5年で10倍に膨れ上がることが予想される。

 逆に斜陽化が進むのが固定電話。その収入は今から2010年までに25%下がる。単なる予想だが明暗の行方はほぼはっきりしている、そう見て良さそうだ。

 豊富な資金力を持つマイクロソフト、グーグルなど大手の動きも気になるところ。両社に先立ち、6月にはヤフーもIP電話サービスのダイアルパッド(カリフォルニア州ミルピタス)を買収している。

 まさに目の前で次代の電話サービスの主流争いに向け再編が進んでいるわけだが、激震の発信源VoIPにも弱みはある。「緊急ダイヤル911(日本の110番と119番に相当)」に100%繋がる保証が無いことだ。

 米連邦通信委員会(FCC)は、「停電などで間違いなく繋がるのでなければ、通信事業者に課された社会的責務を果たしていることにはならない」とし、「VoIPは911が繋がらないこともある」と全顧客に電子メールで通知した上で9月28日の期日までに確認合意が得られなかった顧客はサービス停止とするようVoIP各社に求めた。

 ボナージュ広報のブルック・シュルツ氏はAP通信に対し「もう96%以上は承諾済み」と語ったが、このIPO前夜の重要な時期に4%のロスは痛い。

 今後数か月のうちにIPOでライバルに差をつけ、大手の攻撃に備えたいボナージュ。思惑通りにいくだろうか。証券引受人はドイツ銀行証券、シティバンク・グローバルマーケット等。(市村佐登美)