【上海発】本紙8月29日号および9月5日号で、米マイクロソフトの世界副総裁である李開復博士のグーグルへの「転職事件」をレポートしたが、9月13日、ワシントン州裁判所の公聴会でこの競合禁止契約違反訴訟の判決が言い渡された。その結果、李博士は直ちにグーグルに就職できるが、仕事の範囲が限定されることとなった。中国で人材採用や営業許可を得るための活動には携われるが、情報検索と音声認識に絡む研究や、グーグル中国の予算作成、従業員待遇決定、グーグルの中国における研究方向決定などへの参画は禁じられる。

 李博士は中国ではとても著名で、特に大学生達に人気があるため、新規ビジネスを展開するに当たってのキーマンだが、「1000万ドルの年俸の割には間違いなく史上1番の高給取りの“人事マネージャー”だ」と冗談を言う人もいる。マイクロソフトもグーグルも、裁判に対して満足の意を表した。特に今の李博士にとっては、いち早く新しい仕事に赴任できることが何よりのメリットだろう。訴訟は終わったわけではないが、少なくとも来年の最終裁判まで新しい仕事に携われるのだ。

 判決の5日後、グーグルの人材採用のために北京に飛んだ李博士は、現地の報道陣を前にこう語った。「まず、各大学に行って講演を行い(9月23日に北京大学、26日に清華大学)、そして各地のプログラミングの達人に面会する」。来年1月までに50人の研究員を採用し、グーグル中国研究員の雛形を作る。「中国をソフトウェア工場ではなく、世界一流の実験室にすることが目標だ。10年をかけて100人ほどの世界一流の科学者を育て、Gmailのようなすばらしい製品を作れるようにする」。

 近年、グーグルの影響は急速に広がっている。魅力的な会社文化がアピールされており(李博士も利益だけのためではないとコメントしている)、世界中にグーグルファンがたくさんいる。特にグーグルの革新力が褒め称えられている。ウェブ検索はいうまでもなく、続々と発表されたGoogle Toolbar/Sidebar、Google News、Gmail、Desktop Search、Google Talk、Google Earth、Google Maps、Picasaなどによって、あらゆる検索の力を極限まで発揮しており、大勢のユーザーから高い評価を受けている。「Google OSを出したら?」と冗談半分でアジテーションする人もいるぐらいだ。

 マイクロソフトの立場から見ると、人材が引っ張られていることと、従来自身が統治してきたデスクトップ分野(バックヤードに違いない)に進出されていることから、グーグルの勢いは止めなくてはいけない脅威だ。グーグルの拡張の勢いに脅かされているのはマイクロソフトのみではない。中国でも検索分野の競争が激しい。ヤフーは再びサーチエンジン開発に重点を置き、全面的な対決のために力を蓄積している。この間、ヤフー中国はアリババとの合併(本紙9月12日号でレポート)で競争力強化の動きを見せている。

 しかし、実は中国でのグーグルの1番の競争相手はこの2社ではなく、グーグルと同じビジネスモデルを取っている百度(http://www.baidu.com/)だ。百度の業務は中国国内に限られているうえ、製品ラインも少ない。先日のIPO(株式公開)はうまくいったが、グーグルと比べたらはるかに弱い方だ。グーグルは、買収のオファーを百度に拒絶された後に、独自に中国業務を展開する企画を立て、李博士のような人材を探し始めたという説も聞く。なお9月14日、前述の判決のせいか、百度の株は28%下がったという。今後、サーチジャイアントとの競争に直面して、百度はどのような対策を講じるだろうか。

 李博士の能力や経歴から分析してみると、彼の力は①政府関係(長年の職歴からできた人脈)、②人材採用(教育者としての親和力)、③技術開発、④企業文化作り(グーグルの文化+李博士特有の魅力)、⑤マーケティング──という5つの面でグーグル中国に対する貢献が期待できるだろう。
魏鋒(ウェイ・フェン=ACCS上海事務所担当、shanghai@accsjp.or.jp)