【上海発】中国が抱える知的財産権問題といえば、まずは海賊版や偽ブランドなどに象徴される著作権や商標権侵害に関する事柄が頭に浮かぶ。しかし中国のテレビ関連業界は、まったく別の「知財」問題を抱えているようだ。はたしてその問題とは。

 中国の大手カラーテレビメーカー「廈華電子(Xoceco)」の曾慶将・副総経理が最近、中国メディアにこうこぼしたという。

 「海外メーカーが保有するFDP(フラットディスプレイパネル)テレビ製造関連特許は主要なものだけでも数十件にのぼり、私たちは1台あたり20ドル前後のライセンス料を彼らに支払っている。コストを押し上げている最大の要因であり、これがある限りはコストダウンにも限界がある」

 中国では2005年、約400万台のフラットテレビが製造された。1台あたり20ドルという金額が正しければ、中国メーカーは昨年、8000万ドル(約94億円)の特許料を支払ったことになる。今年は生産台数が大幅に増え、したがって特許料支払いもさらに大きく膨れ上がることになるのは明らかだ。

 このような状況にある以上、中国メーカーの関心が「いかにライセンス料の支払いを避けるか」という点に集中するのは当然のことだ。ソフトウェア、ハードウェアから意匠まで数千もの知的所有権が存在するといわれるHD(高精細)テレビに至っては、なおさらである。

 なかでも、コアとなるICチップには、コード技術や音声映像技術などをはじめとする基本特許の60%以上が凝縮されている。中国の有力メーカーが近年こぞって独自にチップを開発しだしたのはそのためだ。長虹(チャンホン)の「虹芯(虹チップ)」、海信(ハイセンス)の「信芯(信チップ)」、廈華(Xoceco)の「炎黄一号」、創維(スカイワース)の「V12デジタルエンジン」などがすでにリリースされている。各社とも、コア技術で競争力を確保することによって、海外メーカーの知的所有権の塊であるコアチップの輸入に依存してきた長い歴史を終結させたいと願っているのである。

 しかし中国機電産品進出口商会AV産品分会の幹部によれば、中国メーカーのいわゆる独自チップは特定製品専用あるいは特定地域専用であり、汎用性は低い。しかも05年に生産されたFDPテレビ400万台のうちの半数以上が輸出向けであり、独自チップはほとんど使用されていない。したがって中国のテレビメーカーは、海外に対するライセンス料の支払いから容易に逃れられそうにない。

 もちろん中国が独自で開発した関連技術がないわけではない。「北京五輪は独自の技術で」を合言葉に、中国の業界が英知を結集して構築したデジタル映像コード標準「AVS(Audio Video Coding Standard)」がその代表だ。もしMPEG2をコード標準として採用すれば年間少なくとも12億ドル(約1400億円)もの特許料を支払わなければならないが、AVS標準なら、製品1台あたりわずか1元(約14円)程度の特許使用料ですむという。

 ところが、新たにデジタルチャンネルを開設した「中央電視台(CCTV)」はAVSではなく、MPEG2の採用を決定した。今後は海外のデジタルテレビ番組コンテンツも数多く放送していく方針であることから、世界的に広く認知されているMPEG2を使用すべきだという判断がなされたようだ。

 中国が抱える「知財」問題といえば、まずはソフトウエアの「海賊版」などに象徴される著作権や商標権侵害に関わる問題が頭に浮かぶ。しかしテレビ関連業界にとって頭の痛い「知財」問題といえば、いつ果てるとも知れないライセンス料支払い問題にほかならない。森山史也(サーチナ総合研究所)